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インターミッション 2.5

ロタリンギア宮中伯領の成立と展開

帝国科学アカデミー史籍部編纂ファルツ選帝候編より抜粋


ロタリンギア宮中伯家の興りは、新世紀第2期星系大航海時代の終わり頃とされている。

宮中伯とは伯爵位の一つではあるが、元々は遠方で星系開発をしているため母星の目が届きにくい勢力(具体的には辺境伯を指す)に対して、その行動を監視する役割をもった母星に由来する爵位であった。

古代母星の極東地区に存在した国家”EDO”の官職で例えれば、”大目付”とでも言うべきだろうか。

ロタリンギア宮中伯家が星系領主として自立したのは、新世紀第3期星系抗争時代の中期、帝国成立から遡ること700年ほど前になる。

その後名門ファルツ公爵領を継承し、5大星系領主の一つと認められたのは帝国成立の僅か200年前に過ぎず、5つの選帝候領の中では一番新しい伯爵領であった。


星系領主となる前のロタリンギア宮中伯家には、支配する星系は一つしかなく、現在領域としている星系の三分の一程は、元々マリーエンブルク辺境伯領であった。

ロタリンギア宮中伯家はマリーエンブルク辺境伯領近くにあったが、母星系の飛び地としてその基盤を固めつつも、長年マリーエンブルクの動向を母星に代わって見張る役割を担っていた。

星系解放戦争時には、ロタリンギア家は他の大領主家に対し中立を宣言し、母星の敗北と同時に独立を果たしたものの、対外的にはマリーエンブルクの属領扱いであった。

その後星系抗争時代も中期に至り、当時のマリーエンブルク辺境伯領は三方向に有力な敵勢力を抱え、地政学的には不利な状況にあった。

マリーエンブルクは自領の後背を守る勢力を必要としたので、独自に勢力を拡大しつつあったロタリンギア家に対して同盟を持ちかけ、近隣の星系をいくつか割譲する代わりに自領の後背を守らせることとした。

星系大領主の一つとして数えられる、ロタリンギア宮中伯領の成立はこの時にあるとされている。

しかし当時のロタリンギア領は、まだ中規模勢力の星系領主の一つに過ぎなかった。

その後マリーエンブルクとロタリンギアの同盟関係は、マリーエンブルク領周辺の戦況好転により解消されたものの、友好関係はその後も継続していた。


星系抗争時代の終わり近く、ロタリンギア宮中伯領と隣接した星系宙域に、ファルツ公爵領なる比較的大きな星系領主家領があった。

ファルツ公爵家は母星時代から続く名門の星系領主家であったが、時のファルツ公爵がある日突然として亡くなってしまった。

公爵にはたまたま子供がおらず、何故か後継者も指名していなかったので、当然の如く旧公爵領の相続を巡って親族間で大きな争いが巻き起こった。

後世に言う、有名な”ファルツ継承戦争”である。

ロタリンギア宮中伯家も、ファルツ公爵家と近い外戚関係にあったため、傍系の子孫を擁立して後継争いに参入した。

この戦争は、当時の星系大領主の全てを巻き込んだ、帝国成立前最後の大戦となった。

この戦乱は30年ほど続き戦闘は熾烈を極めたが、その結果後継候補となる傍系子孫の全てが戦死すると言う思わぬ事態に至る。

それで已むなく有力星系大領主達の主導で、一時停戦の発効と旧公爵領継承についての講和会議が行われる事になった。

旧公爵領の継承については、有力な星系大領主の間で激しい論戦となったが、最終的には残った親族の中で一番関係が近かったロタリンギア宮中伯に、ファルツ公爵領の継承を認める事で落ち着いたのだった。

多数派の大領主たちは、お互いの勢力バランスを崩すよりも、新たな大領主家の誕生を選択したのだ。

これによりロタリンギア領は、ファルツ=ロタリンギア宮中伯領となり、5番目の星系大領主家の地位を獲得するに至った。

その200年後の帝国創立時には、ロタリンギア宮中伯は名門ファルツ公爵家の後継領主として”ファルツ選帝候”すなわち、5大選帝候のひとりとなったのである。


ところで、ロタリンギア宮中伯がファルツ公爵領を承継するにあたって、最後まで反対したのがマリーエンブルク辺境伯であった。

辺境伯としては、ロタリンギアが自領に従属する中規模星系領主として存在するのは問題なくとも、自身と対等規模の星系大領主となるのは、星系戦略上歓迎出来なかったのだ。

しかし実のところ、それらの状況こそがマリーエンブルク以外の3大領主家が狙うところであった。

他の大領主家は、星系の辺境地域にて開発星系を増やし勢力の拡大を続けるマリーエンブルク領を警戒していた。

それゆえにロタリンギア領を以て自分たちの盾となし、マリーエンブルク領に圧力を与えようと企図していたのだった。

尚も納得が行かないマリーエンブルクは、ロタリンギアに対し先に割譲した星系の返還を要求したが、ロタリンギアは当然ながらそれを拒否した。

これを機に、マリーエンブルク辺境伯領とロタリンギア宮中伯領の関係は急速に悪化する事となった。

これまでの友好関係は失われ、境界領域付近の星系の多くは係争地となり、両者は一触即発の敵対関係となった。

これらもやはりまた、他の大領主家の思惑通りの展開であったのだ。


帝国成立後、各選帝候領を取り巻く状況は一旦落ち着きを見せていた。

もちろん、各星系領境界域での小競り合いや小規模な紛争は、お約束の如く相も変わらず起こってはいたが、先のファルツ継承戦争の様な大規模で星系全体を巻き込むような大戦争は発生していない。

ところが帝国統一歴600年に至り、ロタリンギア宮中伯領とマリーエンブルク辺境伯領との間で、久々に大きな紛争が勃発した。

その後も100年以上に亘り、未だに戦闘状態が続くその紛争は”エレギオン戦役”と呼ばれている。

ロタリンギア領とマリーエンブルク領の境界領域、第22星系域内に”エレギオン”との名の惑星があった。

エレギオンが再発見された時、旧ロスト・コロニーであり既に先住人類種の生活領域となっていたため、帝国科学アカデミーは惑星エレギオンを研究保護区として中立地帯に指定する意向であった。

しかし、予てよりエレギオンに関心を持っていたロタリンギアとマリーエンブルクは、既に研究者と技術者をエレギオンに派遣し、調査研究をそれぞれ独自に行っていたため、一定の調査が完了するまではとエレギオンの中立地帯指定を承認しなかった。


そんなある時、マリーエンブルクの科学者がエレギオンで何かを発見し、母星系にそれを持ち帰ってしまった。

それを切っ掛けに、ロタリンギアによる惑星エレギオンの占領および領有が宣言され、それに猛反発したマリーエンブルクとの間で大規模紛争が勃発したのであった。

エレギオンに直接の利害関係を持たない、他の選帝候達はこの紛争を静観していた。・・・内心は密かに両者の共倒れを願って。

戦況は一進一退を繰り返したが、ロタリンギアは未だエレギオンの実効支配を保っていた。この100年間の長きに亘って。

時には皇帝の名による停戦の提案が、長期化する戦役の途中で何回かなされる事もあったが、当事者である二つの選帝候領は頑なに応じなかった。

そして、両者は何故そこまでエレギオンに拘って戦いを続けるのか、その理由を決して明らかにしなかった。

今以て惑星エレギオンが存在する第22星系は、ロタリンギア領とマリーエンブルク領が激しく対峙する最前線であった。

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