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インターミッション 1.5

「星系軍の成り立ちと軍編成の変遷」

・・・マリーエンブルク星系軍大学校 軍史研究科教本から抜粋


星系軍の成立は、新世紀第2期-星系大航海時代の初期頃だとされる。

当時新たな星系へと飛躍を始めた植民地惑星の豪商達は、自衛のために傭兵を雇い自らの私兵とした。豪商達の私的な傭兵軍、これが原初星系軍の起こりである。

豪商達は時の権力者達からの叙任を受け貴族階級となったが、傭兵軍はそのまま彼らの私兵として保持されていた。

続く植民地星系解放戦争の時代。

貴族達の私兵軍は、星系解放戦争遂行の必要から整備統合組織化されて、最終的には星系領主が統括する現在の星系軍の原型となった。

面白いことに、現在の5選帝候の時代においても、それぞれの星系軍を構成する軍団レギオンは貴族の私兵のままである、と言うことだ。

星系領政府直属の、全星系軍の人事権と指揮命令権を有する軍令本部以外の星系軍直轄の実力組織は存在しない。

それは他の星系領であっても概ね同じである。

星系軍個々の軍団レギオンは貴族に直接雇用され、軍令本部によって運用される。

星系軍組織とは貴族により所有される民間軍事会社の集合体であった。

当然ながら戦闘艦からアンドロイド兵や兵器装備から兵站に至るまで、軍需装備調達責任は基本的に軍団を所有する貴族自身にある。

貴族は各々が民間軍事会社や軍需関連産業を経営するオーナーであり、星系軍に現物出資する株主でもあるので、必ず軍に所属することが義務とされている。

見方を変えれば、個々に軍を私有出来る財力を持ち、星系領の発展に寄与する事こそが有力貴族のステータスとされた。

活動領域を広範囲な他の星系にまで広げたそれぞれの星系軍は、その行く先々で数多くの資源を発見し開発を進めた。

開発された惑星群は星系領全体の直轄領とされ、その後平民を中心とする技術者が多数移住し開発事業に従事し、貴族達自身は開発惑星の経営には全くタッチしていない。

つまりこの社会制度は貴族制社会ではありながら、貴族が所領としての惑星に封じられることもないので、通常の歴史的に理解されているような封建的社会ではない。

軍団の人事権と指揮権は初めこそオーナー貴族にあったが、他星系領との抗争激化により、全軍の統一的運用と言う効率化の必要性と無益な貴族間の私闘防止のため、星系領政府は星系軍の開発活動の結果得られる権益を開発貴族達に株主配当として渡す代わりに、彼らから軍団の人事権と指揮権を取り上げた。

皮肉なことにも、これは当の星系領主家さえ例外とされなかった。

彼らは絶対君主ではなかったので、領主家を含む貴族家からも独立した軍令本部が星系領政府内に組織され、軍の人事権と統率権を掌握したのだった。

星系領政府自体は、貴族全員からなる一院制の貴族院にて選出された行軍政府により運営されたので、この政治体制はある種の貴族制民主主義だと言えなくもなかった。

軍団の人事権と指揮権を失ったオーナー貴族達であったが、開発された星系領直轄地から得られる収益や戦果による配当は、軍団の貢献度に応じた利権として分配されるので、結果軍団はオーナー貴族達に莫大な富をもたらしていた。

すなわち現在の星系軍組織とは、支配者階級たる貴族達の生業なりわいとする確固たるビジネスモデルであって、彼ら一族の収入の根幹をなしていたのである。


星系軍軍令本部はそんな貴族達の私的軍団を、星系全体の利益ために統一的に指揮運用する唯一の星系領政府の直轄軍事組織として存在した。

軍令本部は星系軍全体を統括するエリート貴族集団であり、その内部には参謀部と人事局を持つ。

参謀部は星系軍の戦略策定と作戦計画を立案し、作戦命令を星系軍の各軍団に示達する。

人事局は星系軍全体の軍団編成を行い、指揮官の登用と配置、戦果評価を行った。

星系軍による星系開発がもたらした資源と科学テクノロジー進展の結果、軍編成における一般兵員は人間からアンドロイドに置き換えられた。

一部の技術開発部門を除き、戦術統括AIが一般兵に求める資質は命令を確実に遂行する能力であって、頑強で大量生産可能なアンドロイド兵の方がひ弱で再生産が困難な人間よりも適していたからであった。

従って現在の星系軍編成において、人間の兵員は思考判断能力が求められる士官しょうこう以外は存在しない。

そしてその士官の構成は、星系軍の成り立ちからしても貴族階級のみであった。

軍団を構成する基本的軍編成は、現在では以下の通りとされてる。

最小単位は小隊で、1名のクローン士官と3体から4体のアンドロイド兵で構成される。5~7個小隊で1個中隊を構成し、5~10個中隊で1個大隊または1個軍団を構成する。

時空転移による直接戦闘時代から、アヴァタール戦闘方式に移行後も、軍の士官は貴族階級が永く独占していた。

しかし現在において、クローンの喪失による士官本体の喪失しぼうは、軍団と貴族家の存続にとっても最早無視できない問題となっていた。

星系開発のスピードに対し人類の人口増加スピードは完全に遅れており、ましてや元々総人口のわずか0.1%を占めるに過ぎない貴族人口は、出生率の低下もあって戦闘の激化により今や減少を始めていたのである。


他方星系資源開発と星系領経済の発展は、平民階級においても能力と財力に富んだ勢力と人材を生み出していた。

上昇志向に溢れる彼らは、これまで貴族階級が独占していた星系領経営の根幹をなす星系軍への参画を望んでいた。

人的損失に悩む貴族階層と、星系領経済開発参画への機会均等を望む有力平民階層の台頭。

そんな両者の利害を調整する政策として、統治立法機関である貴族院にて考案されたのが"準貴族"制度であった。

星系軍への参画を希望する有力平民層に対し、相応の金銭を星系軍に提供する事と引き替えに、一代限りの貴族身分を得て星系軍士官に登用される機会を与えたのだった。

軍務の危険は当然承知の上で、野心に溢れ相応の財力を持つ一部の階層にある平民達は、星系領惑星開発とその利権参画の機会到来を歓迎した。

こうして、星系軍における貴族士官の減少を補う形で、元平民の準貴族がその穴を埋めていったのだった。

星系軍は純然たる能力主義社会でもあったので、相応の戦果を上げた準貴族の中からは、星系軍での上位の地位を獲得する者も出てきたのだった。

他方軍団のオーナー貴族達においても、準貴族制度の導入については特段の不満はなかった。

"準"貴族達が提供する莫大な資金は、各軍団への配当としてオーナー貴族達の手に渡ったし、貴族達は自らのコネを駆使し危険な任務を回避して"準"貴族の連中に押しつけることも出来たので、彼ら自身が有力平民を星系軍に勧誘することすらあったぐらいだった。

現在のマリーエンブルク星系軍の構成において、準貴族層が軍に占める割合は既に全体の35%に達しようとしている。さらには、他星系との境界領域や紛争地帯での準貴族出身士官の割合は既に60%以上を占めていた。

こうして星系軍は本来の貴族士官をその人的中核としながらも、平民出身の準貴族層を補完的に取り込むことで、戦力の実効性を担保しつつ発展して来たのであった。(了)


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