隣人さんは何者?
席替えをした。場所は特等席と言われている窓際の1番後ろ。
そして右の席には神崎さん。可愛くて美しいと学年の間で話題となっている。
俺は運が良い。あの神崎さんと隣になるなんて。
「ねぇ、高橋くん」
「何?」
休み時間にさっそく話しかけられた!ラッキー。
「もうすぐ地球が滅亡してしまうとしたら、どうする?」
「……え?」
俺は拍子抜けした。小テストの勉強した?とか来週の体育祭楽しみだねとかそういう日常的な会話かと思った。しかし違った。
「ふふっ、ごめん。冗談」
「えぇ……」
可愛い子は何をしても可愛いと思うけれど……。くすくすと笑われて、もしかして面白がってる?と少し混乱する。
本人も冗談と言っていた。だから“本当に”冗談なんだろうと思っていたのに。
◇◇◇
「速報です! 大きな隕石が地球に衝突する可能性があります! 繰り返します___」
土曜日。リビングにあるテレビをつけたら、隕石という非日常の言葉が大量に耳に入った。
「は?」
どういうことだよ。いきなりすぎるだろ。そもそもドッキリか何かだろ。バラエティ番組がそう仕掛けているだけだ、と今の状況を受け入れないように情報を入れないようにした。
「お兄ちゃん……っ」
「!」
リビングの入り口には妹が服をぎゅっと握って泣きそうにして立っている。
「私達、っ……死んじゃうの……?」
「だ、大丈夫だ。冗談だろ、あれって」
よしよし、と幼い妹の頭を撫でて抱きしめる。肩が震えて怯えている。
__〜♪
「か、神崎さんだ」
その時。ポケットに入っている携帯から音楽が流れた。俺はすぐ彼女に問いかけた。
「神崎さん! 隕石のこと知ってる!?」
「まあまあ、落ち着いて。もちろん隕石のことは知っているよ。だから君に言ったじゃない」
「!」
そうだ、思い出した。つい数日前のことを。彼女は地球が滅亡してしまうとしたら、と俺に“冗談”で言った。冗談じゃなかったんだ。本当のことだったんだ。
__神崎さんは、今日のことを知っていた?
「……俺達、もう死ぬのかな」
避けられない運命だとはわかっている。もうすぐ死ぬなんて現実味がない。
__あーあ、可愛い彼女を作って、デートして楽しみたかったな。好きな女優を生で見たかったな。
後悔しないように生きてきたつもりだったけれど、後悔ばかり。……もっと生きたかった。
「ふふっ」
「な、何笑ってんの」
少し沈黙が続いて、携帯からは神崎さんの笑い声が聞こえる。気でも狂ったのか、と思っていたが。
「私がなんとかしてみせるよ」
「え!?」
神崎さんはそう言って、電話は終わった。1人の人間ができるはずがない。
◇◇◇
「ん……」
いつの間にか俺は眠っていたようだ。リビングのソファで横になっていた。
「!?」
なんで俺は眠っていたんだ?ガバッと上半身を起こす。いやいや。そもそもなんで俺は生きているのだろう。
「夕方じゃん!?」
窓から外を見てみると、もうオレンジ色になってカラスがカーカーとうるさく鳴いている。
テレビでニュースを見てみると、何事もなかったかのようにいつも通りアナウンサーがニュースを読み上げている。
「なん、だったんだ……」
SNSも同様だ。“本当に”何も起きていない感じだった。
「神崎さんに連絡してみるか……ん?」
俺は神崎さんに連絡しようと連絡先を探すが、“ない”。どこにもない。
「なんで!?」
◇◇◇
月曜日。あくびをしながら学校へ行く。おはよーと友達に挨拶をしながら自分の席に座る。
神崎さんはまだ来ていないらしい。
「な、なぁ。土曜日さ」
「土曜? あぁ! ドラマの特番があったよな?」
「そうそう! 面白かったよなー」
「……ぇ」
友達に土曜日のことを聞いてみるも、隕石という言葉は一言も誰も口にしていない。
試しに隕石怖かったよな!と言ってみたりしたけれど、夢の話か?と馬鹿され、笑われてしまった。違うんだ、本当なんだ、と言っても同じ反応だった。
実は俺が見た夢なのか?とまさかの夢オチ?と心がモヤモヤする。
早く、早く神崎さんに確認したいと思って席に座って待っていた。しかし彼女は、今日は来なかった。
__その代わり、机には白い羽が残っていた。