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転生司祭は転職したい 2



何とか二人を説得し、席に着かせることに成功。だが、納得はしてないようだ。


「でも司祭様。あの場にいたのは私たちと悪い人を除けば王子様と騎士団長だけですよ。悪い人たちは死刑だろうし、あとは二人に口を噤んでもらえれば問題ないです」


問題なくない、むしろ問題しかないからね。


「そうですよ。俺たちは絶対に言いませんし、ジャンたちだって……」


わーみんなが超高速首振り人形になってるー。

あかべこみたーい。


「違うんです。戒律破りは半分言い訳で私は元々旅が終われば司祭を辞すつもりでいたんですよ」


僕の所為で国主暗殺とかシャレにならない事態を引き起こすわけにはいかないと慌てて語る。そう、元々そのつもりだったんだよね。



まずアレだ。

根本的な問題として信仰心の問題。

元々のミシェルは敬虔な教徒だったんだろうけど……前世を思い出して前世の価値観が勝っちゃったんだよね。


信仰心がすぽーん☆って抜けちゃった。


それでも司祭としての穏やかな生活は嫌いじゃなかったし、旅に出るにあたって司祭の肩書きは有効だ。

僕の言葉を“神託”と信じてもらううえでも重要だし、社会的立場があることは旅の移動中でも何かと便利だった。


………………が、魔王討伐という大義がなされた今。


表だって大した活躍してないとはいえ、仮にも勇者パーティの一員。立場上げられて利用されてるのが目に見えてるよね。

辺境の村でお年寄りのお手伝いしたり、孤児院管理して感謝したり慕われたりしてる分にはいいんだよ。役に立てれば嬉しいし、やりがいもある。

だけど教会の広告塔に担ぎ上げられてその上「パッとしねぇ」って微妙な目で見られるとか、それなんて地獄……。絶対やだ。断固拒否!!


それに司祭って基本生涯独身だし。

僕は普通に可愛い彼女が欲しい派です。とはいえ、流石にそれらをぶっちゃける勇気はないからお茶を濁そう。



「…………と、いうわけなんです」


教会側が以前のような役割にあることを許してくれるとは思わないし、権力争いだのの道具にされるのは望まないこと。

だから旅に出るにあたって教会や孤児院は信用できる後継に託してあるし、信仰や人助けなら役職や立場がなくとも出来ます的なことを聖人君主ぶって語った。


最後ちょっと人目を気にしていい人ぶってみました。ごめんなさい。

子供組から尊敬の混じった瞳を向けられ即座に脳内土下座。

彼女欲しいとか思っててすみません。大人は汚いんだよ。


「あとなんとなくわかるんですけど、魔王討伐という役目を果たし終えて今後これまでのように神託を授かることはほぼありません」


驚きを浮かべるみんなに神妙な表情でひとつ頷く。


その心は、元々神託でなくゲーム知識だから。

ゲームで出てこなかったことはわからない。()()なのは魔王討伐は終わっても、時間枠がズレてることとかもあって他国の情報とかまだ未発生のネタなんかをいくつか持ってるから。

でもそれだっていずれ尽きる。


役目を果たした今が潮時だと、そう伝える。

立場だけ上げられて使えない奴とかなおさら針の(むしろ)だし。

それに下手に立場だの責任だの押し付けられたら「胃が限界」アピールも忘れない!

これ大事!!みんなの説得、特に過保護な勇者サマと聖女サマへの説得に。


僕が胃痛・頭痛に苦しんでると判明した後なこともあって、これは効果があった。

みんなの表情が思いとどまらせる方向から仕方ないなの方へ傾く。


「組織に属してるとめんどくせぇな」


「人間は色々と面倒臭いものね」


割と自由人なウルフとシルフィーナの発言に内心うんうん同意してるとアーサーがぽんっ!と手を打った。


「いっそ司祭様がトップに立たれてはいかがでしょう」


「アーサー!ナイスアイディア!!」



……この子ら、なに言ってんの??



「そうすれば自由にできますよ」じゃないんだよ。

僕、立場とか権力は要らないって話してなかった??


「教会の上層部に直談判して……」


「待って、アーサー。話し合いとか面倒臭いし、いっそ新たに拠点を構えて司祭様の信仰を広めるのはどう?ほら、魔王のお城とか空いてるし丁度良くない?」


上層部からの圧力が辛いなら、トップに立っちゃえいいじゃない?

えっ?そんな「パンがないなら、お菓子を食べればいいじゃなーい」的な話なの?

しかも僕の信仰ってなに??

魔王城空いてるし……って居住者ぶっ殺したの貴方たちですけどね。


こわい、意味不明すぎていっそこわい。ガクブル。



そして、冒頭へ戻る。



「えっと、私……邪教の教祖様になりたいとか言いましたっけ?」


あれ、おかしいな?もしかして僕、寝てた?

知らない間に寝落ちして意味不明の寝言でも吐き散らしてましたか??

困惑しながら躊躇(ためら)いがちに視線をやれば、無表情かつ若干死んだ目で首を振ってくれる仲間たち。だよね、よかった。


そして、疑惑を抱かせた当の本人たちはというと……。


「「邪教じゃないです!」」


声を揃えて叫んだ。


いや、邪教だよっ!!

邪教以外のなんでもないよっ?!


心の中で全力で叫び返しながら片頭痛を訴える頭を押さえた。



そして勇者と聖女の説得という過酷な闘いに挑むこととなった僕。

話が通じなさすぎてちょっと泣きそうになりながら苦し紛れに放った攻撃は二人にクリーンヒットした。 


「それに自由な身分の方が貴方たちと過ごす時間もつくれますしね」


▶『 しさいの、こうげき! 

  かいしんの いちげき!! 』


はっと瞳を見開き、一転笑顔で「「そうですね」」と尻尾をブンブンする二人。

そうして僕は辛くも勝利の栄光を手にし、邪教の教祖様へのジョブチェンジの回避に成功した。


ただ……なんだろう。

若干、墓穴を掘った気がしなくもない。

や、でもどっちにしろこの子らどこまでもついて来そうだし同じか、と自分へ言い聞かす。諦めは時に肝心。


そしてヨハンくん。

邪教を立ち上げようとした二人に「既に狂信者の方がお二人いますしね」とか的確かつ無慈悲なツッコミはやめてくれないかな?否定できないのが辛い……。




「でも貴方があんな闘い方をするのは初めて見ましたわ」


お茶を飲みつつ、改めて驚いたような瞳を向けてきたのはシルフィーナ。


「魔術を封じられてましたしね。あんな闘い方、人間相手じゃなければ通用しませんし」


やたらと頑丈な魔族相手に並みの打撃なんて効かない。

アーサーやウルフがパンチや蹴りでもダメージを与えられるのは彼らがチートだからだ。

よって、僕は魔族戦では魔術オンリーだったし、普段人間と喧嘩するタイプじゃないしね。


「俺の師匠は司祭さ……ミ……ミシェル様だからな!!」


「私の師匠だって、し……ミッシェル様なんだから!!」


胸を張りつつちょっと頬を染めて僕の名前を呼ぶアーサーとユリア。

あとユリア、僕の名前ミシェルね。

名前呼ぶとき力込めすぎて()()シェルになってたから。

呼んだあとも視線を逸らしたりもじもじしたりと、付き合いたてで初めて恋人の名前を呼ぶ中学生か!

君ら一応恋人同士の癖に互いにそんな反応してんのみたことないぞ。おい。

そんなツッコミは綺麗に隠し、驚きをあらわにするみんなに説明する。


「王都と違って辺境の村に騎士様なんていませんから。偶に村に訪れる騎士様や冒険者の方に色々と教えを請うたり、知っている魔術や独学で学んだ拙い知識を教えたにすぎません。なんの知識もなく旅立つより少しはマシだろうっていう基礎を教えた程度ですよ」


流石にゲームみたいに剣も魔法の心得もない状態の子供を魔王討伐の旅に送り出すなんて鬼畜仕様は耐えらんなかったんだ。


ちなみに、僕が必死こいて習得した知識や技術はアーサーやユリアに一週間でモノにされた。

……レベルが違い過ぎて僻む気すらおきない天才っぷりだ。

なので「師匠」とか恥ずかしいにも程があるマジやめてほしい。

僕がぷぷっ!( ̄m ̄〃)ってされるから。

地味に切実な願いを抱いていると、はぁーと息を吐き出したジャンさんが僕を見た。えっ?笑うのじゃなく呆れられた系?


「二人が懐くわけだ」


感慨深げなその言葉にキョトンとする。


「旅に出るずっと前からミシェルは二人を支えてきたんだな」


「え?普通じゃないですか?むしろ責任を押し付けた側ですし」


「……貴方ってお人よしよね」


「だな」


「ミシェル様は善良で敬虔な方ですから」


むぅ。悪人のつもりはないが別段善人のつもりもないんだけど……。


「それはそうと、司祭やめてどうすんの?さっきの話だとすぐ村に戻るつもりもなさそうな感じだったけど」


「色々と状況も変わったのでどうしようかなと」


そういってチラリと視線を向けたのは両隣。

あーと声をあげたジャンさんが「捕まっちゃったもんね」と笑う。


逃がさないとばかりに祭服の裾を握ってはくぅ~ん。にゃぁ~ん。と幻聴の鳴き声を響かせて捨てないで攻撃してくるわんことにゃんこ。あざとい。


「ミシェル様。ミシェル様は自分達の望む道を自分達で選ぶべきだって言ったけど、わたしはわたしの意思でミシェル様と一緒にいたいです。ずっと一緒にいたいです」


「俺もです。そもそも、勇者や魔王討伐なんて関係なくて、俺はミシェル様の役に立ちたくて、側に居たくて旅に出たし、ユリアだってそうです。そして俺たちの望みはこれからも同じです」


「ユリア、アーサー」


一心に慕ってくれる二人に熱いものが込み上げる。

ただ……熱い感動とともに、心のどこかでちょっと重いと思ってしまう自分がいることも否めない。


や、気持ちは嬉しいんだよ?僕だって二人は家族のように大切だし、大好きだ。

だけどこの子らの言葉が事実なら、世界を救ったのは僕の為で。

僕の為にいつか世界を滅ぼしさえしそうなことがこわい。だって出来そう。


「まぁ、とりあえずだ。世界平和のためにもミシェルには保護者のままでいてもらうとして。元々の予定ではどうするつもりだったんだ?」


全員一致で僕が保護者のままでいることが可決された……。


「実は名前を変えて飲食店で働いてたんですよね。暫くはそのまま王都に滞在する予定でしたよ。魔物の王都来襲の件もありましたし」


「おまっ……そんなことしてやがったのか」というウルフのぼやきには「俺らがマジ大変だった時に」って副音声がバッチリ。その件に関しては本当に申し訳ない。


「そもそもどうして魔物の件を黙ってましたの?あの王を確実に捕らえる為に行動を起こさせる必要があったのはわかるけど、それにしたってわたくしたちだけには教えてたって……」


不満そうなシルフィーナの意見はもっともだ。だけど。


「確証がなかったんです。ローゼマリー様の視た未来が私が関わったことにより回避されたように、人の行動によって未来は変わり得る。王の腐った人格はそのままでしたが、状況は大きく変わっていました。いまのあの男は幾つもの村々を壊滅に追いやった元凶でもなければ、エルフとの戦争を起こした張本人でもない。本来のあの男ほど追いつめられていたわけでないのであの事件を起こさない可能性だってあったんです」


「エルフとの戦争……そういえば、さっきもそんなことを言っていたわね。どういうことなの?」


「ローゼマリー様がアルベルト様の死とアルト様が王となっている未来を視たといったでしょう?本来なら彼女はそれを義務として王に伝えた。そして王であるアルト様の姿は、再発した病に蝕まれた姿だったんです」


アルベルト様の死後、原因である聖樹はそのままだったために再び病は広がった。

そしてアルベルト様の死の真相を探り当てたアルトは……誇り高き先代の王たる父と同じ道を選びエルフを救おうとした。


絶大な存在感を誇っていた前王の死。

病に蝕まれた若き王。

それらを知った愚王は今なら勝機があるかも知れないとエルフに戦争をしかけた。


「実際には病は収束しましたし、ローゼマリー様は先読みを王に告げませんでしたけど。ローゼマリー様にはお辛い想いをさせたようですが、私たちの村の件で彼女が先読みを外したと思っていたことが幸いでした」


「……戦争……それにアルトまで……」


起きるはずだった悲惨な未来を思い描いたのか口を覆って肩を震わすシルフィーナの背中をヨハンくんがそっと撫でる。


ところで……ヨハンくんはアルベルト様たちが帰ったからシルフィーナの横へ移動してるんだ。

因みにウルフは殿下たちが座ってたソファを占領してる。

んでもって、僕らが座ってるソファが一番小さいのに何故に一番人口密度が高いのかな??不思議ー。


「ヨハンの薬のおかげでエルフの森は侵略されずにすみました。でも戦争ともなれば双方被害は免れませんし、あの王は他にも色々やらかしてましたから相当恨みを買っていたんです」


「サラっと言ってっけどとんでもねぇじゃねぇか……」


「ほんとに。ミシェル何気に世界救いまくってるし」


顔を引きつらせるウルフとジャンさん。

ゲーム知識使って誘導してるだけで実際に問題解決してくれてるのは貴方たちなんですけどね。僕からしたらとんでもないのはみんなの方。


「まぁ、そんなこんなで状況も違いましたし、それに本来ならあの襲撃の時間枠は十年近く先なので」


「十年も?」


「だって魔王討伐の旅、本来なら十年以上かかってますし」


「「「はぁっ?!」」」


「「「ええっ?!」」」


おおぅ。めっちゃ驚いてる。



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