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転生司祭は逃げられない 1



うわぁ、気まずい☆


いや、ほんと。めっさ気まずいんですけどっ?!

逃げたい、超絶逃げたいけども、逃亡が絶望的なこの状況……。


しくしくと痛みはじめた胃を押さえれば、再び全身がペッカー!!と神々しく発光した。


「司祭様っ、お具合が悪いんですかっ?!」


「大丈夫ですかっ?!お休みになられますか??」


「ミシェル、へいきー??」


「だいじょうぶー??」


瀕死の重傷者でも即復活するだろう驚異の威力を誇る回復魔法により、胃痛は一瞬で吹っ飛んだ。残念ながらまたすぐ復活するだろうけどね……。


「随分と、懐かれているな」


心配そうに僕を覗きこんでふよふよする妖精たちを見てアルベルト様が呟く。


「やはりあの病には、貴殿が関わっているか」


「父上っ?!それはどういうっ?」


確信の籠った静かな声にタラリと背を汗が伝った。

ギンッ!!と睨まれた視線にビビりながらも、殺気を向けるアルトにそれ以上の殺気で返そうとするアーサーの腕を必死に掴む。戦闘はやめて、お願い。



「お前たちは何か知っているな?」


「い、言えないっ!!」


「ないしょだから言えない!」


「……」


それ、知ってるって言ってるようなもんじゃない?

両手で口を押さえる妖精たちは嘘が吐けないタイプらしい。

そして当然のように“黙秘”をアピールする妖精の代わりに一同の視線を向けられたのば僕で……。


はぁ、と溜息を吐き出して観念した。

当事者であるアルベルト様が異変に気付いてるのは当然だし、何より説明しないと悪い方に誤解したアルトたちに殺されそうだし。


「お気づきの通り、治療をしたのはあの痣だけではありません。アルベルト様、それとフィーアデルフィア様と聖樹もです」


「……聖樹?」


「はい。エルフの森を襲った病の根源は聖樹ですので」


聖樹はエルフの森を守る神聖にして要ともなる大樹だ。

フィーアデルフィア様は聖樹に宿る木の精霊(ドリュアス)でアルベルト様の契約聖霊でもある。


騒ぎだしたエルフ姉弟を一言で黙らせたアルベルト様が先を促す。

黙らされた二人が「どういうことだ」って意思がバシバシ伝わってくる瞳をじっとりと向けてくるのも、静かな美しい瞳に見据えられるのも非常に胃に優しくない。

なので、サクサク吐こう。


エルフの森を襲った病の根源は聖樹だ。

だが、聖樹本体もそして木の精霊(ドリュアス)であるフィーアデルフィア様もその存在と力の大きさ故にまだ影響はほぼ出ていなかった。故に本人たちも気付かなかったのだ。

例えば、アーサーたちならかすり傷の攻撃でも僕が喰らえば大怪我になる。同じように漏れ出した影響は森に住まうエルフに顕著(けんちょ)に表れた。

エルフたちを襲った病は一度は抑えられたが、根源の聖樹がそのままでは再び同じことが繰り返されるうえ、いずれは聖樹そのものとフィーアデルフィア様の症状も進行する。なので聖樹の治療を試みた。


「……というわけです」


花妖精たちにやたらと懐かれているのもそのためだ。

部外者がこっそり聖樹に近づくなんて無理だし、治療に当たっても色々協力してもらった。


「信じられない。その話は、本当なの……?」


「おそらく本当だろうな」


半信半疑なシルフィーナの言葉を肯定してくれたのはアルベルト様だった。


「あれが危険な病であることはわかっていた。だから私は王としてなんとかそれを喰い止めようとした。その代償が己の命であることも覚悟していた」


「アルベルト様は癒せぬ病の影響を己が身に引き受けられたのです。それでエルフたちには後遺症ともいえる青黒い痣だけしか症状がなかったのですが……」


「私自身の命はそう長くなかっただろうな。だがある日、唐突に癒えた」


「そんな……」


つまり、アルベルト様は本来、僕と同じ死にキャラだ。

回想シーンだけの登場だったけど、類まれなる美貌とエルフの王としての気高さに人気の高いキャラだった。どっかの愚王とは大違いだ。

だけど、そんな彼が命を賭して抑え込んだ病も時を経て再び猛威を振るってしまうんだけど。


「一つ、聞きたい。何故、貴殿はこのことを黙っていた?」


それはアルベルト様がずっと疑問に思ってたこのなのだろう。

僕の動向をシルフィーナに報告させてたっていうのも、僕らの関与を確信しつつも目的が読めずに何か裏があるのかって警戒されてたのかな。でもさー。


「警戒されるような大層な理由はないです」


いや、ほんとに。

ひらひら手を振って無実アピール。


「あえて言うなら、大仰すぎる恩を受けるのは困るというか……」


「「「はっ?」」」


「私の知る未来ではエルフの森を救った感謝からシルフィーナ様は“敬愛の誓い”を結んで魔王討伐にも同行して下さるんですよね」


「はぁっ?!じゃあその方が都合いいじゃねーか。そしたらお前だってそいつにネチネチグチグチ嫌味言われることもなかっただろ」


顎でシルフィーナを指すウルフの言葉はある意味もっともなんだけど。


「旅にはスカウトしたかったんですけど、エルフの誓いって一生ものですし。重いんですよ。第一、誓いを捧げる相手が違いますし」


「相手が違う?」


「私が聖樹とフィーアデルフィア様を癒す治療法を得たのは()()()()()からです。未来でエルフの森を救うヨハンとそのレシピを。本来、それを受ける筈だったのは彼で私ではありません」


「……僕、ですか?」


自分を指さしてキョトンとするヨハンくんに頷く。

うん、君。


「でも、ヨハンは……」


「ええ、エルフの森に行ってません。あの時まだ彼は同行してませんでしたから。ですが未来では訪れるんです。そして治療法を見つける。でもそれだとアルベルト様が亡くなってしまうし、他にもいろいろと被害が出てしまう」


それは困るんだよねー。

ヨハンくん連れてけばいいじゃないかって思うかもだけど、ヨハンくんだってすぐに治療法みつけたわけじゃなければ、年だって設定時より幼いし。


「なので未来を知る私が対処したに過ぎません。シルフィーナ様を救うためにヨハンがどれほど必死にその方法を見つけたかも知っていますし、その手柄を横取りする程に人でなしではありません」


視界の端でシルフィーナとヨハンくんが頬をピンクに染めた。

うむ、ショタ感が甚だしいな。

ゲーム終了間際ではヨハンくんも青年だったから恋人として違和感なかったけど今まだ9歳だしね。まぁ、エルフにとって数年なんてあっという間だし、脈はアリそうだから頑張れヨハンくん!


「治療法を見つけたのはヨハン。そして治療薬を生成したのもほぼユリアです。シルフィーナ様もよく仰るように私の功績ではないですし」


「わたしの功績はすべて司祭様の功績です」


ユリアはキリっとした顔で何を言ってんのかな?

君の功績は君のものです。アーサーも「俺のもです!」とか同意しない。

真っ青になって謝罪をするシルフィーナに顔の前で軽く手を振る。別に今のは嫌味で言ったんじゃないから。いや、ほんとに。


「ただ、その結果シルフィーナ様に同行してもらう理由がなくなってしまって、後遺症の痣を口実にあんな交渉をした次第です」


だからアルト、もう今後は睨まないでね!!


「……ハイエルフの病、それにアルベルト様の死……」


口を覆って呆然と声を漏らしたのは王子の隣の美女。


「……私が見た未来は、外れてなかった…………?」


「未来?」


「ああ、ローゼマリー様は先読みの巫女で、病に侵されるエルフとアルト様が王である未来を見られたのですよ」


向かいの王子たちから向けられる「何でお前が知ってんだ?!」って驚愕の視線はスルー。


「つまり、お前と同じようなモンか?」


チラリとローゼマリー様を見てから向けられたウルフの質問は笑って誤魔化す。

何せ、僕のはゲーム知識。

聖職者としては詐欺師もいいとこだ。


美しい瞳からぽろりと涙が零れた。王子が細い肩をそっと抱く。

肩を抱く王子を見つめるピンクの瞳には喜びと、そして戸惑いが浮かんでいた。そしてそれは王子たちも同様で。

涙を浮かべる美女に「どうしたんですか?」とユリアが問えば、言いにくそうに桜色の唇を開いた。


「私は、8歳の時に初めて神の啓示を受けました。その後も数年に一度、未来を見てやがて先読みの巫女と呼ばれるようになりました」


ほら、そこ。「えっ?そんだけ??」みたいな顔して僕と見比べんな。

僕のはインチキなんだよ!!空気読め!!

啓示とか一生に一度でもあれば凄いんだよ!


「ですが私は先読みを外し、もう私にはその力がなくなってしまったものと……」


「だが君の見た未来は違ってなかった。ハイエルフの件も、今回のことも」


切なげに見つめ合うお二人さん、自分達だけの世界作るのやめて。

そう思ったのは僕だけじゃなかったようで、若干うっとうしそうに「ならいいじゃない。どこに悲しむ必要があるのよ?」とシルフィーナ。


「その、私たち、結婚する予定なんです」


「だが、ローゼマリーが巫女としての力を失っていないとなると……」


なるほど、話が読めた。

要は純潔の乙女でなくなるってことですね。

別に聖職者が結婚出来ないわけでも、乙女じゃないといけないわけでもないんだけど、清らかじゃないと神の寵愛を受けれないイメージが根強いんだよね。でも。


「大丈夫ですよ。ご結婚されてもローゼマリー様が先読みの巫女としてのお力を失うことはありませんから」


世間一般の男として美女の涙に弱い僕は柔らかく微笑んだ。


「風習やしきたり、伝承にはそれ相応の意味や意義もありますがそれが全てではありません。 “信仰は心に宿るもの” 。貴女が神への御心を失わなければ問題ありません。現に、私はこの国の王妃となられてなお、先読みの巫女として在られる貴女の未来を“知って”いますから」


「本、当に?」


「ええ」


おぅ。泣き止ませようとしたのに逆に号泣させてしまった……。



「えっと、つまり」


空気をかえるようにジャンさんが声をあげる。


「王子たちは王の愚行を予見してて、ミシェルもいつも通り先を知ってたから行動したってこと?つかミシェル、先に言えし。そもそもミシェルが消えるのと今回の件、どう繋がんの?」


「…………特に繋がりませんけど」


「はぁっ?」


「いえ、こっちが「はぁっ?」なんですけど?あれは王家の世襲争いの末に王が悪あがきで起こした事件で、勇者パーティが捕まるとかそんな展開なかったですし!」


あんな展開になるとか僕も聞いてないよ!!


ちっ、ちっ、ちっ、ちっ、ターン。

無言の静寂がおり、時計の針だけが動いてやがて長針が頂上を指すとオルゴールの音色と共に飾り時計から出てきた人形がクルクルと踊り出した。

わー、場違い。

踊りを止めた人形が戻っていき、パタンと扉が閉ざされて再び静寂が訪れた。





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