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転生司祭は逃げだしたい!!  作者:
番外編

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23/24

転生司祭は招待される 2


なんだかんだで小一時間以上はフィーアデルフィア様の熱弁を聞かされ続け、ようやく解放された。


まだだいぶ話し足りなそうだったけど……これ以上拘束されてたら心配したアーサーたちが乗り込んできそうだしね。


相手がフィーアデルフィア様や、なんでか僕にやたらと懐いてくれてる妖精たちだからこそ黙認されてるだけで、これが前回の滞在で嫌味を言ってきたエルフさんたちだったりしたら……きっと連れて行かれた時点で戦争勃発。


あの子らは僕に関してだけ異様に沸点低いから……。


「お帰りなさい、ミシェル様―。……大丈夫でした?」


みんなの元へと戻ると、それでもやっぱりユリアに確認された。


「勿論です。お待たせしました」


「良かった。フィーアデルフィア様ったら、急にミシェル様連れてっちゃうんだもん」


にっこり笑ったユリアは次いでぷうっと頬を膨らませ不満をもらす。

可愛らしい仕草だが、若干目が笑ってないユリアにフィーアデルフィア様が慌てる。


「す、すまぬ。少し話をしたくてな……それに、妾の恩人でもあるミシェルに間違っても危害を加えたりはせぬ。安心せよ」


「お話ししてただけー」


「けー」


ね?ね?と顔を見合わせる花妖精たちの姿に疑惑も綺麗に消えたようだ。

ユリアの瞳からも暗い色が消えた。


ほっ……!

なんせ花妖精(この子ら)、嘘がつけない子らだしね。


「アーサーたちは?」


そしていつもなら真っ先に僕を出迎えてくれる片割れの姿が見えなくてきょろきょろと辺りを見渡すと、少し離れたところでしゃがみ込んでいる姿が目に入った。

なにかの作業中のようだ。


「狩った獣を解体してるとこですよ」


ユリアの言葉に花妖精たちがあっと声をあげた。


「お肉!!」


「おいしーお肉♪」


「お肉♪♪」


繰り広げられる謎のお肉踊りを前に僕はぱちぱちと瞬いた。


「来て早々に狩りをしてたんですか?」


……たしかシルフィーナが持て成しを言い付かってたはずだけど。

着いて早々、お茶も飲まずに狩りしてたの??


「だってぇ、ミシェル様も居なくなっちゃったし。やることもないし、ミシェル様が喜ぶかなって思って。それにほら、アーサーもウルフもお肉大好きですし!張り切ってました」


「……狩りつくしてたりしないですよね?」


「途中で俺が止めた」


はぁ、と溜息を吐くつつジャンさん。


お疲れ様です。

そしてやっぱり片っ端から狩ったるぜ!モードだったんですね……。


血抜きと解体が終わったのか、血塗れの剣を手にアーサーが駆け寄ってきた。


優先してくれるのは嬉しいけど、まずは剣の血を拭おう?

そんでもって鞘に納めてくれると嬉しいな。


血を滴らせた剣を手に満面の笑顔で駆け寄ってくるイケメン、絵面がホラー……。


「ミシェル様のために大物を仕留めておきました!」


胸を張って報告してくる様は尻尾ぶんぶん振って手柄を主張してくる大型犬のようだった。

血まみれの剣と、若干の返り血さえなければ微笑ましいかな……?


さて、一息ついたところでお料理をしようと思います。


いやさ、本当はお客さんだし大人しくしてようと思ったわけですよ。

邪険にされてた前回と違い、今回は全力お持て成しムードだし、自炊する必要は特にない。

ないんだけどさ……。


脂が甘くって、とっても美味しいらしい巨大鳥さんを見て、ついポロっと言っちゃったんだよね。


「から揚げにしたら美味しそう」……って。


そっから「から揚げって?」となり「食べたいです!」となって現在に至ります。


「大きさってこれぐらいでいーですか?」


「はい。一口大より少し大きいぐらいで」


まずはお肉の準備。


アーサーたちが狩ってきてくれた鳥を包丁で切っていく。

部位はもも肉とむね肉を使用。


赤身と脂のバランスがよく、ジューシーに仕上がるもも肉の方がアーサーやウルフたちは好きだろう。

逆にユリアやシルフィーナなんかはさっぱりしたむね肉の方が食べやすいかもしれない。


エルフの森にはそれなりな人数がいるし、なによりお肉大好きアーサーとウルフがいるので大量に切っていく。

なんせウルフなんてお肉目的で来たようなもんだし。


下味をつけ、しっかりと揉みこむ。

味をなじませ、薄く小麦粉と片栗粉をまとわせたらあとは揚げるだけ。


「油がはねると危ないから下がってて」


わくわく!わくわく!と身を乗り出してフライパンを覗き込んでいる花妖精たちに告げれば、「危ない」の言葉にきゃー!と言いつつぴゅーと離れた。


……別にそこまで離れなくても大丈夫だけど。


遠くの木まで飛んで行った彼女たちに苦笑いしつつ、箸の先を油に浸す。


「お気をつけて、ミシェル様」


そんでもってアーサーも、そんな真剣な顔で案じる程じゃないから。


「もし油がはねたらすぐ教えてくださいね。全力で治療するんで!」


そしてユリアも……聖女の全力とかなんなの?


別に僕、魔物と戦うんでもなんでもないから。

揚げ物するだけだから。


幸い、治療を受けるはめにもならず、から揚げはいい色に揚がった。


「味見してみますか?」


「はいっ!!」


「わたしもー」


提案すれば、すぐにでも口に放り込みそうなアーサーを慌てて止めた。

揚げたてだから熱いことこのうえない。


「……熱ぃ!!」


そして……僕の制止が間に合わなかったウルフは丸ごと口に放り込んだから揚げにひぃひぃ言ってる。


だから言わんこっちゃない……。


涙目のウルフの惨状にふーふーしてから齧りついたアーサーたちの表情がぱぁっと華やいだ。


「すごい肉汁がじゅわぁぁって出て美味しいです!!」


「サクサクでカリカリ!なのにお肉は柔らかくておいしー」


お気に召したようでなによりだ。


「わたしもー」


「わたしも」


「もー」


「ちょっと待ちなさい。小さく切ってあげますから。ほら、火傷しないように気をつけて」


「「「ふーふー。……おいしー!!」」」


ずるーい!とぴゅーと舞い戻ってきた花妖精たちも瞳をキラキラ輝かせる。


妖精がから揚げ……。


喜んでる絵面は可愛いけど、言葉にするとちょっとシュール。


それからどんどん揚げていき……。


「アーサー?ウルフ?あなたたちは味見の意味合いをわかってますか?」


菜箸を手に持ったまま、思わず額を押さえた。

揚げても揚げてもなくなっていくから揚げ。


「(モゴッ)だってコレ、すげぇうまい」


「おいひぃれす」


お気に召したのはわかったから、ちょっと手は止めよっか?


つまみ食いの範疇を完璧に超えてるんだよ。


お肉大好きな肉食男子たちになんとか“待て”を覚えさせ、から揚げも準備完了。

大きなお皿にどどんっ!と積まれたから揚げタワーはなかなかの壮観だ。


…………これだけでカロリーどんだけあるんだろう?


総カロリーを考えると恐ろしいが、まぁ足りないよりはいいだろう。


“待て”状態で着席した約2名の視線がロックオンして離れないしね。

うん、多めに作って良かった。


そう納得しつつ、エルフの皆さんが用意してくれた料理を眺める。


野外の用意されたいくつものテーブル。

その上に並ぶ彩りも綺麗な料理の数々は壮観だ。


よそではあまり見かけない料理なんかもチラホラとあって、お味がとっても気になる。


あっ、あっちのあれも食べてみたい!


あれは……なんだろ?

お肉?それとも魚……?


こっそりと食べたい料理に目星をつけつつ座っていると、エルフのお姉さんがお酒を注ぎに来てくれた。

ほんのり甘い香りを漂わすとろりとしたお酒にすん、と小さく香りを嗅ぐ。


「蜂蜜のお酒……ですか?」


急に声をかけられたお姉さんの手がぴくりと揺れた。


「は、はい。花の蜜から作った特別なお酒です。…………あの、いつぞやは本当にご無礼を……」


またしても同じ展開になってしまったことに苦笑いしつつ、いえと首を振る。


誰に話しかけても基本謝罪にいきついちゃうんだよね。

別に怒ってないし、逆に気を遣うからいっそ普通に接してくれるのが一番有り難いんだけど……。


「とおぉっても甘いお花の蜜なのー!」


「すっごくおいしいよー!」


ふよふよしてる花妖精たちが口々に言い合う。

ふんす!と胸を張って自慢してくる姿が可愛い。


やがて全員にお酒が行き渡ったようでグラスを手に取る。


「聖樹に抱かれしこの森の繁栄と、数多の恵みに……」


まるで天上の音色のようなアルベルト様の静かな声が響く。


(おごそ)かなそれはまるで神聖な儀式のようだ。

まぁ、実際に今日は特別な日だし、儀式っちゃ儀式なのかな?


同じ乾杯の合図でも飲み屋のうぇーい!感のないそれに自然と背筋も伸びる。


「そして聖樹と我らを救ってくれた恩人たちの訪問を歓迎し」


急に自分たちのことを振られ、グラスの中の酒がとぷりと揺れた。


アルベルト様に向けられていた人々の視線がこちらへと向き、目礼を捧げられる。

そして掲げられるグラス。


「「「「「乾杯」」」」」


(おごそ)かな声とともに、そこかしこでグラスがカランと音を立てた。


僕らもグラスを鳴らし、蜜酒を口にする。


「うわぁ!本当に甘くておいしいっっ」


頬を押さえて嬉しそうな声をあげたのは甘いもの好きなユリア。


とろりと粘度の高い蜜酒は濃厚でいて、意外なほどに癖もなく飲みやすかった。

これは確かに若い女の子受けしそうなお酒だ。


「でしょ!」


「えっへん!なの」


褒められて嬉しそうな花妖精たちも小さめの盃にみんなで寄ってくぴくぴ飲んでは、早くもほっぺがピンク色だ。


「これっ、お主らはあまり飲むでない」


「ええ~フィーさまのいじわる」


「すぐ酔うくせになにを言っておる」


「よってらいもん……」


「そ~よってましぇん!」


「れんれんへーき」


……完全なる酔っ払いの言い分だよ。


そしてフィーアデルフィア様は透けてるのに飲食OKなんですね。

いや、“推し”語り中も普通にお茶とか口にしてたけどさ……。謎です。


そんな酒豪と酔っ払いたちは置いといてお目当ての料理をGETしに行く。


あれもこれもと勧められ、両手にお皿を持って戻れば……テーブルの上がすでにわりといっぱいだった。

やたらから揚げ率が高いアーサーたちのお皿がすごい。


「なんかここだけ大食い大会みたいです……」


引きつった笑みのヨハンくんの意見には完全同意だよ。


競うように積み上げられていく皿タワーにエルフさんも吃驚してる。


「もう、品がないわね」


爆食中のアーサーとウルフを冷めた目で一瞥したシルフィーナは、一転にっこりと笑みを浮かべるとヨハンくんのお皿へと料理を盛っていく。


「これはエルフの伝統料理なのよ。あとこっちも……」


シルフィーナ、シルフィーナ。


あっちでアルトが「姉上があんな笑顔を……!」って衝撃受けつつ、ぐぬぬ……!ってしてるよ。


恋人に構うのもいいけど、弟も構ったげて。

拗ねてこっちに飛び火してもめんどいから。


そしてジャンさんに至っては席に居ない。


ほら、ジャンさんって勇者パーティの中では比較的常識人で落ち着いてるけど……魔術オタクだからね。

ハイエルフといえば高度な魔術をいくつも操れる種族。


つまりジャンさん、絶好調。


普段の落ち着きもどこへやら、その辺のエルフさんたちを捕まえては質問攻め。


目が合ったエルフさんが心なし「ひっ……」って反応してるし。逃げられてんじゃん。

いままでもどんだけ質問攻めにしてたのさ。


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― 新着の感想 ―
なんだかんだ、楽しそうな宴会で何よりです。強いて言うなら、甘いお酒はから揚げに合わせるにはイマイチかなというくらいでしょうか
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