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転生司祭は逃げだしたい!!  作者:
番外編

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転生司祭は帰省する 3


「アーサー覚悟っ!!」


数人の少年たちが武器を手にアーサーへと走り寄る。

そんな彼らを素手であっさり打倒すアーサー。

ウルフの側でも同じようなことが行われていた。

「くっそー!」「次こそは一撃いれる」そんな言葉を漏らす少年たちは心底悔し気だ。


「はーい!治療が必要な人ーー!もうっ、アーサーもウルフもちゃんと手加減してよっ!みんな平気??」


「してるだろ」


腰に手を当ててプンプンしながらユリアが一瞬で治療を施す。

どっちの発言もわからないでもないから苦笑いが浮かんだ。



滞在二日目。

午前中は村人に挨拶をしてまわったり、細々とした雑用をこなし、お昼を食べてからは子どもたちの相手をしていた。


「遊んでー」とまとわりついてくる子どもたちは元気いっぱいだ。

久しぶりに孤児院の仲間たちと戯れるアーサーやユリアも年相応の笑顔を浮かべている。

あまり子どもの相手が得意でないジャンさんやシルフィーナが子どもたちに囲まれて困っている姿には少し笑ってしまった。


「皆さんお強いですね」


目をぱちくりさせてそう呟いたのはヨハンくんだ。

そういうヨハンくんこそ可愛らしい容姿とは裏腹に、ショタ美少年詐欺なバリバリ強者だったりするのだけど。


それでもヨハンくんの言うことは一理ある。

あっさりとアーサーたちに敗れた少年たちだが、実はそこそこ強い。

それこそ新米騎士相手なら普通に勝てるんじゃないかな?


「普段からアーサーたちと手合わせしたりしてますからね。剣や魔法を学びたがる子も多くて、何気にレベルが高いんです」


いやマジで。


「ただ貴方に構って貰いたかったのと、褒めて欲しかっただけじゃない?」


「シルフィーナ正解!でも司祭様の英才教育のお陰でみんなすっごいんだよ。孤児院を出た子らでも冒険者として頭角を現してたり、有名な研究機関に就職した子とかもいるもん」


いつの間にか戻ってきたユリアがピンポーン!と明るく答える。


そうなんだよね、辺鄙な村のわりに活躍してる子らが大勢いたりする。

アーサーやユリアに剣や魔法を教えだしたら「自分も!」って手をあげてくる子がいっぱい居てさ。勇者サマや聖女サマと共に学んでるお蔭かレベルが高い高い。


あと、周りの子らに影響されてかユリアたちも僕の呼び方がちょくちょく司祭様に戻ってるよね。別にどっちでもいいんだけど。


もう何度目か、アーサーに弾き飛ばされた少年の一人が天に向かって「くっそー!!」と叫んだ。


「その強さがあれば俺だって、俺だってっ…………司祭様と旅に出れたのにっ!!」


そこっ?!


待って、魔王討伐って別に旅行とかじゃないからね?

とはいえ、危険を伴う過酷な旅であったことはわかっているらしく……。


「オレだって司祭様をお守りしたかったってのっ!」


「自分の力不足が憎い……」


「お役に立ちたかった…………」


「私だってもっと魔法の才能さえあればっ」


くっと拳を握って悔やむ子どもたち。

地面に両手をついて打ちひしがれている子すらいて、なかなかシュールな光景にヨハンくんたちからの視線が痛い。


やめて、見ないで。

僕は自分を称えるようにとか、そんな洗脳的な教育とかしてないからね?


そしてアーサーとユリアはなんで得意満面で「「勇者/聖女の特権!」」とか胸を張ってるのかな?


魔王討伐において僕はただのオマケであって、「魔王討伐に挑む人は、今なら司祭と旅ができます!!」みたいなイベント特典でもなんでもないから。意味がわからないよ。


「魔王の存在って……」


ヨハンくんの呟きがものすっごくいたたまれない。



「でもなんだかんだで教育者の素質あるよな。こんだけ金の卵育成してんだから」


魔術の質問について答えていたジャンさんが感心したように呟く。


「教祖様の素質もあるけど」


ポソッと付け足された一言にジト目で睨んだ。


「「教祖様??」」


「なんでもないですよ、気にしないでください」


会話を聞いていて不思議そうに首を傾げる子どもたちに笑顔で告げる。


暑いから、とクリスやエリスが飲み物を運んできてくれた。

汗をかいたグラスを礼を言って受け取る。冷たい飲み物が心地よく喉を下る。


「みんなすっごく楽しそう。司祭様のお顔が見れて本当に嬉しいです。ユリアとアーサーも元気そうで良かった」


「わたしもエリザちゃんたちに会えてうれしい!また来るからね!!」


「それは……嬉しいけど。遠いし、大変でしょう?」


「そこはジャンさんとシルフィーナにお願いするから。よろしくねージャンさんたち!!」


ブンブン手をふるユリアにハイハイとばかりに片手をあげるジャンさん。

だけどエリザたちは意味がわからなかったようで首を傾げている。


「二人は転移術が使えるんですよ」


クワッ!!と子どもたちの瞳が見開かれた。


素早くジャンさんとシルフィーナを取り囲む子どもたち。


「お兄さんすごーい!!」


「天才!恰好いい!!」


「色男、ヒューヒュー!」


「おねーさん、ちょー美人!!こんな美人初めて見たし!!」


「ほんと、きれー。憧れちゃう」


「神官さんとお似合いです」


そして一斉に二人を褒めはじめた。


「「「「…………」」」」


ジャンさんがイケメンな色男なことも、シルフィーナが類を見ない美人なことも事実だ。

事実なんだけど……このあからさまなヨイショはどうなんだろう?

ある意味、潔いっちゃ潔いけどさ。


「「「いつでもお越しをお待ちしてまーす!!」」」


100%の笑顔で「また連れてきてね」アピールする子どもら。


知らないうちに本当にたくましく育ってるよね。

素直に喜んでいいのかわからないけどさ……。


「「「「…………」」」」


だからそんな目で見ないでってば。

無言の視線を向けてくるジャンさんたちからそっと視線を逸らした。


別に僕の教育方針でもなんでもないんだってばっ!!


「ねぇみんな。しばらく私を家事とかの当番から外してくれない?」


賑やかな場にポツリと呟きが落ちた。

真剣な顔をしてそんなことを言いだしたのはジャンさんに魔術の質問をしていたイレイスだ。

緑髪の落ち着いた美少女で、魔術に関する知識と実力は孤児院一の天才児。


孤児院では料理や掃除、日常のあらゆる作業を当番制で行っている。

基本的にサボらずいい子でこなしてくれるし、なんなら当番じゃなくても「お手伝いします!」って率先して動いてくれる働き者が多い。

イレイスも決して怠け者の少女じゃないし、みんなも「何言ってんだよイレイス」と零しながらも非難っていうか「どうしたんだ?」ってニュアンスだ。


静かに瞳を閉じたイレイスはギュっと胸の前で握りこぶしをつくりつつ、決意を込めて瞳を開いた。


「私、転移術を覚える」


静かな、力強い宣言。

反応が遅れる周囲にたたみかけるようにイレイスは言葉を続けた。


「いい?私が転移術を習得すれば王都に行けるのよ?魔力消費だって激しいし、もちろんしょっちゅうはムリよ。でもエリザやザックたちだって王都に行ってみたいと思わないの?私は行きたいわ!いいえ、絶対に一度は司祭様のお店に行ってみせるわ!!」


やたら熱く語るイレイス。


あれ……?イレイスってこんな熱血な子だったっけ?

もっとこう、物静かで大人しい子だった気が……。


王都に憧れてるのかと思いきや、目的は僕の店かーい!!

いや、うれしいけどさ。まだ開店してませんけどね。


ちなみにエリザやザックの名をあげたのはイレイスが親しいからと、二人は村に残留組だからだろう。村を出る子はともかく、そうじゃない子は王都へ行く機会なんてそうそうない。


イレイスの演説を聞いた子どもたちは目をかっぴらいた。

台詞をつけるなら背後に浮かんでいるのは「その手があったか!」だろう。


「イレイス……!!貴女ならできるわ。…………ああっ、司祭様のお店……!!」


ガシッとイレイスの両手を握り瞳を潤ませるエリザ。


「さすがイレイス!そうだよな!敬愛する司祭様のお店だ、行かずに一生を終えるとか有り得ねぇよな」


力こぶを作りながら「掃除でも力仕事でも任せろ!お前は転移術に全てをかけろ」と激を飛ばすのは子どもたちをまとめる兄貴分のザック。他の子らも次々と続く。


「わたしもお手伝いがんばるー!」


「ぼくもー!!」


「イレイスおねーちゃん、がんばって!!」


健気に手をあげてお仕事がんばる!宣言する子どもたちは一見、助け合いの精神に溢れた美しい光景なんだけど…………目的おかしくない?


そして僕の店のハードルむちゃくちゃあげられてない?

特別なお店でもなんでもない飲食店だからね?

これでこの子らが本当に来て「なんだ……」ってガッカリされたら泣くよ?僕。


みんなに励ましと当番無期限免除を言い渡されたイレイスはキッと凛々しく顔をあげた。


「そういうことなんで、ご指導宜しくお願いします!師匠たちっ!!」


「し、師匠?!」


「わ……わたくしも、ですの?」


突然師匠呼ばわりされて怯むジャンさんと自分を指さして慌てるシルフィーナ。



滞在中の数日間、イレイスは寝る時以外基本二人のどちらかから離れなかった。


「知識のご教授ありがとうございます。教えて頂いたことを元に必ずや転移術を習得してみせますね」


にっこりと笑うイレイスの笑顔は控えめにいっても輝いていた。


転移術、かーなーりー難しいはずなんだけど……なんでかな?出来るようになる気しかしない。

たぶん習得するんだろうな、うん。なんだろうこの謎の信頼。


「信仰の力は偉大です」


胸の前で腕を組んで呟くヨハンくん。


ねぇ、ヨハンくん?

その発言は神への信仰のことかな?

それとも僕への信仰の賜物ってことかな?


後者の予感しかしない……。


そして転移術の師匠こと、ジャンさんとシルフィーナがげっそりしてるんだけど。

ぶっちゃけ、魔王討伐の旅でもこんな疲れ切った姿みたことないよ。

いや、あった。

魔物や魔族相手にはなかったけど、ブチ切れモードのアーサーやユリア宥めるときはげっそりしてたわ。あと、僕の失踪のとき。


なんか、ごめん。


最終的に浮かんだ言葉はそれだった。



帰省最終日。

いつか見たような光景が目の前に繰り広げられていた。

見送りには村中の人たちが集まってくれた。

まるで魔王討伐への旅立ちの日のように。

まぁ、あの時と違って危険な旅路にでるわけでないからあそこまでの悲壮感はないけど、仕事の手を止めてまで見送りにきてくれる村人たちの心遣いは正直嬉しい。


「色々とお世話になりました」


歓迎してくれた村人たちに挨拶をし、そっとしゃがんだ。


「たくさん遊んで、お勉強もしていい子にしててくださいね?」


僕の足に抱きついて泣いている小さい子らの頭を撫でながら言い聞かせれば、えぐえぐ泣きながらも頷く子どもたち。


「は、いぃ」


「いーこにする。そしたらまたしさいさま来てくれる?」


「もちろん、また来ます」


そして、だだを捏ねるのは小さい子だけじゃなかった。


「司祭様っ、本当にもうお帰りになっちゃうんですか?せめてもう少しだけっ……あと一年、いやせめて十年…………!」


長っいな!!

十年ってせめてもう少しでもなんでもないよね?!


思わず引き攣りながらも丁重に「無理です」ってお断りした。泣かれた。


アーサーやユリアも友人や知り合いたちと別れを惜しんでいるし、お肉を山ほど調達してくれたウルフや、孤児院の子どもたちと一番年も近いヨハンくんもなんだかんだで大人気だ。あっちこっちで「元気でね」とか「また来てね」って声が飛び交っている。


別れの挨拶に色々と時間を費やしたが、魔法陣が光れば帰還は行きと同じく瞬きの間だった。

一瞬で変わった景色と、消え去った賑やかさにほんの少し寂しさが胸をよぎる。


「久しぶりにみんなに会えてうれしかったっ!」


「相変わらずだったな」


そんな感傷を拭い去るようなユリアとアーサーの声。


「また会いにいきましょうね、ミシェル様」


「イレイスだけでなく他の奴らも転移術覚えそうだよな」


「……転移術ってそこそこ難しいんだけどね」


「ですがきっと成し遂げられるんでしょう」


「できそうだったわね。やたら優秀だったもの」


「あと熱意がちげぇしな。熱意が」


みんなの会話に感傷がほんとどっかいったわ。霧散ー。


そしてやっぱりジャンさんたちも僕と同じ感想を抱いていたようだ。

感想っていうかもはや確信??


こっちからもちょくちょく会いに行けるし、それにあっちから会いに来てくれることも増えそうだ。



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