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転生司祭は逃げだしたい 2




目隠しの所為で何も見えない。


正確に言うならば、目隠しっていうかズタ袋みたいなのを頭から被せられて、しかも両手を後ろ手で縛られている。荷物みたいに担がれて振動がお腹に地味にダメージだ。

ドサッと乱雑に床に落とされたので、どうやら目的地到着らしい。


「「司祭様っっ!!」


悲痛な声が僕を呼ぶ。


「動くなっ!」


怒鳴り声と、人を殴るような音。

その音に、危うくブチ切れそうになった。


乱雑にズタ袋を剝ぎ取られ、取り戻した視界には懐かしい面々。

僕の縄とは違い、頑丈そうな鉄球のおもりまでついた手枷、足枷に胴体に巻き付いた鎖と完全拘束なアーサーと獣人のウルフ。一見、豪奢な首飾りにも見えるユリアの首に光る黄金に真紅の宝石の光る輪はマダムの言っていた魔力封じの首輪だろう。座り込んだ彼女の首には剣が突き付けれており、ハイエルフのシルフィーナ、魔導師のジャンさん、神官のヨハンくんも後ろ手に拘束されていた。


「一体、何をやってるんです……?」


怒りが一周まわって、呆れた声しか出ない。

どんな状態だよ、ほんと。


「誰のせいだと思ってんだ、誰のっ!!全部おまえのせいだろうがっ!!」


「…………」


犬歯を覗かせて怒鳴るウルフに僕は黙った。

やっぱ、そうなんですね……。


「おまえ居ねーとコイツらほんと使えねーんだよ!!」


「本当に……。泣くわ取り乱すわ、簡単に捕まるはで大変だったよ」


「一体どこに行ってましたのっ?!」


「ご無事で良かったですぅ」


上から、ウルフ、ジャンさん、シルフィーナ、ヨハンくん。

薄々そうじゃないかなとは思ってたけど、やっぱ僕のせいなんですね、これ。


「司祭様……無事で良かったっ」


「お怪我はありませんか?司祭様っ」


号泣状態のユリアと鎖をジャラジャラと鳴らしながら身を乗り出すアーサー。


外野そっちのけで盛り上がる僕らに痺れを切らした男たちが「煩いっ!黙れ!!」と怒鳴り声をあげた。


バラ窓から月光の降り注ぐそこは教会。

神聖な筈のその場所で武器を手にした不届き者たちは王の部下だ。

入口の扉が開かれた。


「これは……っ?」


驚きの声を上げ、真紅の絨毯を踏みしめたのは第一王子。その後ろに付き従うのは騎士団長だ。入り口付近に待機した男たちが二人の後ろにいた年若い騎士たちを阻み、人質を示しながら王子に進むよう促す。


「役者が全員揃ったようだ」


両手を広げ、それこそ役者のように高らかな声を上げたのは国王だった。

バーンっ!と扉を開き大仰に登場した王。


なんなの?全員揃うまで祭礼準備室とかでずっと待機してたの?

場所が無駄に夜の教会なことも演出の一つですか?

そんな疑問がつらつらと浮かぶが、空気が読める僕は沈黙を保った。


「父上、これは一体っ?何のおつもりですっ?!」


「何のつもり、とは?」


「国の、いえ、世界の恩人でもある彼らになんという扱いを!今すぐ拘束を解いて下さい!!」


「もちろんだとも。彼らが言うことを聞いてくれればすぐにでも」


ニヤリ、と厭らしく笑った王がアーサーたちを見る。


「勇者殿、あの者を殺してください」


王が真っすぐに指さした相手は、自分の子供でもある第一王子。


「貴方という人は……」


「ふん。わしが何も知らぬとでも?この親不孝者の出来損ないがっ!!!」


「親……?貴方に親を語る資格があるとでも?」


「黙れっ!!!国を乗っ取ろうとする逆賊の分際でっ」


ヒートアップする親子喧嘩に僕たちは置いてけぼりだ。

他所でやってよ。そんなことを思っていたら、唐突に矛先が向いた。


「司祭殿からも勇者殿に頼んでは頂けませんか。この者はきっと魔族に誑かされているのです。親として王として、わしは辛くとも責任をとらなければ」


全然、辛そうじゃないけどね。

ただ自分の立場を脅かされるのが嫌なだけでしょ、という言葉は呑みこむ。


「そうすれば助けて頂けるのですか?」


代わりに出た言葉に王の瞳が輝き、王子たちの瞳には侮蔑が宿る。

その視線を避けるように軽く首を竦ませた。


「ですが、そもそもこの状況では現実的に無理なのでは?」


そういって拘束された身を示す。


「貴方方が言うことを聞いて下さるなら拘束は解きましょう。ああ、ですが。この空間には特殊な術式が用いられています。魔法は使えませんので無駄な真似はなさらない方が良いでしょう」


視線で示された僕のすぐそばに立つひょろりとした男にビンゴ、と心の中で呟いた。術者は多分こいつだろーな、って思ってたんだよね。やせて顔色の悪い男はいかにも術者然としてたし、ずっと僕の側にいるのもアーサーたちや騎士団長の近くだと危険だと判断してかなって思ってた。


「わかってますよ。そうでなければジャンたちがただ囚われているわけがありませんから」


「ご慧眼ですな」


はっはっ、と機嫌よさげに笑う王に僕は眉を下げる。


「ひとまず、ユリアに剣を突きつけている男性を退けては頂けませんか?彼女は首輪もつけている。危険性はないでしょう?か弱い少女にあのような扱いはあまりに惨い」


ぼたぼたと涙を流したままのユリアの姿を見て、王はあっさりと男に剣を収めて退くように命じた。完全優位の余裕だろう。


「ありがとうございます」


「いいえ。さぁ、今度はそちらが願いを叶えて下さい」


困った顔をして、僕はよろよろと立ち上がった。

王子の顔を見て「申し訳ありません」と告げた僕はゆっくりとアーサーたちへと向き直る。


「アーサー、ユリアを」


「守りなさい」とは言葉にせずとも伝わっただろう。


僕を担いできた大柄な男に思いっきり回し蹴りを叩き込む。

その勢いと共に跳び上がり、自らの両足で相手の頭部を挟み込んでそのままバク宙のような形で回転しつつ、大男を思いっきり放り投げた。プロレス技のフランケンシュタイナーの派生技みたいな感じかな?フランケンシュタイナーと違って下へ向かってじゃなくて、相手を王のそばの男たちに向かって投げたから巻き込まれた男たちがバッタバタと倒れる。


そのまま素早く剣を持った男の懐に潜り込んで当て身を加えて剣を奪い、ついでに王子を突き飛ばした。王子は騎士団長がキャッチしたし問題なし。巻き込まれると危ないから騎士団長から離れないでね。

因みに、手首の縄は袖口に仕込んだ石のナイフで切断済み。非常に有り難いっちゃ有り難いんだけど……僕だけ拘束が縄って舐められすぎじゃない??

アーサーたちとの差……。


「な、なにを……。司祭が剣など……」


「だから?」


ガタガタ震える男を前に冷ややかに首を傾げる。

手にした剣を振り下ろした。


血の飛沫を浴びながら、剣の柄を握り直す。

倒れ伏した痩躯の男の背にその切っ先を。


「司祭が剣を使えない?ただの戒律でしょう?

人を殺してはいけない、傷つけてはいけない。法を破り、人としての道に背く貴方たちが何を仰るのです?笑わせる」


術者の男が血を吐き、場に満ちる術が切れた。

これでジャンさんたちも大丈夫だろう。


残りの残党たちが怯みながらも武器を振り上げようとするが、右手を軽く上げるだけで終わらせた。ぐっと苦し気に首を押さえ、やがてドサドサと膝をつく男たち。


「先程のお言葉をお返ししましょう。あまり、無駄な真似はなさらないで頂けますか?無益な殺生は好みませんので」


そりゃあ僕は地味司祭ですけどね?

これでも勇者パーティとして魔王討伐の旅に加わってたからね?それなりに体力だってあればレベルだって積んでるんだ。それに聖魔法以外の火力の高い攻撃魔法は苦手だけど、知識チート舐めないで欲しいな。

魔族ならともかく、人間なんてちょっと結界応用した膜で顔付近覆えば息出来ないし楽勝だけど?


要はあれだ。

マジモンチートと比べんな!!!

そこいらの奴とだったら僕の方が全然強いつーの!!


「なっ、ななな……!」


恐慌をきたし、言葉にならない音を紡いだ王が次の瞬間、手にしたナニかを床へと投げつけた。


紫がかった水晶のようなそれが割れると同時に、酷く耳障りな音が教会を包む。強烈な異音に騎士達が礼拝堂内に雪崩れ込み、視線は歪な笑いを浮かべる王へと向かった。

ジャンさんの生み出した氷の結晶で縫い留めるように拘束された王はその状態にも関わらず、狂ったように笑った。


「わしは捕まらんぞ!!」


いや、既にめっちゃ捕まってますけど?

走り寄った騎士数名に取り押さえられる王を見て心の中で突っ込む。


「あーはっはっは!!こうなったら、全て道連れだ!!!

あと数十分もしてみろっ!!それにつられて大勢の魔族たちがここへ攻め込んでくるだろう!!もう誰にも止められん!!絶望に咽びなくといいわっ!!!」


「貴方という人は……一体、どこまでっ……!!」


典型的な悪役っぷりを披露する父親に対し、息子である王子は苦悩も露わに歯噛みするものの浮かぶ驚きは存外少ない。


「緊急事態発動!すぐに持ち場につけ!!」


キビキビと的確な指示を出していく王子を尻目に僕は「やっぱ知ってたんだな」と思いつつ、アーサーたちへと近づく。


「いま拘束を解くから待ってて。ああ、可哀想に痛いだろう」


手を翳してぐるぐる巻き状態の拘束を破壊する。痛々しく腫れた右頬に手を添え癒しを施せばあっと言う間にイケメン復活。頬をそっと撫でて傷の治りを確認していたらギュっと逞しい腕に抱き込まれた。

ちょ、苦しい。

しかもそこにジャンさんに同様に拘束を解いて貰ったユリアまで泣きながら抱き着いてきたものだから、僕は尻餅をつくことになった。


「司祭様っ、お怪我はありませんか?!」


「痛いとことか苦しいとこはっ??」


突如全身が神々しい光に包まれたのはユリアの回復魔法だろう。光の強さからも最高出力だろうそれに「もったいないっ!」と思ってる間にもアーサーに全身をペタペタと触られる。

無事を伝えてから「それより」と二人へ向き合った。


「これから魔族が攻めてきます。ユリア、結界の発動を。位置的にも正門のある北門が一番狙われるでしょうからアーサーとジャンは北門へ。ユリアも補助を頼みます。シルフィーナ様とヨハンは西門へ。私とウルフは東門へ向かいます」


「わたし、司祭様と一緒に行きますっ!」


「俺もっ!!」


駄々をこねられたが何とか二人を説得した。

めちゃくちゃ渋られた。


「ウルフ……司祭様に怪我させたり逃がしたりしたら、殺すぞ」


「ひっ!」


アーサー、それ勇者がしちゃ駄目な顔。

見て、ウルフの尻尾が股に挟まっちゃってんじゃん。


「司祭様、何処にもいかないでくださいね?」


袖を掴んで涙目+上目遣いで覗きこんでくるユリアの肩越しにめっちゃウルフがブンブン首縦にふってるよ。超必死だな。


「逃げんなよ、ぜってー、逃げんなよ!!!」


「そうだよ、ミシェル。あの後、すっごく大変だったんだから」


ジャンさんの言葉に頷くシルフィーナとヨハンくん。ヨハンくんとか涙目だしね。何があったのさ?聞きたいような怖いような……。


「住民の避難とかはどうするの?討ち漏らしの対処や飛空してくる魔族の対処も必要ですわよ」


「それは問題ないですよ。騎士団が対応して下さいますし、事態に備えて魔導師も配備してある筈ですから。ですよね?王子殿下」


「!!……あ、ああ」


驚愕に目を見張った王子が「何故それを?」と問いかけてくるが、時間がないのでまたあとで。今は魔族の対応が第一だ。



…………ってことで。

あっさり終わった魔族退治。


もうね、ほんとあっさり、さっくり解決しました。

そりゃー奴らのボス、一番強い筈の魔王と腹心たちをサクッと倒しちゃった勇者ご一行だもの。その辺の雑魚が相手になるわけないよね。


はい、解決ー!!お疲れ様でしたー!!解散!!


…………ってなるわけもなく、どうなったかというと。



 ▶『 しさいは、つかまってしまった 』 



煌びやかな一室で僕はアーサーとユリアに挟まれていた。


「えっと、狭くないかな?私はあっちの椅子へ……」


「「大丈夫です」」


ちょっと大きめだけど二人掛けだろうソファにサンドイッチされた僕は腰を上げようとして、両側から腕を掴まれた。



 ▶『 しさいは、にげだした 』 


 ▶『 だが、まわりこまれてしまった 』 



はい、逃亡失敗。

まぁ、本当に逃亡できるとは思ってないけどね。


魔族退治と後処理が終わってすぐ王子から呼び出し喰らった。

で、いまココ。


「さて、色々話を伺いたいのだが……」


第一王子が口を開いた時だった。


「ミシェル―!!」


「平気?ケガない?」


吹っ飛んできたなにかに僕は突撃された。

僕のまわりをふよふよと飛び回る“吹っ飛んできたなにか”の正体は妖精だった。

薄く透ける翅と指の長さぐらいしかない小さな体躯。お人形のような可愛らしい姿で抱き着いてきた三人(?)の花妖精の顔は見覚えがある。

でもなんでここにいるの?


「お前たち、何故ここに居るのです?!」


僕の疑問を立ち上がったシルフィーナが代弁してくれた。

彼女たちはエルフの森に住む花妖精だ。


「あっ、シルフィーナだ!」


「久しぶりー」


「ぶりー!」


自由を愛する妖精たちは行動も言動も割と自由。

彼女たちはエルフの王と契約してる精霊の眷属。そしてエルフの王とはシルフィーナの父上のアルベルト様なのだが……。あくまで敬意を払うのは主の契約主のみのようだ。


「どうしてここに居るんだい?」


「ミシェルがいなくなったってきいたのー!」


「でも、みつかったっていってたー!」


「だから、きた!!」


自信満々に答えてくれた妖精たちだが、現状把握の役にはあまりたたなかった。

まぁ、要は心配してきてくれた、ということでいいのだろう。

聞いた、ということはシルフィーナからでいいのだろうか、と視線を向ければ顔を背けた彼女はやや俯きながら髪を耳に掛けた。気まずいことや言いにくいことがあるときの彼女の癖だ。


「…………お父様から、時々報告を入れるように仰せつかってましたの……特に、貴方のことは、と。なので居なくなったのと、あと見つかったことも先程一報をいれましたわ」


「そうですか」


隣の二人がジトッとちょっと不穏な空気を醸し出しだのを手をぽんぽんと叩いて宥める。別に怒ってない。シルフィーナを旅のメンバーに加える時に、ちょっと脅し紛いの強引な手を使っちゃったから僕、エルフによく思われてないしね。警戒されてるのは当然。

ぶっちゃけ、最初はシルフィーナも塩対応だったけど今ではわりと良好な関係。

好かれてはいないだろうけど普通に会話してくれるし。良かった良かった。主に僕のメンタル的に。美女に蔑んだ視線で見られるの辛い……。


「無事でよかったー!」「心配したっ!」と口々にいってくれる可愛い妖精たちを指で撫でながらも「まさか内緒できたわけじゃないよね?」と大事なことを聞こうとした時だった。


またしても、突撃訪問。


部屋の一部の空間がぐらりと揺れたかと思うと、次の瞬間には迫力満点の美貌のエルフの王がそこにいらっしゃった。

さらにそれを追うように隣の空間が揺れ、美貌のエルフがもう一人。年若いその青年はシルフィーナの弟君だ。若いっていっても僕より数百歳年上だけど……。


「お父様っ?!それにアルトまで!」


「エルフの王っ?!」


シルフィーナと王子が驚いてる。もちろん、僕も。


そして今、

対面には大国の王子と寄り添う美女、斜め後ろに騎士団長。右手側のソファにはウルフとジャンさんとヨハンくん、左手側にはシルフィーナとアルベルト様とアルト。そして両隣にはアーサーとユリア。


あまりにも逃亡が絶望的な布陣に囲まれ、僕は痛み始めた胃を押さえた。





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