転生司祭は休日を過ごす 4
客足が一向に減らない……。
むしろ夕方になって早めの夕食やお酒を頼むお客さんと埋まる席が増える一方だ。
マズイ……これは予定帰還時間を過ぎてしまうぞ。
「すみません。帰りが遅くなる連絡入れるんでちょっと席を外します」
そう声をかければ見覚えのある常連客から冷やかしが飛んだ。
「なんだぁ、彼女に連絡かい?まだ夕方じゃねぇか。ずいぶんと束縛の強ぇ彼女さんだな!」
「あんたと違っていい男だから彼女も心配なんだろうよ」
酒も入って陽気なお客さんたちに違いますよと断り一度裏へと引っ込む。
“予定よりも少し帰るのが遅くなりそうです。夕食は先に済ませてください。そんなには遅くならずに帰るから心配しないで”
スラスラと書き綴った文字が光の文字となり宙へと消える。
伝言魔法で伝えられる文字数は限度があるので簡潔に用件と場所だけを送った。
束縛の強い彼女さんなんかじゃないけど、あんま心配かけると世界が滅亡の危機だからね。
痴話げんかよりよっぽど死活問題発生だ。
「ミカエルさん、そろそろ店じまいの札をかけといてくれるかい」
「はい、わかりました」
一応お酒も出すとはいえ、この店のメインはあくまで食事。
なので閉店時間もそれほど遅くはないし、それなりな時間には帰れるだろう。
…………とか思っていたのが甘かったようだ。
ダダダダダダダダダッと何処かから聞こえる音と騒ぎ。
何だろう?と思ってる間にもその音は店の前で急ブレーキをかけたように止まり、この時点でなんとなく予想はしていた。
「「ミシェル様っっ!!」」
ガンッッとなんとも形容しがたい音を立てて開かれ、否、壊されたドア。
蝶番が外れただけでドア部分を破壊されなかったことを喜ぶべきかどうなのか。
珍しくも息を切らしつつ僕を呼んだのは……当然のようにあの二人で。
「アーサー……。とりあえず扉を直しなさい」
頭を押さえていった僕の言葉に大変素直に従うアーサー。
そして遅れて駆けつけてきたぜぇはぁと肩で息をするウルフとシルフィーナの姿にはぁとひとつ溜息が漏れた。
シルフィーナはともかく、体力オバケのウルフがあの様子じゃよほど全力疾走したのだろう。
原因は……先に飛び込んで来たあの二人を追って来たに違いない。
ざわざわと騒めく店内をよそにとりあえずシルフィーナたちへとお水を渡す。
事情を聞こうにも喋れそうな様子じゃないしね。
ごくごくと水を煽る彼女らを尻目に僕に抱きつくユリアと、扉の修理を終えたアーサー。
「えっと、どうしてここに?」
「お迎えにきました!!」
「予定より遅くなるとお聞きしたのでお迎えに」
うん、簡潔なお答えありがとう。
伝言の“心配しないで”は“心配しないで待ってて”って意味だったんだけどな。
伝わらなかったか。
省略した僕が悪かったね。
たとえ省略せず伝えても伝わらなかった気しかしないけど。
「そのポンコツどもが暴走しないように追ってきたんだよ!」
投げやりなウルフのお答えと、まだ息が整わずコクコク頷くしかできないシルフィーナには申し訳ないという言葉以外に思いつかない。
……若干この二人も暴走しそうなメンツだなって思ったのはナイショだ。
あれ?勇者パーティ、問題児多くない??
未だ混雑したままの店内。
そして目立ちすぎる容姿の彼らに当然ながら気づくお客さんたちが現れた。
「勇者様っ?!」
「えっ、あれって聖女様じゃ……!!」
「待って!あの人たち見たことある気が……」
はいー、たちまち大混乱。
とりあえず野次馬たちが増えるのは勘弁なので目立つ彼らの姿と店内の声を遮るべくアーサーの直した扉を閉める。その際にCLOSEDの看板を下げるのも忘れない。
パタンと閉じた扉を背にすれば大騒ぎから一転、奇妙な沈黙と集まるお客さんたちの視線。非常に居心地が悪いです。
どうするかなーと考えたのは一瞬。
心配して迎えにきてくれた彼らを追い返すのは忍びないし、第一絶対に帰らない。
店内は僕に会いに来てくれた常連さんたちでいつも以上に混み合っており、閉店まではまだ間がある。
まずは呆けたままのおかみさんに近づき声をかけた。
「お騒がせしてすみません。新規で4名、いいですか?」
「そりゃあ構わない……けど……その、ミカエルさん」
「「ミカエル??」」
首を傾げるアーサーたちをとりあえず席へと案内した。
「もう少しかかるから食事をして待っていて。お腹もすいているだろう?」
実は入ってきたときからアーサーの視線が食べ物にチラチラ向いてたし。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいミカエルさん?!えっ、待って!ほんと待って!!」
やたらと手をパタパタと動きまわし、混乱をアピールするレーネ……とお客さんたちに向き直り溜息を一つ。
「えっと、その、その方たち……」
ブリキ人形のようにぎこちなく指をさすレーネに頷く。
「勇者パーティの皆さまです」
一瞬後、
「「「「「「「ええーーーーーー!!!???」」」」」」」
叫び声が木霊した。
防音魔法掛けててよかった。
じゃなきゃこの騒ぎで人が集まってたよ。
耳のいい獣人のウルフがめっちゃ顔を顰めて耳を塞ぎ、アーサーは構わずメニューを眺めている。
クイクイッと袖を引かれた。
「ミシェル様?ミシェル様はここで何してるんですか?それにミカエルさんって?」
首を傾げる聖女様ことユリアと僕の間を視線が忙しく行き交う。
「ミ、ミシェル様って……勇者パーティの司祭様のお名前だったような気が……ふふっまさかそんなわけ……」
わざとらしく笑みを浮かべて必死に否定したさそうなレーネたちには悪いけど、そうなんだよねぇー。実は。
重々しくコクリと一つ首を振れば、
「「「「「「「ええーーーーーー!!!???」」」」」」」
と叫び声再び。




