転生司祭は休日を過ごす 2
そうこうする内に街の人たちに案内された騎士が二人ほど駆けつけた。
軽くとはいえ暴れちゃったし、もしかして事情聴取されたりする?うわ、面倒臭い。
せっかくの休日なのに……とか思っているとバタバタと駆けつけた騎士の一人がガチリと動きを止めた。
「一体何が?」
質問を発した若い方の騎士に状況を軽く説明する。
男たちがレーネに強引に絡んでいたこと、彼女に手を出そうとしたので止めたこと、結果頭に血が上った男たちを正当防衛のために撃退したことを語れば周囲の野次馬たちも「そうだ!そうだ!」「その兄ちゃんは悪くねぇぞ!」と口添えしてくれた。ありがとうございます。
気を失わせた最初の一人と大柄な男以外は意識もあるので本人たちにも確認をとれば、すっかり大人しくなった彼らは「その通りです」と全面的に自供してくれた。
「悪いが念のため取り調べに……」
「いえっ!大丈夫ですっ!!」
これで事情聴取免れないかなー、ダメかなー、なんて思ってた途端の若い騎士の言葉に内心ガッカリしてると、到着以来固まっていた年長の騎士がピシリと正した背で唐突に大きな声を上げた。
「状況は充分確認出来ましたし、取り調べは彼らにみっちり行います。周囲の方々の供述もありますし問題はありません!」
いまにも敬礼でもしそうな雰囲気にあちゃ~と思う。
この反応は……絶対に僕のこと知ってるな。
僕のことっていうか、僕にやらかしたら勇者様たちがブチ切れるって情報の方かもだけど。
まぁ、地味で他のメンバーより目立ちにくいってだけで、別に変装してるわけでもないし顔を知ってる相手が見れば普通にわかるよね。
だけど有り難いっちゃ有り難い。
僕は素直に彼の言葉に甘えることにした。
「構わないんですか?」
「はいっ!治安維持へのご協力、誠に有難うございます」
ついには敬礼、90度のお辞儀をされた。
「ちょ、先輩?!どうしたんですか?」
「煩い!お前も頭を下げろっ!!」
ぐいぐいと若い騎士の頭を押さえつける騎士を慌てて止める。
その間にも応援なのかさらに二人ほどの騎士が駆けつけてきた。
近寄ってきて、ハッと息をのんだ彼らの顔には見覚えがあった。
「司祭様?!」そう叫ぼうとしたのだろう、「し」の形に大きく口を開いた彼らへ向けて唇の前で指を一本立たせた。意味は充分伝わったようで慌てて口を閉じる彼ら。
屈強な騎士が両手で口を押さえる姿はちょっぴりユーモラスだった。
僕に気付いている年長の騎士が状況を手短に説明すれば、大仰な礼こそしないものの目礼された。
その様子に若い騎士も流石に異変に気付いたのだろう、不安そうに先輩に小声で問いかけようとするも「黙ってろ」と黙殺されていた。
きっと大貴族のお忍びとかめっちゃ偉い人と思われてんだろうな。マズイ態度を取ってしまったとどんどんと蒼褪めていく若い騎士に「大丈夫だよー」の意味を込めて柔らかさを意識して笑いかける。
「その……もしも万が一、事情をお伺いする事態が発生したときは……その、お時間をとらせて大変申し訳ないのですが……後日お伺いすることがある……かも、しれません」
「もちろんです」
大変歯切れ悪い騎士の言葉ににこやかに返せば気を悪くしていないことにたいしてかほっと息を吐かれた。
待って、ねぇ僕ってもしかして危険人物扱いされてる?
騎士さんたち汗ダラダラなんだけど。
「お勤めご苦労様です。それでは、あとはお任せしてよろしいですか?」
「はっ!」と綺麗な敬礼とお辞儀を受けて、やがてゴロツキどもは縄を巻かれて引かれていった。
とりあえず露店の板を戻し、実はずっと空中停止させたままだったフルーツたちをゆっくりとそこに着地させる。
「大丈夫だった、レーネ?」
声をかければぽかんと口を開いたまま心ここにあらずだったレーネが激しく瞬きした。
それにつられたように周囲の人々も徐々に動きを再開。
「すげー!魔法だ!お兄さんめっちゃ強い!恰好いい!!」
キラキラした瞳を向けて少年が叫んだ。
さっきも「魔法だ!」と叫んでた露店の少年だ。
女主人の子どもらしく、男が刃を振り上げた際には脇に居る小さな妹と母親を両手をいっぱいに広げて守ろうとした実に勇敢な少年。
「魔法が好きなのかい?」
「うん!だって恰好いい!」
胸の前で両こぶしを握って力説する少年の前にふわりとパイナップルを浮かべた。ナイフは危ないので回収済み。
軽く指を弾くようにすれば一瞬で凍りつく果実。
そして綺麗に等間隔に分解された状態で宙に浮かぶそれに「わぁ!」と歓声が漏れた。
「お母さんのお手伝いをして偉いね。ご褒美にどうぞ。冷たくておいしいですよ」
「ありがとうっ!」
「頼りになる恰好いいお兄さんがいてよかったね」
男の子に、そしてその背から顔を出す小さな女の子に冷凍パインを手渡せばお礼をいった子どもたちは早速それにかぶり付いた。
「すごい!おいしい!」「冷たい」と楽しそうな声が聞こえるなか、レーネにも一つ差し出した。
「レーネも食べる?」
「……ありがとうございます。あっ、美味しい……じゃなくてっ!待って、ミカエルさん待って!状況把握が追い付かないです!」
素直に受け取って一口齧り、ノリ突っ込みみたいに慌て出したレーネはいつもの元気を取り戻したようだ。
「宜しかったら皆さんもどうぞ」
まだいくつも浮かんでる冷凍パインの処理を任せてしまおうと周囲にも声をかければ次々と手が伸びた。
冷凍パイン、大好評。
「お代を支払う前に勝手なことをしてすみません。お幾らですか?」
「い、いえっ!お代なんて結構です!!むしろ助けて頂いたうえに商品もダメにならずにすみました。ありがとうございます!」
「ちょっ……!ミカエルさん?!ナチュラルに私をスルーしないでください!……強っ!ミカエルさんめっちゃ強いんですけど!えっ……?相手五人も居たよね?あれを瞬殺?!ちょっとミカエルさーーーん!!」
女主人も大慌てでペコペコお礼をし始めるし、レーネは大混乱。
周囲の野次馬たちも「すごかったぜ!」「兄ちゃん只者じゃねぇな!」と肩をバンバン叩いてきたり口笛を吹き鳴らしたりと大騒ぎになった。
盛り上がるのはいいが乱闘とかと間違われてまた騎士がきても面倒なんで皆さんちょっと落ち着いて!
「なんか逆に大荷物になっちゃったね」
言葉通り僕の両手にはでっかい紙袋が二つ。
同様のをレーネも一つ。
まぁ、魔法で重力調整してるから見掛けのわりに重さは苦じゃないんだけど。
大荷物片手に路地を歩く。
あの大騒ぎの最中、僕はレーネに問いかけた。
「ところで、買い出しの途中じゃないの?」と。
そして見る間に顔色を悪く変色させていくレーネ。まるでリトマス試験紙だった。
彼女の脇に置かれた重そうな荷物の量からそう判断したのだが、やっぱり店での買い出しの途中だったようだ。
「大変っ!急いで店に戻らないとっ!!」
大慌てのレーネに僕は荷物持ちを申し出た。
野菜や肉がパンパンに詰まった紙袋は随分と重そうだったからね。
そうして荷物持ちを申し出たのはいいのだが……。
この時点のレーネの買い出しは大きな紙袋一つに小さめの袋が一つ。
フルーツの露店の女主人が「お礼に」と艶々とした赤色が美味しそうなリンゴや店の商品をいくつも包んでくれ、近くの店主らも「いいもん見させてもらったぜ!」「持ってきな!」とあれもこれもと大盤振る舞いしてくれちゃったのだ。
結果、荷物が増えに増えた。




