第25糞 負けイベント
俺は姫宮さんからの応援で、茸澤と戦う覚悟を決めた。
「……うん、頑張るわ」
が、無駄な戦いはできるだけ避けたかったため、とりあえず茸澤との和解を試みることにした。
「……なぁ、茸澤…ちょっと話さないか?」
そう言いながらオレは茸澤の方へと一歩一歩徐々に近づいていった。
『キンタさん、タケザワさんは今『魔呪』にかかって五感を失ってる状態なんですからそんなことしたって意味無いですよ……』
『……そんなこと言ったってやってみないと分からないじゃないですか!……あと、茸澤のレベル見てみてくださいよ!255ですよ!!』
『……何言ってるんですか笑、妖怪ウォ○チじゃあるまいし笑笑………………えっ、マジじゃないですか』
『前にスカーレットさんこのゲームのカンストレベルは99って言ってましたよね?』
『はい、言いました……もしかしたら魔呪と一緒に操作したのかもしれません……ネナロ…様が』
『糞!、俺の唯一の取り柄が!』
このゲーム内で中々成し遂げられないカンストは俺のアイデンティティと言っても過言ではなかった。
それがなくなると言うのは、いわば敗北と言ってもよかっ…
『それは違いますよ!!……オマタさんとの戦いを思い出してみてください……カンストしてるキンタさんをあと一歩って所まで追い込んでたじゃないですか!!』
『……でもそれは実力差があったかっ…』
『今の状況も大いにありますよ!タケザワさんは五感を失って右も左も分からない状況で剣を振ってるわけですから!』
『たっ、確かに…!』
スカーレットさんの言葉を聞いている内に闘志がみるみる湧き上がってきた。
「いける、いけるぞーーーー!!!」
大声を出すことで、俺は自分の心を奮い立たせた。
「うおおおおおおおおおおおおお……!」
そして、茸澤の方へと猪突猛進した。
「ダッシュ斬りやぁーーーー!!!!」
俺は目の前の茸澤に剣が届く距離になった所で、上から下に素早く剣を振るった。
「グハッ」
しかし、俺の斬撃は茸澤に当たることはなく、逆に俺が茸澤から斬撃を喰らってしまった。
『大丈夫ですか!?キンタさん!』
「大丈夫!?糸魚川くん!」
「……ちょっと大丈夫そうじゃないですね」
たった1回の斬撃で俺のHPは3分の1も減っていた。
「……なんで茸澤は反応できたんだ?」
『たぶん『第六感』があったからできたんだと思います……』
『六感?』
『はい、五感がなくなる代わりに獲得できる六感です
説明は難しいんですけど今の場合だと第六感でキンタさんの斬撃を予知したんだと思います』
『そんなのもう勝ち目がないじゃないですか……』
『……いや、あります!『小石投げ』という技をつかえばいいんです!』
『えぇ〜、糞技じゃないですか……』
『小石投げ』とはただただ小石を投げてダメージを与えるという『カバディ』がマシに見える程の糞技だ(もちろん与えられるダメージ量は『1』だ)。
『小石投げを舐めないでください!
小石投げは五感ブレイカーの中で1番射程距離が長くてしかも連射速度も1番速いんです!!
……実際、同じ魔呪を持ったラスボスのロッカン魔王への攻略法としても小石投げが使われてたりします!!』
『は、はあ…………それじゃあ使ってみます!』
銃の方が小石よりも圧倒的に使えるだろ!という感じであったが、他に茸澤に対抗できる術が激臭以外見つからないため使ってみることにした。
「観念しろ!茸澤!……いくぞ…小石投げ!!」
俺は無我夢中で小石を投げた。
茸澤は大体の小石は避けられていたが、中には避けきれないで当たっているものもあった。
『いい感じです!キンタさん!』
「『小石投げ』を使うとは……糸魚川くん、只者じゃないな」
姫宮さんがそう言うってことはスカーレットさんの話は本当だったのだろう。
少しすると、小石を投げ続けている俺の側に姫宮さんが来た。
「決闘に第三者が入り込むのはよくない…って、そんなこと言ってる場合じゃないよね!」
そう言って、姫宮さんも小石投げを使い始めた。夫婦の共同作業という感じでなんか嬉しかった。
『キンタさん糞キモイですよ』
『すいません……』
「よし、あと少しだ!」
小石の数が倍になったことにより、避けきれない小石の数も増えて、案外すぐに茸澤のHPはなくなりそうだった。
だが、HPのゲージが0になっても茸澤が倒れることはなかった。
「糞!なんで倒れねーんだ!」
俺がそんなことをほざいていると姫宮さんが小石投げをするのをやめた。
「糸魚川くん、一旦攻撃止めてもらえる?」
そして、俺にも止めるよう促した。
「は、はい!」
俺が小石投げをやめると、姫宮さんは渋々と話し始めた。
「……やっぱりロッカン魔王と同じだったね」
「え?なにが?」
「え?……ロッカン魔王もHPが0になっても倒せないじゃん……カンストしてるんだから知ってるよね?」
「あっ、あ〜そうだね!」
知らなかった。
「これじゃあもう勝ち目が……」
姫宮さんが切歯扼腕しながらそう言った。姫宮さんの悔しそうな顔を見ていると、俺はもう激臭を使うしかないなと思った。
「いや、1つだけあります!」
「え?」
「姫宮さんに迷惑をかける形になりますけど……どうか許してください!」
そう言い、俺は満を持してヘルメットを外した。
アイデンティティが負かされた今、激臭だけが俺のアイデンティティと化していた(臭さなんて誇れるものではないだろうが)。
「糸魚川くん、ヘルメット外して……何するの?」
「…………」
まさか、激臭すらもなくなってしまうとは思いもしなかった。
「え?俺臭くない?」
「???……何言ってんの?」
そう言った直後、姫宮さんは俺が本当に臭いのか確かめようと顔を近づけ匂いを嗅いだ。
「いや、臭くないけど……香水つけすぎちゃったの?」
「そういうわけじゃ……」
思いもよらない出来事に、俺の心はもうズタボロになっていた。
『スカーレットさん…………どうしましょう泣』
頼みの綱はもうスカーレットさんしかいなかった。
『え?は?何?なんで臭くないん?え?え?激臭だぞ?』
が、そんな頼みの綱の心も(下手したら俺以上に)ズタボロになっていた。