第24糞 好きな人からの応援っていいよね
スカーレットさんと和解したあと、疲れていたのかオレはすぐに寝落ちしてしまった。
「ふぁあ〜……おはようございます…スカーレットさん」
『キンタさんおはようございます!』
昨夜のこともあってか、今朝のスカーレットさんはなんだか空元気のようだった。
「…やべ〜風呂入らねーと」
ここでスカーレットさんのことについて考えているとスカーレットさんにバレてしまうため、俺は自分の気を紛らわすためにそう言った。
お風呂に入るといろいろ考え事をしてしまうという人はたくさんいる訳だが、オレもそのタチであった。
そのため、オレはシャワーを浴びながら無意識の内に色んなことを考え込んでいた。
なんかこのシャンプー匂い強いよな〜(ボディソープも)しかも紫色だし…(ボディソープも)
てか今はそんなことどうでもいいんや!……この後浅川とどんな顔して会えばいいのか考えないと!!
……ん?いや待てよ、それよりももっと大事なことがあったような、なんか生死に関わるような…………は!
今日オレ茸澤と戦うんだ!……すっかり忘れていた。
……若林の話を聞くまではオレは一応レベルがカンストしていて実戦も多少は積んだ訳でゲーマーな茸澤にもなんとか勝てるんじゃないかなあと結構自信があった……若林の話を聞くまでは
若林から茸澤は『魔呪』という言っちゃえば不死身な能力を持ってると聞いて、もうゴリゴリに戦意喪失してしまった。
不死身ってもう勝てる見込みがないよな……いや、でも漫画とかで不死身のキャラを倒したりしてるな!?
……デンジみたいに茸澤のこと食べるか!?
…………流石にそれはできねーな、えーまじでどうしよ。
…………てか魔呪って不死身になる代わりに五感が無くなるんだよな?……え?それって死ぬくね?
『え?茸澤死んじゃわないですか!?スカーレットさん!……あれ?…スカーレットさ〜ん!』
『……キンタさん、お風呂出てから話しかけて下さいよ……』
『え?なんでですか?』
『……その、見えちゃってるんですよ、キンタさんのその糞ちっちゃいちん…』
『あ〜〜はい!分かりました!!』
その後、オレはスカーレットさんに言われた通り風呂を出て、しっかり服も着た上でもう1回同じ質問をした。
『……やっぱり茸澤死んじゃいますよね?』
『ん〜、一応現実と連動してるのは顔と手だけなんでその他の部分に関しては触覚が残りますね……でも、そうなったとしても顔には五感が集まってるんでゲームでは死なないとしても現実の方で死んでしまうかもしれないですね……』
『……ですよね』
『まぁでも若林さんが言ったことなんで分からないですよ!ハッタリかもしれないし!』
『そうであって欲しいですね……』
俺もその可能性は考えたが、今回に関してはなぜだかとてもいやな予感がした。
『…まぁいざとなったら『激臭』使っちゃいましょう!』
『いいんですか!?……前に臭すぎて村1つ滅ぼしましたけど!?』
『大丈夫ですよ!あの時1番近くにいた松谷さんも今生きてますし!……まる1日気絶してましたけど』
『……本当に大丈夫ですか?』
『大丈夫大丈夫!!……ほら!早くコロシアムに向かわないと!遅れちゃいますよ!!』
『あ!ほんとだ!』
スカーレットさんとの話を通して、茸澤との戦いに対してまだ大分不安はあるがなんとか頑張ろうと思えるようになった。
そして、俺はそんな不安定な決意を胸にコロシアムへと向かった。
コロシアムの入口付近に着くと、いつものように姫宮さんが待っていた。だが、姫宮さんの顔は普段とは違って深刻な顔をしていた。昨日、あんな別れ方をしてしまったからだろう。
「……あっ!糸魚川くん、おっ、おはよう!」
あと、態度も普段とは違った。これに関してはワイルドドラゴンの正体が糸魚川金太だと分かったからなのだろう。はっきりと言える。
今までの素の姫宮さんが見れないと思うと悲しい反面、今の姫宮さんの方がオレの中の姫宮像に合っていて嬉しさもあった。
「……どうしたの?糸魚川くん」
オレがしょうもない考えをして黙りこくっていたため、それを見兼ねてか姫宮さんが話しかけてきた。
「いや!なんでもないなんでもない!……早く茸澤と戦わないとだね!」
「うん、それがさ……」
「……どうしたの?」
「……多分見た方が早いかも」
そう言うと姫宮さんは、ついて来てと言わんばかりにコロシアムの中へと向かっていった。
コロシアム内に足を踏み入れ、観客席の方を見渡すと浅川たちの姿がなかった。自分がまいた種でこうなってしまったわけだが、俺はもう浅川たちに見放されてしまったのかと悲しくなった。
が、そんな想いをかき消すような禍々しいオーラを放った茸澤の姿が目の前にあった。
「ネ…ナロ…様……ネ…ナロ…様……」
「え?……茸澤なんだよな?」
そうやって声に出してしまうくらい、目の前にいる茸澤は目の焦点が合っておらず、その上ふらついていて、とても異様であった。
「…ぃがわくん!糸魚川くん!」
「…はっ!」
目の前の異様な光景に俺はただただ呆然としていた。
それを見兼ねてか、姫宮さんが声をかけてくれた。
「…………昨日のこともあって気が気じゃないと思うけど頑張って!!」
そして、応援もしてくれた。
今、何が起きているのか分からず、頭がこんがらがっていたが好きな人に応援されたという事実が、どこからともなくやる気を漲らせた。
「……うん、頑張るわ」




