第19糞 若林の独り言
お待たせしました。読者様。
おれの名前は若林。
自分で言うのもなんだが、クラスカースト最上位の一軍男子なるものだ。
おれは今、イケてるマイメンの1人(浅川)の恋を成就させるために「五感ブレイカー」というゲームをやっている。
恋の成就への道、第一歩として浅川の好きな人がいる「レッド」というギルドへの加入を懸けた決闘をすることになった。
その決闘は、おれ、浅川、尾股、茸澤の4人が1日1人ずつ、ダサいヘルメットを被ったプレイヤー「ワイルドドラゴン」と戦うというものだ。
そして今現在、決闘開始から2日経過した。
2日経過しているということは、おれたち4人のうち2人がワイルドドラゴンと戦ったということになる。
そのワイルドドラゴンと戦った2人は尾股と浅川な訳なのだが、2日目の夜になるにも関わらず今日が決闘当日であった浅川とそれについて行った尾股は未だに帰ってこないでいた。
おれは今暗くなった森の中をブツブツ言いながら歩いている茸澤について行っていた。
「浅川たち帰ってこないなぁ〜」
「ブツブツ……ブツブツ」
おれの話には耳を傾けず、茸澤はずっとブツブツ言っている。
「……はぁ」
浅川たちはおれのこと置いてくし、茸澤はずっとブツブツ言ってるし…………おれが何したって言うんだよ…
そんな憤りを感じながらもおれは茸澤について行くことしかできなかった。
五感ブレイカーの夜の森は現実だったら遭難してしまうレベルに真っ暗で人が進めるような道には思えない。
だが、そんな今のおれたちを表すようなお先真っ暗な道を茸澤は迷うことなく進んでいる。
なんで迷うことなく進めるのかおれはダメ元で茸澤に聞いてみた。
「なんでそんなに迷いなく進めるんだよォ」
「ブツブツ……ロッカン…ブツブツ」
「ロッカン?」
ブツブツと言っている言葉の中から「ロッカン」という単語だけが鮮明に聞こえた。
「ロッカン」という単語には聞き覚えがあった。
確か、このゲームのラスボスの名前が「ロッカン魔王」だった気がする。
「だとすると」
おれはそう言いながら、一際目を引く森の中央にある城の方に目を向けた。
茸澤はラスボスのいる城を目指しているのか?
そう考えるとこの暗闇の中を迷わず歩けるのにも辻褄が合った。
その後小一時間くらい歩き、ラスボスのいる城に着いた。
やはりおれの予想は正しかったらしい。
てっきり城に入りラスボスと戦うことになるのかと思ったが、茸澤は城を素通りした。
おれは「え?ラスボスと戦わないの!?」と拍子抜けしたが、正直ラスボスと戦いたくなかったので嬉しかった。
「おいおいおい〜茸澤どこ行くんだよお〜、ラスボスに怖気付いてしまっかあ〜」
「ブツブツ……ついた!」
「え?」
茸澤の「ついた!」という声に反応し前を見ると、ボロボロになった倉庫があった。
城の少し外れた所にその倉庫はあるため、多分随分前に現役から退いた倉庫という設定なのだろう。
こんなボロボロの倉庫になんの用があるんだ?と思ったが、「そんなこと言わせはしない」とでも豪語しているような、そんな空気がその倉庫からは感じられた。
おれがそんなことを考えていたら、いつの間にか茸澤はその倉庫のオンボロなドアを開け、入ろうとしていた。
「ちょ待てよ!茸澤!」
茸澤がおれを置いてドアを閉めようとしたため、おれは慌てて倉庫へ入った。
「ケホッ、ケホッ」
倉庫の中はとても埃っぽい。そして倉庫の中には何も無いため、長年人の出入りがなかったのだろう…………え?
それなのに目の前には和服っぽい衣装を纏った異様な雰囲気を放つ人がいた。
「やっと来たか。タケザワタケアキ。」
「お待たせしました。ネナロ様。」
「え?ネナロ?誰だそいっ!!」
一瞬茸澤が振り向いたと思うと、画面がいきなり真っ暗になった。
もしかしておれ、茸澤に殺されたのか?




