第17糞 違和感
「待てよ、ワイルドドラゴン。いや、金太。」
「え?」
「何で俺の名前を知ってるんだ?」
「声に出てるぞ、金太。」
「あ、やべ」
『前回はかぎかっこ付いてなかったのにー』
『何言ってるんですか?キンタさん。』
その後オレと浅川はコロシアムの外にいる尾股と合流した。
尾股は「おぉ来たか」と気さくな感じで、ふたりともオレのことをリンチにする気配はなかった。
『キンタさん、この際自分が金太だって認めて御二方に何で分かったのか聞いちゃいましょう!』
『確かにその方が潔いですね…』
スカーレットさんの助言もあり、オレは浅川たちにオレが金太だと分かった理由を聞くことにした。
「……浅川、何で俺が金太だって分かったんだ?」
「!……自分で認めちゃうんだ。」
「なんか、ここで嘘ついてもどうせバレるんだろうなぁーって思って…」
「はは!金太嘘つくの下手だもんなー笑笑……
で、何で金太だって分かったか…だっけ?
そんなん友達だからすぐ分かるわ笑」
「あっ、そっか…」
俺は素っ気ない返事をしたが内心なんか嬉しかった。
俺は現実で死ぬ直前に浅川たちが俺抜きで焼肉に行っていたというのを聞いて知らぬ間に浅川たちと俺との間に心の壁を作っていた。そんな壁に今、ヒビが入ったような気がした。
少し雑談をした後、浅川が声を詰まらせながら言葉を発した。
「ここに金太を連れてきた理由なんだけど……」
浅川がオレをここに連れてきた理由……正直オレには予想がつかなかった。だが浅川達に漂う雰囲気からして深刻な理由があるんだろう。
その答えは俺の予想通り深刻なものであった。
「茸澤を救って欲しいんだ。」
茸澤とはゲームが好きな浅川の取り巻きの1人だ。
浅川が真剣な眼差しで「救って欲しい」と言ってきた為、茸澤の身に余程の事があったのだろう。俺は浅川たちとゲームで初めて顔を合わせた時茸澤の『不可解』な発言を見たのもあり、さらに茸澤への不安は増した。
「救って欲しいって、茸澤に何があったんだ?」
「俺たちにも詳しいことはよく分からないんだけど、ずっとぶつぶつ言いながら祈ってんだ………誰かに洗脳されたみたいに。」
浅川は重々しい表情をしながらそう言った。
俺は茸澤の寡黙な一面しか見た事がなかったため、茸澤のぶつぶつ言いながら祈る姿を想像する事ができなかった…いや、想像したくなかった。
その後俺たちは茸澤の洗脳をどうやって解くか考えた。『友達の洗脳を解く』という内容からシリアスな会話になると思ったが、浅川が気を遣ってか俺たちのハチャメチャで面白い思い出を会話の中に紛れ込ませてくれた。その甲斐あってか楽しく話すことができた。
そして茸澤の洗脳を解く方法について。それは最終的に俺が茸澤との試合で圧倒的な力の差を見せつけて勝つというものになった。
なぜ、こんな作戦に至ったのか。それは茸澤の性格が大いに関係している。
茸澤はゲームが好きである。そしてゲームスキルは高い。それ故に茸澤は自分より強い人に嫉妬する。
そのため俺が茸澤に圧倒的な力の差を見せつけて勝てれば茸澤の『誰か』に対する信仰心も消えるのではないかという考えに至り、上記の様な作戦になった。
かくして俺は茸澤に勝つため修行をすることになった。
来週は休みます。