第16糞 ワイルドドラゴンは糸魚川金太
俺は試合に勝って勝負に負けた。
あれから生き返った尾股に金的をしてしまったことに対して謝罪をし、別れを告げた。そして卑怯な勝ち方をしてしまったという心残りを抱えながらオレは宿へと戻った。
『キンタさん、やっぱりあの事まだ気にしてるんですか?』
1人ベッドで俯いてるオレに向かってスカーレットさんが話しかけてきた。
『……はい、気にしてるに決まってるじゃないですか…』
『いきなりゲームの世界に転生っていうのもね〜…』
『いやその事はもう割り切ってますって!』
『あはは、さっきのオマタさんのことですよね』
『そうですよ!』
『でも戦いってそんなもんじゃないですか……どんな殺り方でも勝ちは勝ちなんですから。』
『……それは分かってるんですよ
俺が気にしてんのは戦いっていうものの「怖さ」なんですよ!また明日の戦いでも今日みたいな状況になると思うと怖くて怖くて……!』
自分らしくはないと思いながらも今抱えている感情を思うがままに吐き出した。
『……キンタさん』
「…………」
『…すいません!こんなこと言ったとしても戦わないとですよね!』
そう言って風呂に入りすぐさま寝床に就いた。
寝床に就いたはいいが中々寝ることはできず、そのまま朝を迎えることになった。オレが寝ていないことにスカーレットさんは気づいていそうであったが、気を遣ってくれたのか話しかけてくることはなかった。あんな能天気なスカーレットさんに気を遣わせてしまったことにオレは何とも言えない申し訳なさを感じた。
その後夏休み明けの学校くらい行きたくなかったが、何とかコロシアムへと足を運んだ。
オレは流石に今日の対戦相手は『つまらん男』若林だろうと予想していた。
しかし、その予想は見事に外れた。
なんと二日目の対戦相手は『将軍』浅川であった…
浅川はコロシアムにはとても合いそうにないTHE将軍という感じの甲冑を着ていた。
一見ふざけているように見えたが浅川の目は真剣であった。その眼差しはオレがビビって動けなくなるくらいのものであった。
「それでは試合を始めるー…」
「ちょっと待ってくれないか、姫宮譲。」
浅川は姫宮さんの声に被せてそう言った。
「どうしたんだ?」
姫宮さんにそう返されると浅川は銃を向けられた時みたいに両手をあげた。
「今日の試合俺の負けにしてくれ。」
「「え?」」姫宮さんとハモった。なんか嬉しい……が、浅川と戦わなくてすむことの方が嬉しかった。でも、それと同じくらい自分を負けにしてくれと言ったのが気になった。
オレが呆気に取られ一点を見つめながら突っ立っていると浅川が深刻な面持ちで話しかけてきた。
「ワイルドドラゴン、俺に付いてきてもらっていいか?」
「え?あぁ、いいけど……」
普段ウェイウェイ言ってる浅川が深刻そうにしていて気になったので付いていってみることにした(なんか怪しそうだが…)。
出口までがやけに長いコロシアムの中を歩いているとスカーレットさんが話しかけてきた。
『キンタさん、アサカワさんにてくてく付いてっちゃって大丈夫ですか?』
『……ん〜、確かに怪しいですけど浅川が誰かにあんな頼み方するところ見た事ないんですよね。だから本当に「俺」にしかできないことがあるんじゃないんですかね……』
『……そうですか。』
そしてコロシアムの薄暗い道を歩いて少し経つと外の光に照らされた出口が見えてきた。出口の先には誰かが立っていた。目を凝らして見るとその人は尾股であった。
「ゲッ!尾股!?」
「あぁ今日は尾股にも来てもらったんだ。」
『はっ!』その時ある事に気づいた。
浅川が試合を棄権したのは昨日の恨みを晴らすために2人がかりでオレのことをリンチにするためなんじゃないかと!!
『ああぁ、オレリンチにされんだーーーー!』
『え!?チンチン!?』
「ワーーーーーッ」
オレは来た道を戻るように逃げようとしたがガシッと浅川に腕を掴まれた。
「待てよ、ワイルドドラゴン。いや、金太。」
「え?」
何で俺の名前を知ってるんだ?
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