第15糞 「戦い」
俺はカバディを真剣に挑むことにした。
「やろう!カバディ!!」
このゲームにおいてのカバディの概要としては、「カバディ!!」と連呼しながら相手にタッチすると一定のダメージを与えられるというものらしい。そして与えられるダメージ量はレベルが上がれば上がるほど多くなるので、レベルがカンストしているオレの方が有利になるがそれはオレがカバディをやった事がないということで尾股がハンデとして扱ってくれた。
またオレと尾股の戦いについては、技は『カバディ』だけを使用し、先にHPがなくなった方が負けというものだ(しかしダメージを直接的に与える技でなければ使ってもいいらしい)。
以上のことから分かる通りオレの方が圧倒的に有利なためこの戦い何としてでも勝ちたい……
カバディもどきを始めてから1分程経ったが、お互い相手の動向を探っていて攻めずにいた。
『糞ー!焦れったいなぁー』
『下手に動いたらタッチされると思うと動きづらいですよね〜』
呑気にスカーレットさんと話しているように見えるかもしれないが、尾股がこちらをじっと見てきていて怖い思いをしていた。
『……キンタさん気をつけてください』
『?、何にですか?』
『!、何ってキンタさんどんどん壁沿いに追いやられてますよ!』
『……あ!ほんとだ…』
後ろの方をチラッと見るとコロシアムの真ん中でカバディもどきを始めたはずなのに、オレと壁との距離は手を伸ばせば届くくらいの近さに縮まっていた。
どうやらオレは無意識の内に尾股の目力で足を引いていっていたらしい。
オレはその後足を止めようと心がけたがオレの足が尾股の目力に打ち勝てる訳もなく、遂にオレの背中は壁にもたれてしまった。壁にもたれた上で見る尾股はガタイの良さからか大きな壁のように見えた。
「ん?怖気づいちまったか?」と大きな壁はにやけながら言った。その様はとても不気味であった。そしてその不気味さは更にオレを怖気づかせた。
「あ…あぁ……」
「じゃあ遠慮なくいかせてもらうぜ」
「カバディ!!カバディ!!カバディ!!カバディ!!カバディ!!」
曖昧ではあったが攻撃を食らっているのが分かった。
思えば「戦い」という行為を本格的にしたのは今回が初めてであった。
尾股の圧だけでなく戦いの中での臨場感や緊張感、その他諸々の事象が俺を恐怖のどん底に陥れたんだろう。「人生の一軍になりたい」と言っていた自分が馬鹿馬鹿しくなった…
『キー…さん!』
『キンタさん!!』
自分の無力さを知り絶望を痛感している中、1つの声がこだました。
その声の正体はもちろんスカーレットさんであった。
スカーレットさんが続けて喋った。
『えー…らー……逃げてください!!』
最初の方は何と言ったか分からなかったが『逃げてください!!』だけははっきりと聞こえた。
オレはその言葉の赴くままに尾股の弾丸のような乱撃から逃れた。
「はぁ………はぁ………」
走った。
「はぁ…はぁ…」
とにかく走った。
少し経つと尾股も追いかけてきた。
オレと尾股の速度は尾股が俊足を履いていたため同じくらいであった。しかし時間が経つにつれてオレと尾股との距離は縮まっていった。
やがて後ろにいた尾股が「しめた!」と言い、オレに飛びかかろうとしていた。
「あっ、死んだ…」
人間死ぬ時は呆気ないなと思った。
大層なことを言ったとしても生命の終わりは劇的にはならないのだと痛感した。
そして不運なことにオレは何かにつまずきこけてしまった。
……いや、幸運なのかもしれない。
こけた時に上に伸びた足が丁度尾股のお股に当たった。
「ぐはぁ!」
『ナイス金的ー!!』
急所だからなのかもしれないが尾股は結構なダメージ量を喰らっていた。
金的を喰らい身動きがとれなくなった尾股に対してスカーレットさんが『今の内にヤッちゃいましょう!』と下劣なことを言ってきた。
普段のオレだったらそんなことやらなかったかもしらないが、またさっきみたいな「戦い」が再び起きるかと思うとここで殺ってしまおうと思ってしまった…
「カバディ!!カバディ!!カバディ!!カバディ!!カバディ!!カバディ!!」
金的によりHPが相当減っていたため案外すぐに倒すことができた。
「勝者!!ワイルドドラゴン!!」
「はぁ…はぁ……」
試合に勝って勝負に負けた感覚がした。
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