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第9話 幼なじみと『ラブホ』探検!(その2)

「へー……、こんな感じナンダー」


 僕らはとりあえず、一番近くにあった空き部屋に足を踏み入れてみた。

 そこは、それほど広くはないが、手入れの行き届いた落ち着いた雰囲気の部屋だった。

 小さなガラスのテーブルに、ふたり掛けのソファ。ソファの向いの壁際にある棚には……なんだろう、黒い板があるなあ。初めて見るものだ。配置としては、ソファに腰かけたまま、その黒い板を眺める格好になるんだろうけど、用途がよくわからない。異世界の道具なんだろうか。ウームナンナンダロウナー。

 ……うん、わかってる。僕が、僕自身に嘘をついているってことを。本当はそんなのどうでもよくて、圧倒的な存在感を示す大きなベッドに、意識のほとんどを持っていかれていた。

 このベッドの上で、その、『する』んだよね、恋人同士が。あんなコトとか、こんなコトとか。いや、×××で○○○なコトも! いやいや▲▲▲で■■■■なコトなんかも? ひーどうしよう!

 

「ねえ見て、ルクス」

「――へいっ!!!!」

 

 またもや妄想中に話しかけられて、変な声を出してしまった。

 見るとティアナは、ベッドの枕元と壁との間に設えてある小さな棚のスペースに、複数のボタンがあるのを発見したようだった。

 

「このボタンを押すと、ほら、部屋が薄暗くなった! こっちのボタンは……あ、なんか音楽が流れてきたわよ?」


 ティアナは不思議な仕掛けに夢中になっていて、先ほどの僕の動揺は気づかれていないようだった。――よかった。

 それにしても、魔法仕掛けでもないのに、部屋の明かりを調整したり、音楽を流したりできるなんて……。やっぱり、異世界の技術だったりするんだろうか?


「枕元に置いてある、この小さな箱には何が入ってるのかしら。……ん? 平べったい包み……あ、指で破って開けられるのか。何か出てきた。何だろう、このグニグニしたモノ……」

 

 彼女の手には硬貨のような形状の、半透明のモノが握られていた。どうやらそれは折り畳まれている状態だったらしく、スルスルと伸ばされて、手袋の指先みたいな形になった。

 何だろう。僕も初めて見るものだ。しかし、『こんなに薄いのに引っ張るとちぎれずビヨーンと伸びる半透明なもの』といえば、『スライム』くらいしか思い付かない。スライムの革とかなのかしらん。だとしたら、いったい何故ここに……?


 この部屋には入り口の他にふたつドアが付いていて、開けてみるとそれぞれトイレと風呂場だった。

 便器は、形状自体は一般的な『穴の空いた木の椅子』に似たものだったが、穴の中には水が溜まっていた。横の壁に付いているパネルの薄い突起を押すと、突如水が渦を巻いて、穴の奥へと吸い込まれた。しばらくして、ふたたび元の位置まで水面が上昇してくる。もしかして、これでウン○を流すのだろうか。すごい、衛生的だ!

 あと、便座に触れた時にいやに温かったので、よほど尻の体温が高い人が直前まで座っていたのかと思ったが、いつまでもポカポカなことから、座った時に快適なようにと考えられた、何か未知の技術なのかもしれない。

 風呂の浴槽は、実家の城のものに比べれば小さかったが、それでもふたりくらいならゆっくり足を伸ばして入れるだろう大きさだった。

 ここで驚いたのは、蛇口から水ではなく湯が出てきて、あっという間に風呂の支度ができてしまったこと。それに、洗い場の金属の取っ手をひねると、壁から伸びているロープのようなものの先端から、勢いよく湯が飛び出したことだ。

 はじめは「この建物の地下で、大勢の奴隷が常時湯沸かしをさせられているのだろうか」と思ったが、これもきっと、僕らの知らない技術の賜物たまものなんだろうと思い直した。


「ちょっと、アンタのダンジョンすごいじゃない! いったいどうなってるの?」


 ティアナが興奮した様子で尋ねてくる。


「いやー……、異世界の、技術……?」


 僕は後ろ頭を掻き掻き応える。

 僕にもよくわかりません!



 その後、僕らは『ラブホ』探検が面白くなって、あちこちの空き部屋に入ってみた。

 

 調度品がどれも豪華で、ベッドに天蓋カーテンが付いている、貴族の寝室のような部屋。壁紙や布団カバーが派手な模様で統一されている、カジュアルな部屋。なぜか磔台はりつけだいがあって、備品に手錠や猿ぐつわ、鞭なんかが付いている部屋もあった。

 

 長い通路の行き止まり、左右ではなく正面にドアがあった。


「VIP……『ルーム』……?」

 

 僕は、そのドアの上に付いているプレートに書かれた文字を、なんとはなしに読み上げた。特別豪華な部屋なんだろうか?


【スキル『ルーム』を発動します】


 ――ん? 今、頭の中で声が聞こえたような。あと、なんか魔力を消費してるような軽い虚脱感が……。……いや、気のせいか。疲れてるのかもしれない。今夜は早く寝よう。


 ドアを開けると、ピンクや白が基調の、かわいらしい印象の部屋だった。純白のベッドシーツの上に、色とりどりの美しい花びらが散らしてある。

 確かに素敵な部屋だが、広さや内装の豪華さで言えば、これまで見てきた部屋と大差はなかった。はて、なんでこれがVIPルームなんだろう?

 それにしても、どこかファンシーな部屋だな。幼い頃のティアナだったら、こういう雰囲気も好きだっただろうけど、成長した今となっては子供っぽいと感じるかもしれない。長居しないで早々に退散した方がいいかな。

 そう思ってティアナの方を見ると、彼女はぼんやりとした顔で部屋の中を見渡していた。いや、これは『ポーっとした顔』というのだろうか。もしかして、気に入ってる? ……まさかね。


「ごめんティアナ、ちょっと子供っぽい部屋だったね。VIPルームって言うから、もっと広くて豪華なのかと思ったよ。そろそろ母上たちのところに戻ろうか」


 僕が話しかけると、ティアナに急に夢から醒めたような顔になった。


「――え? ……え、ええ! 確かに子供っぽいわよね! そうね、もう戻りましょう!」


 ティアナがその場で回れ右して、入口の方へ駆けていく。そんなに急がなくても……。


 ガチャガチャ!


「ん? あれ――?」

「どうしたの?」

「いや、このドア開かなくて。あれ? あれ?」

「えー、ちょっと替わってくれる?」


 ガチャガチャガチャ!


 ううん……確かに開かない。鍵でもかかってるのかな? でも、外から鍵がかかるなんてことないか。ドアノブが壊れちゃったのかな?

 僕が首をかしげていると、背後からポンポンと肩を叩かれた。


「ルクス、ルクス……」

「なに、ティアナ? このドア、ノブが壊れちゃったのかもしれないね。困ったな」

「あの……、いいからちょっと……」

「――?」


 振り返って見た彼女は、なんとも言えない顔をしていた。普段の美少女顔が、今は子供の描いた落書きみたいにディフォルメ化されているように見える。


「どうしたのさ?」

「あの……、あれ見て、あれ」

「――あれ?」


 彼女の指さす先、それまで近づきすぎて意識していなかったドアの表面に、一枚のプレートが貼り付けられていた。

 そして、そこにはファンシーな文字でこう書かれていた。



「ここは『《《×××しないと出られない部屋》》』です」



 その瞬間、僕もティアナと同じ顔になっていた。



★★★ 次回 ★★★

『第10話 『×××しないと出られない部屋』のふたり』、お楽しみに!



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