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第4話 ダンジョン『不夜城 ファイト一発▼』

光の洪水が引いていくと、周囲の景色は一変していた。

 僕らは広大な平原の真ん中にぽつんと生えている、これといって特徴のない一本の木の下に立っていた。


「あの~……母上。ここで場所合ってます?」

「失礼ね~。ここから少し歩いたところが本当の目的地なのよ。事情があって、ダンジョンの前には直接跳べないの。……目立つとマズイからね」

 

 ……? どういう意味だろう。


 母上はつ、と遠くを指差した。

「見て、あっちに大きな街があるでしょう。あれが『ウイーノの街』よ。街道が通っていて、交通と貿易の要所として、とっても栄えているわ。冒険者ギルドもあって、まあ、うちにとっての『お客さん』が多い街ね~」

 

 なるほど、ダンジョンを攻略しに来る冒険者が多い、ということか。

 ん……? でも、あれ……?


「母上、『色欲』のダンジョンは、今は『休眠中』のはずでは?」


 通常、ダンジョンはマスターの『命』を『鍵』にして稼働する。だから、僕が着任するまでマスター不在であるのダンジョンは『休眠』、つまり閉鎖されているはずなのだが……。

 母上はフフフといたずらっぽく笑うだけで、その質問には答えなかった。

 なんなんだろう、一体。



 そのあと僕らは、街を見下ろす小高い丘の上目指して歩いた。

 運動不足気味な僕の身体は、あっという間に汗にまみれて、軽く息が切れ始めた。

 いけない、これからは人間やほかの魔族からダンジョンを守るために戦っていかなければいけないんだ。身体を鍛えないと。

 振り返ると、はるか彼方に魔竜アルカンドラの棲むガルギリー山脈が青く霞んで見えた。

 平原を吹き渡る清涼な風が、火照った身体から熱を奪っていく。それがなんとも言えず心地よかった。

  

 ふと隣を歩くティアナを見ると、彼女は息ひとつ切らしておらず、涼しい顔をしている。ワインレッド色をしたツインテールが風にそよいでいた。

 改めて見ると、すごく綺麗になったな、ティアナ。せっかくだから、旧交を温めるか。 


「ティ、ティアナ。あの……久しぶりだね……?」

「……そうね」

 

 そっけない返事で会話終了。えー、勇気を出して話しかけたのに、そりゃないよ。

 でも、一度話しかけてしまった以上、このまま再び無言で歩き続けるというのは、実に気まずい。

 というわけで、なんとか会話の続行を試みる。


「お、お互い魔導学院に上がる前だから、十年ぶりくらいか……ハァ。ティアナはもう、権能は覚醒してるんだよね?」

「そりゃあね。権能なんて、普通は十歳くらいで覚醒するもんでしょ?」

「アハハ……ハァハァ。僕、覚醒したの、実はついこないだでして……。おまけに『色欲』なんて、恥ずかしい上に中身のよくわからない権能だったからさ……ハァハァ」

「『色欲』……ねぇ? 確かに聞いたことないわね、そんな権能。アンタん家って、古くから続く名家なんだから、代々の権能の記録くらい残ってるでしょ? 調べてみたの?」

「そりゃ……ハァハァ……調べたよ。でも、ひい祖父さんが……ハァハァ……『色欲』の権能持ちだったって……ハァハァ……記録は……ハァハァ……あったのに……ハァハァ……肝心の……ハァハァ……中身に……ハァハァハァ……関する……ハァハァハァハァ……記録が……ハァハァハァハァ……なくて……ハァッハァッハァッハァッハァッ!」

「ハァハァうるっさいわね! アンタそれ絶対わざとやってんでしょ!」


 心外だな。本当に息切れしてるだけなのに。

 僕らがそんな言い合いをしていると、先を歩いていた母上が不意に立ち止まって、こちらを振り返った。


「さあ、そろそろ見えてくるわよ!」


 その言葉通り、坂の頂きの向こう側から巨大な建造物が顔を覗かせた。

 

 それは、形状は城のようだった。

 しかし、それがただの城でないことは、近付くにつれて見えてきた壁面すべてが、ファンシーなピンク色で統一されていることからもうかがえた。


 なんというか……非常にいかがわしい印象だ。 


 おまけに建物上部からは、巨大な垂れ幕が下がっており、そこには、


『毎日感謝価格! ご休憩3000キラ・ご宿泊8000キラ!』


 とあった。

 うん、間違いなくいかがわしい。


 極めつけは、屋上にしつらえられた大きな看板に、


『不夜城 ファイト一発▼』


 と、デカデカと書かれていたことだ。

 あー……わかった。つまりこれって……。

 

「母上っ! これって『連れ込み宿』じゃないですかっ!」


 年頃の息子をいきなりナンチュー場所に連れてくるんだ、この母親は! 

 それに、息子と同年代のよそ様の娘も一緒だなんて、何考えてるんだか。

 うわー、どうしよう……。隣にいるティアナが完全に表情をなくして、ただ呆然とピンク色の建物を見つめているんですけど……。

 そうだよね、ピンクだもんね? ご休憩3000キラだもんね? 『不夜城 ファイト一発▼』だもんね? 

 きっと、『なんで私、いきなりこんなところに連れて来られたの? それも幼なじみの母親に。私、なにか悪いことした?』とか思ってるんだろうな……。


「あの……、なんで私、いきなりこんなところに連れて来られたんですか……? それも幼なじみの母親に。私、なにか悪いことしましたか……?」


 ほらー、かなりの精度で言い当てちゃったじゃん。どうすんるんですか、母上?

 

「もう、ふたりして何ブツブツ言ってるの?  

 コレこそ、我がヴァーンズ侯爵家が所有する由緒ある七つのダンジョンのひとつ、『色欲』のダンジョン・『不夜城 ファイト一発▼』じゃない!」


 母上は微塵も悪びれる様子を見せず、息子とその幼なじみの少女に、残酷な事実を告げるのだった。



◆現在のステータス

名前:ルクス・ヴァーンズ

性別/年齢:男/18歳

職業:『色欲』のダンジョン・『不夜城 ファイト一発▼』マスター ←New!

レベル:5

HP:15

MP:20

BP:8

装備:布の服

スキル:『ルーム』 ←New!



★★★ 次回 ★★★

『第5話 サキュバス』、お楽しみに!



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