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第10話 『×××しないと出られない部屋』のふたり

「『獣王の爪』——‼」


 高密度のオーラで覆われたティアナの右手が、部屋のドアに向かって袈裟懸けさがけに振り下ろされる。直後、凄まじい衝撃音が室内に響いた。


◆ステータス

名前:ティアナ・ヴォルフガンド

性別/年齢:女/18歳

権能けんのう:『獣化じゅうか

職業:武闘家

レベル:10

HP:25

MP:13

BP:30

装備:布の服

スキル:『獣王の爪』(斬撃)

    『獣王撃』(打撃)


 これがさっき、ティアナに見せてもらった彼女のステータスだ。

 ティアナは『獣化じゅうか』の『権能けんのう』を持つ魔族だ。『権能』とは魔族一人一人が持ちあわせる、“力”の『方向性』というべきもので、HP(生命力)・MP(魔法力)・BP(戦闘力)といった数値パラメータの伸び方や、取得できるスキルの種類に関わってくる。『獣化』の権能は、おもに身体能力を飛躍的に向上させる性質があるらしい。 

 

 ――で、僕らは現在、『×××しないと出られない部屋』に閉じ込められてしまっているらしく、「スキルを使って入口のドアを破壊していいか?」とすごい顔でティアナに詰め寄られ、「はい……」と返答して今に至る、というわけだ。

 一応、ダンジョンマスターであり持ち主である僕に対して、事前に器物損壊きぶつそんかいの許諾申請をしてくれた彼女の誠実さを評価すべきなのかもしれないけど……。


「どう? ……って、傷一つ付いてない――⁉」


 あれだけの斬撃を受けても、入り口のドアは何事もなかったかのようにそこにあった。いったいどんな強度なんだ? それとも、攻撃を無効化するなにかの仕掛けがほどこされているのだろうか。


「『獣王の爪』! 『獣王の爪』! 『獣王撃』‼ 『獣王撃』‼ 『獣王撃』!!!!!」


 ザシュッ! ガシュッ! ドカーン! ズガーン! ズガガガーン‼


 耳をつんざく凄まじい爆音が、続けざまに起こる。もうもうと立ち込める粉塵ふんじんと煙。しかし、その向こうから現れたドアには、やはり傷一つ付いてはいなかった。


「ちょっとー! ホント、どうなってんのよー‼」


 ティアナが絶叫する。そして、グルン!とホラーな動きで首を回してこちらを振り返ったかと思うと、獣のような恐ろしい顔で詰め寄って来た。


「ちょっとアンタ、このダンジョンのマスターなんでしょ? 早くこのドア開けなさいよ! なんなのよ、『×××しないと出られない部屋』って! アンタ最初からこの部屋のこと知ってたの?」


 早口で言葉を投げつけられるが、僕だってどうしてよいやら、だ。


「イヤイヤ、僕がこんな部屋のこと知ってるわけないでしょ? さっきマスターになったばっかりなんだし! それに、開けられるならとっくに開けてるって!」


 若干憤慨(ふんがい)しながら弁解するも、聞き入れてもらえない。


「フン! どーだか? アンタたち親子だけ、示し合わせて知らないフリしてただけかもしれないじゃない! そういえば、さっきおばさまもアンナさんも、執拗しつように私のこと、アンタと一緒に行動させたがってたみたいだし?」


 あのふたりに関しては、言われてみればそんな気もするけど、僕は無実だ。


「とにかく、いったん落ち着いて考えようよ」


 僕はソファに腰を下ろす。わ、フカフカだな、これ。ティアナはため息をつくと、いったんソファの空いているスペースに座りかけたが、思い直したのか、結局ベッドのふちに浅く腰かけた。


「まったく……。とんだ一日だわ。アンタのダンジョンマスター就任の儀だからって、おかあ様やお姉さまたちからは『くれぐれも失礼のないように』なんて、出がけに釘を刺されるし、来たら来たで、こんなわけのわからない部屋に閉じ込められるし……」

「ああそういえば、おばさんとお姉さんたち、元気?」

 

 僕は気をまぎらわせようと、話題を振った。

 彼女の実家であるヴォルフガンド子爵家は、ティアナが生まれたばかりの頃に父親が亡くなっており、以来ずっと女所帯おんなじょたいだ。元々『子爵』の爵位は入り婿である父親のものではなく、彼女の母親に引き継がれているものであるため、父亡き後もヴォルフガンド家は子爵家という扱いである。僕の実家、ヴァーンズ侯爵家とは昔から家同士の親交があり、幼い頃はよく彼女のふたりの姉たちとも一緒に遊んだものだ。


「……元気よ。おかげ様でね。姉さんたちも『あの泣き虫ルクス君が、私たちと同じダンジョンマスターになるなんて、月日が経つのは早いものね』なんて、年寄臭いこと言ってたわよ」


 ティアナが愚痴っぽくつぶやくが、おそらく面と向かっては言えないのだろう。彼女の姉たちはふたりともずば抜けて優秀で、おまけに容姿端麗という、魔族界隈ではちょっとした有名人だ。ただ、どちらも性格には大いに問題があるのだが……。


「そっか、お姉さんたちもダンジョンマスターになってるんだったね。どちらのダンジョンも難攻不落だって話題になってたなあ。まあ、あのふたりならそれも不思議じゃないけど。――あれ? そういえば、ティアナはまだマスターになってないんだっけ?」


 何の気なしに僕が問いかけると、ティアナはすっとベッドから立ち上がった。


「さっきの大騒ぎで髪が汚れちゃったわ。私、お風呂入ってくる」


 《《オフロハイッテクル》》。

 

 想定外のことに、僕の頭が言葉の意味を理解するのにいつもの倍の時間がかかってしまった。

 お、お風呂——⁉ どうしたんだ急に! まさか、このままじゃこの部屋から出られないからって、本当に僕と×××するつもりなのかな――?


「う、うん――。じゃあ、僕はここにいるから、どうぞごゆっくり。あ、絶対覗いたりしないから安心して。なにかあったら声かけて。僕、その間になにか脱出のヒントがないか、部屋の中調べておくからね。じゃあ、お気をつけて。い、いってらっしゃ~い……」


 僕は、普段の三倍くらいの早さで一気にまくし立てた。ティアナはこちらを見ずに、無言で風呂場の方へと歩いていってしまった。

 


 ど、どうなっちゃうんだろ……⁉



★★★ 次回 ★★★

『第11話 少年はひとり、彼女の風呂上がりを待つ。』、お楽しみに!



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