第1話 はじまりは『×××しないと出られない部屋』
さて。まずは、僕が今置かれている状況から説明しよう。
薄暗い室内だ。部屋の半分ほどのスペースが、大きなベッドで占められている。
そのベッドの縁に、僕とひとりの少女が向かい合って腰を降ろしている。
ツインテールにまとめられた艶かな髪。微かな灯りを照り返し輝く、宝石のような紅い瞳。薄闇に浮かび上がる、陶器のごとき白い肌。
完璧なまでに均整の取れた造形は人形を思わせるが、その控えめな胸は微かに上下しており、少女が作り物でないことを伝えていた。
今、その美しい顔にははっきり、「不機嫌」と書かれている。
「――ねえ、シないの?」
鈴を転がすような、少女の声。しかしド直球な表現に、思わずギクリとしてしまう。
たしかに僕の腕は、彼女の服を脱がすべく伸ばされたまま、固まってしまっていた。
緊張し過ぎで指が強ばっていて、うまく脱がせられる自信がない。そもそも手汗がすごくて、彼女に触ることすらためらわれる。というか、さっきから動悸が激しすぎて、心臓が爆発しそうなんですけど!
もっとスマートに振舞えないのかって?
いやムリですよ。だって僕、童貞ですから!
「するなら早くシて。どうせシない限り、ここから出られないんでしょう?」
少女は部屋の入り口のドアに視線を向ける。僕もつられてそちらを振り向く。
ドアには、一枚のプレートが貼り付けられている。そこにはファンシーな文字でこう書かれていた。
「ここは『×××しないと出られない部屋』です」
ああ——、どうしてこうなった?
僕は頭の中で、これまでの経緯を振り返っていた。
★★★ 次回 ★★★
『第2話 屈辱の就任式』、お楽しみに!