21.03.08(他2篇)
21.03.08
迷路のように
雨のように
蔦のように
蓮の桃色のように
薄暗がりのように
晩御飯の湯気のように
夢に手を引かれるように
逃げるように
すぐそばにある悲しみのように
電磁力が切れるように
すべてを包むように
或いは葬り去るように
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日々
店先のバケツに入ったドライフラワー
連綿と蛙の鳴き声
秋には穀物の穂が揺れるだろう
重い布団を干せば
ベランダから見える広い箱庭のような田園
舗装された橋も老木の梢も
ままならぬ在り様の中でねむたく息をし
そこで暮らす人は日々の仕事を全うして
その日の楽しみや次の日の朝のことを考える
エッフェル塔の夕暮れなど
赤道直下の砂塵の匂いなど
ヴァーチャルリアリティの異邦人など
夢にも思わなかっただろう
今どこかで常識が崩れていても
どこかで激甚な夜が指を伸ばしていても
人が倒れていくその時にも
裏切りが繰り返されていても
ここは同じ昼下がり
そんな安泰と残酷
いつでも切符は買えるのに
それでももうそちらには行けない気がしてきてしまっている
二度とは自分に安穏がおとずれないような気がしている
同じ世界なのに
同じ昼下がりなのに
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交換
特別速く走れる訳でも無い
特別知識を持っている訳でも無い
特別な人生を歩んできた訳では無い
特別な才を持っている訳でも無いだろう
特別に立ち回りが上手い訳でも無い
特別にお金を持っている訳でも無い
特別な人間だと他人から言われたことも無い
けれど自分は何かしらが特別な人間だとまだどこかで信じている
生きる力は強くないどころか
有史以来酷く弱くて脆い
でも闇雲に強くなりたい訳では無く
前後不覚に陥るよりは
失敗や終わりを見定めていたいけれど
これからも別人に成り代わらずに生きていける自信が無い
どうして強くなり続けなければならない?
どうして無闇に手を汚さなければならない?
どうして知りたくもなかったことを飲み込まなければならない?
どうして他人の生に訳知り顔で踏み込む必要がある?
どうして簡単に言い表せないようなことを一言で片付ける必要がある?
生まれ変われるのならば
毒をもつ植物も
美しい花々も
獰猛に牙を剥く獣も
長くは生きていけない羽虫も
理不尽に長い歴史も
全てが壊れる瞬間も
自分の不具合も他人の狂気も
ただそのまま受け入れるだけの生き物になりたかった
幻想がかなえられる日は来るのか