ああジュリエット
「ねえ理恵」
岡部 美々香は読書にハマっていた。今日読んでいたのはかの有名な「ロミオとジュリエット」を本にまとめたものである。
両家の争いがために命を落とした若い男女の話だ。
「ロミオとジュリエットって最後死ぬんだって」
本を閉じてそう言う。美々香が理恵――浜 理恵の方を向くと、目をまんまるに見開いて驚いている理恵の姿があった。
そこでようやっと思い出した。理恵はとことんハッピーエンド主義で、嫌なことがあってもすぐに忘れてしまう能天気でもあった。
だから「死ぬ」ということは、彼女にとってはある意味でタブーなのだ。しかもそれが、恋絡みときたら。
「ひどーい! どうしてそんな事言うの!?」
「いや事実だし……」
こうなってしまった理恵は面倒なモードだ。何を言っても「ひどい」「なんで」ばかり。
あまりにしつこく面倒になった美々香は、読み終わった本をそのまま理恵に押し付けた。
美々香に文句を言う前に、自分で読んでみればいいのだ。世界的な名作であるし、話としては十二分に面白い。
それにこれはただのまとめた本だが、舞台やミュージカル、それを題材にした映画だってある。アレンジした映画だって。
「面白いよ」
「……じゃあ見るけど……」
「なに?」
「……わたしと、わたしと美々香は――」
「うん。ロミジュリじゃないから」
わたしと美々香は、幸せらぶらぶ、ハッピーエンドだからね。