ああロミオ
「あぁ、美々香、どうして貴女は美々香なのぉ〜」
「あぁ! 理恵〜!」
「またやってるよ、あの2人」
そうやってロミオとジュリエットにドハマリして、毎日のようにクラスでイチャついている2人を敬遠するのは、田端桜だ。
彼女かこうもイラついているのは、そうやって自分の思いを素直に言えないからだ。そう、例えば隣で居眠りをしている友人――河原なずなにだとか。
この夏ヶ丘女学園は、その名の通り女子校である。
そして、女生徒同士の恋愛が黙認されている学校でもあった。それは、生徒間だけではなく、教師の中でも。勿論知ったところで、保護者へ通告する訳では無いし、中には生徒と交際している教師だっているらしい。
(羨ましい)
冷たく当たるのには、そういった感情があった。桜も、なずなに思いを伝えられたら。何度そう思っただろう。
だが悲しいことに、なずなには既に交際相手がいて、それが誰かは教えてもらったこともない。
小学校からのつきあいだというのに、薄情だな……なんて桜は思った。しかしながら、告げられたことで自分が傷つくのはよく分かっていた。
そしてそれを口に出来るほど、彼女はできた人間ではなかった。
「……どうしてあなたはロミオなの」
か細い声だった。ピクリとなずなの肩が揺れる。これが聞かれていようがいまいが、関係ない。
桜の知らない誰かと、河原なずなは愛を育んでいるのだから。