月夜の逃亡
最後の砦であった護衛部隊が殲滅された。
森の中に隠れた姫は、諦めたような顔で、遠くで燃える王城を眺めていた。父親である国王の遺体も発見される頃には、炭と化し誰かもわからぬ形になっていることだろう。
「……申し訳ございません、姫様」
横で側近の騎士が言う。彼女が最後の、姫の武器だ。
謝る騎士に対して、姫は疲れたように微笑んだ。すすで汚れた手を差し伸べて、騎士の頬についた傷を拭う。
「いいのです」
数時間前。敵国からの襲撃にあった王国は、まともに戦うこともなく呆気なく散っていった。無我夢中で姫と騎士、数名の部隊が逃げ延びたが、それも待ち伏せされていた敵国にまんまと殺されてしまった。
なんとか二人で森の中に逃げ込むことが出来たが、追手の声が近い。
見つかるのも時間の問題だろう。
「お願いがあるのだれけれど」
血のついた指で、頬をなぞり、唇に触れる。月夜に照らされた姫君は、妙に妖艶で女騎士の胸がどきりと鳴る。
動揺を悟られたのか、姫は妖しく微笑んで顔を近づけた。
風で木々がざわめく夜の森に、小さなリップ音が響き渡る。それは、彼女らを探す敵国の兵士には聞こえなかった。