水も滴る
花瀬るかは梅雨が嫌いだ。
ジトジトしていて、ずっと雨の降る――だけでは無かった。
「また傘忘れたでしょう」
そうるかが言うと、はにかんで誤魔化すのは幼なじみの綾川凛子だ。ちょっと天然が入っているけれど、優しくて気さくで何より可愛い。
今日の夕方に掛けて雨が酷かった。るかは、また凛子が傘を忘れるだろうと思っていたが、委員会の用事で結局一緒に帰れなかった。二人分の折り畳み傘を用意したというのに、ただただ重いだけだった。
びしょ濡れの様子からして、案の定凛子は傘を忘れて学校から走ってきたのだろう。あまり距離が遠くはないとはいえ、《目に毒》である。
「勝手に人の家に来て……」
「るーちゃん、着替えある?」
「もう、聞いてるの?」
ピッタリと体に張り付いたワイシャツ、太ももや各部を伝う雨水。艶っぽい体をした彼女を良く映えさせる。
きっと、ここに来るまでに凛子は多数の人の目線を浴びてきたのだろう。
そう思うと、余計に雨が憎く梅雨が恨めしく感じた。
るかは1度彼女に注意をした事があった。自分の容姿の綺麗さをもっと理解した振る舞いをして欲しい、と。
だが凛子が理解するはずも無く、いつもと変わらぬ日が過ぎていく。
るかの中にある強い束縛感情が、いつ爆発するか分からない。
別に凛子と付き合っている訳でもないのに、自分の魅力を弁えず周りの男を勘違いさせる凛子に、苛立ちを感じた。
「そこにバスタオルあるから」
花瀬るかは梅雨が嫌いだ。
水も滴る幼なじみがいる限り。