きらめく偶像
クラスメイトのギャルが、地下アイドルだった。
その日は目的のものもなく、いろんな場所を巡っているだけのウィンドウショッピングをしていた。半分迷いながらもやってきた小さなライブハウスで、クラスで見覚えのある少女が歌って踊っていた。
名前も歌も知らない無名のアイドルだったけど、釘付けになった。
ファンたちの流れでチェキを撮ることになってしまったが、普段のメガネにマスクを装備した私ならばわからないだろうと踏んでやることにした。
お金も使っていなかったし、財布にはチェキ代を出せるくらいは残っていた。
気付いていない様子で他のファンと変わりなく写真をとり、その日は帰宅した。
翌日、私はギャルに呼び出しを食らった。バレていないと思ったが、やはりわかっていた様子だった。
呼び出しに応じて裏庭に行くと、不味そうな顔をしているギャルが居た。今までクラスで騒ぎ立てている余裕の表情はそこにはない。
「どうしたの」
何事もない様子で声をかければ、青ざめた娘がそこにいる。なにか言いたげだが言葉が出てこないようで、目を回し口をパクパクと開いて必死に脳みそを動かしている。
別段私としては何かに言うつもりも、それをネタに脅すつもりもなかった。
あるとすれば――
「すごく可愛かったよ」
そう、それだ。釘付けになるくらい。普段アイドルとかは追っているほどでもないし、比較的オタク趣味な自分としては、二次元ばかり見ていたせいで、現実のアイドルというものがわからなかった。
だけど、可愛い。キラキラしている。そう感じたのだ。一目惚れしたみたいな感覚に襲われたんだ。
率直な意見を言うと、ギャルは青かった顔を一気に赤くした。普段見ないコロコロと変わる表情に、笑みが溢れる。なんだ、こっちでも可愛いんじゃない。
「……ほんと?」
「うん、とっても。また見に行っていい?」
「……約束してよ」
約束、と小指を突き出すクラスメイト。その照れた表情にどきりと胸が鳴った。なんだろう、この感覚は。
指を取ってしまえば、もう戻れない。そんな気がしたのに。
私はまた、あのライブハウスに足を運ぶ。