87.お風呂回
87.お風呂回
「もー、うちの両親にも困ったものです」
「ははは。変わらないようで何よりじゃないか」
「変わらないのはアリアケさん、あなたもですよ!」
俺の返事にアリシアは怒ったように言った。
俺も彼女もバスタオル一枚といった格好だ。
「ちょっと、あんまり見ないでくださいよ!」
「見てない、見てない。いや、昔はお互いもっと小さかったのになぁ、と思ってな」
「しっかり見てるじゃないですか! このバカちん!」
などと、会話をしながら、俺たちはお湯につかった。
アリシアの家は豪邸といって良く、お風呂もまた非常に広い。
「あんまり引っ付かないでくださいね! ていうか、後ろを向いてください、後ろを!」
「ははは、分かってるさ」
そう言って、少し距離をとってから後ろを向いた。
やれやれ、最近はずいぶん打ち解けたとはいえ、さすがにお風呂に一緒に入るのは嫌だったらしい。
「すまなかったな」
「べ、別にアリアケさんが謝ることじゃないですよ。両親が勝手に……」
「そうじゃないさ」
俺は首を振り、
「偽装結婚のことだ。教会に侵入するためとはいえ、アリシア、君にとっては不本意だったかもしれないな」
「そ、それは……」
「俺はいつもちゃんと考えて行動しているつもりなんだが、よく君を怒らせてしまう。よくデリカシーが無いと怒られるしな。偽装結婚のことも、よく考えれば、君にとってはとても嫌なことだったかもしれない」
「そ、そんなことはありません」
「そうか? まぁ許してくれるなら、ありがたい。今後もできれば、こんな俺だが一緒に旅をしてくれると助かる」
「へ?」
俺の言葉に、彼女はきょとんとした声を漏らした。
「本当は勇者パーティーを追放された時は、一人旅をする予定だったが……」
俺は目をつむりながら、
「お前たちとパーティーを組んで、いろんなところに行って、たくさんの物を見れたら面白いだろうと、最近は思っているんだ」
柄にもなく、思っていることをそのまま口にした。
こんなことを率直に話すのは。話してしまうのは、相手がアリシアだからだろう。
「まぁ、君にとっては迷惑なことだと思うが……」
そう、俺にとってアリシアが必要であっても、彼女にとってはそうではないだろう。
何せ、彼女は大陸でもっとも有名な偉人であり、教会の序列三位で……、
「ええ、こちらこそお願いします。アリアケさん」
「へ?」
俺の背中に柔らかい手が添えられて、誰かが体重を預けてきた。
「嫌なわけありませんよ。私だって、アリアケさんが……。アー君がいたから、ここまで来れたんです。これからもずっと一緒ですよ」
「そ、そうか」
久しぶりにアー君と呼ばれた。
彼女の体の重みを背中で感じる。
成長した彼女の体は幼い時とは違って、華奢なのになぜか柔らかい不思議な感覚だった。
「こちらこそよろしくな」
「ふふふ」
彼女の嬉しそうな声が耳をくすぐった。
ふーむ、それにしても、
「な、何だか熱くなってきたな……」
やはり今日の俺は何かおかしいな。
柄にもなく照れているのだろうか。
「そ、そろそろ上がろうか!」
俺は立ち上がろうとするが、
「あの、アー君。その……」
しかし、彼女は俺の指をつまむようにしながら、
「本当にもう行ってしまうんですか? その……私のこともっと見なくてもいいんですか?」
「……え?」
「……アー君だったらいいんですよ?」
彼女の方を思わず振り返る。
(しまった、怒られる)
と思ったが、彼女は何も言わない。
ただ、彼女は顔を真っ赤にして俯きながら、上目遣いにこちらを見ていた。
「い、良いっていうのは……」
「……こんな風に二人きりになれること、なかなかありませんし……」
何だろうか、これは。
ドキドキとした自分の鼓動がうるさいなと思った。
こんな感情は普段感じたことがないので混乱する。
混乱したことがないので、どう対処していいのか分からず、更に混乱した。
そして。
混乱するままに。
彼女の肩に手を伸ばしたところで。
『ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン』
そんな屋敷全体を震わせる大音声が浴室に響いたのであった。
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