63.御前試合 その⑦ ~勇者の仇をうつべく立ち上がる仲間たち プララ編 後編1/2~
プララ編が終わらないので、後編を分割しました。すみません。
63.御前試合 その⑦ ~勇者の仇をうつべく立ち上がる仲間たち プララ編 後編1/2~
『―――多重スキル・スタート』
俺の詠唱がコロシアムに響く。
「は……? へ……? ふんぎゃあああああああああああ⁉」
と、プララの魔法防御が、俺のスキル詠唱のプレッシャーにすら耐えられず崩壊した。
彼女は吹きとばされて、スタジアムをゴロゴロと転がって泥だらけになる。
せっかく整えた髪やネイルがボロボロになるのが遠目にも見えた。
「まったく、だから油断するなと言っておいたというのに」
「ま、待って! マジで油断とかじゃねーからっ……! これが全りょ」
「まだ全力を出すほどではないか! ならば俺も全力で行くぞ!」
そう宣言してから、
「≪クリティカル率アップ≫」
「≪セカンダリー・ディアス≫」
「≪気絶耐性低下≫」
「≪体力向上≫」
「≪物理攻撃向上≫」
「≪槍の加護付与≫」
「≪竜の心得付与≫」
「≪全体化≫」
多重スキルを使用した。
「これで先ほどの100倍は強い。さあ、本気を出すがいい、勇者パーティーたちよ!」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」
プララは武者震いしているのか、訳もなく頭をかきむしりながら戦慄いている。冒険者の血が騒いでいるのだろう。
一方で、
「「「□□□□□■□■□■■! □□□□□□□□■‼ □□□□□□□□□□■□□□□□□□□□■■■■■■■■■■―――!」」」
勇者たちが咆哮し、人間性をかなぐり捨てて襲い掛かって来た!
勇者ビビアが四つ足で人智を超えた獣のごとき俊敏な動きを見せる! 口にくわえた聖剣で、煉獄打突武神剣を放ってきた!
また、デリアがユニーク・スキル『祝福された拳』を乱暴に大地にたたきつけることで、地割れを引き起こし、俺たちの足場を崩そうとした。獣の彼女はそんな悪い足場をむしろ得手とし、姿勢を崩す俺たちを捕食するために、四つ足で迫り大口を開けて肉薄する!
そして、エルガーが何倍にも膨れ上がった異形の筋肉の塊となって、ゴロゴロとこちらへ転がって来た! その姿は筋肉が防御だけではなく、攻撃にすら応用可能な万能な兵器だということを、獣としての本能が訴えているが如きだ!
加えて、後衛からはプララのファイヤーストームが、仲間ごと焼き殺す勢いで放たれた。
全員が無茶苦茶な動きで一切連携などない。人類が目にしたことがない、人間が行う非人間的な攻撃の嵐だった。
「何なんだよこれはぁ……、まるで地獄じゃないか……」
「お、俺たちは勇者様が御前試合するっていうから、見に来たのに……」
「こんなの、ただの化け物の戦いじゃない……」
観客たちの悲鳴や怯えが漏れる。
だが、
「頑張ってください! 救世主アリアケ様! エルフ族はあなたを応援しています」
「アリアケの旦那! 頑張ってくだせえ! あんたこそ冒険者の真の英雄なんだ!」
「獣人族一同もあなたを主人と仰いでおります! 頑張ってください!」
セラや冒険者、そして獣人族の者たちが声を上げた。
それは、この戦いが始まる前から、俺たちに向けられるわずかな声援に過ぎなかった。
しかし、
「が、頑張って……」
え?
「そうだ、頑張れ」
観客たちの声の向かう先が、勇者から俺へと変わったような気がした。
そして、
「そうだ、頑張ってくれ! 賢者アリアケ様‼」
「そんなバケモンやっつけろ!」
「偽勇者パーティーになんて負けないで!」
俺を心から応援する声へと変わった。
なぜ、そうなってしまったのか分からない。
だが、俺と言う英雄に大衆が声援を送るのはごく自然なことだ。
しかし、
「「「ABIABEBIBABAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼」」」
本能から発したかのような怨嗟の咆哮が、勇者ビビア、デリア、エルガーの口から迸った。
歯ぎしりを鳴らし、口からは唾液を飛ばしながら、呪いのごとき叫びをあげて大地を踏み鳴らして威嚇する。
それはもはや完全に人から外れた者たち。
観客の目はモンスターを退治する英雄としての俺、アリアケ・ミハマを見ているのが分かった。
「ふ、ではモンスター退治と行くとしようか!」
「! はい、先生‼ 相手がモンスターなら、手加減は無用ですね!」
俺とラッカライは行動を開始する。
俺とラッカライは二人とも防御・支援タイプだ。
だが、みんな勘違いしている。
「支援スキルを自分にかけてはいけない道理などない!」
獣のように舞い上がる瓦礫の上を疾駆し、俺の背後へと回ったデリアは、俺の首筋に噛みつこうとした!
がちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!
狙い通り、俺の首筋へと喰らいつく!
だが、
「どうした、その程度なのか?」
「!?!??!?!?!!?!?!??!」
デリアが困惑しているのが分かった。モンスターと化した者でも、自らの切り札が簡単に破れたという事実には、驚愕をしてしまうものらしい。
「ユニーク・スキル『祝福された拳』が防御を無効にするのであれば、その攻撃を耐えるだけの体力を増強しておけばいいだけだ‼ 俺にかかれば造作もないこと! 一から出直せ、拳闘士デリアよ!」
俺の杖が驚愕していたデリアの顎を的確にとらえる!
しかも、≪セカンダリー・ディアス≫によって、一瞬のうちに数十の質量を伴った残像が彼女の顎を連続強打した!
「いんぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ⁉ あがががががががががガガガがががが⁉ うぎひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん⁉」
オークにすら劣る下劣な断末魔をコロシアムに轟かせてダウンする。
「ふぎ……ふぎぃ……」
だが、驚くべきことに一度は立ち上がろうとした。
しかし……。
「アガガガガッガ……おえええええええええええええええええええ」
ガクガクと泡とゲロ。体液をまき散らしながら、もう一度バタリと倒れたのだった。
「す、すごい、まず一匹だっ……!」
観客たちが沸く。
一方、横目で見れば、ラッカライが肉球魔神と化したエルガーの攻撃を見事にさばききっていた。
「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO! FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
醜悪な筋肉だるまとなったエルガーが、ゴロゴロと転がりながら、ラッカライを押しつぶそうとする。
弱点である金的を内側に隠したことで、今のエルガーは無敵のモンスターだ。
俺に勝つためとはいえ、ここまで人間性と誇りを捨てられることに、一種の戦慄を覚える。
観客の貴婦人からも、特にエルガーに対して、
「ひぃっ……!」
「気持ち悪いですわっ……!」
「うっ……気分が……」
そういった生理的嫌悪感を訴える声が上がっている。
「ラッカライ、早くその哀れな化け物を始末してやれ!」
「かしこまりました、先生!」
そう返事をすると、ラッカライは、
「爆雷重力落とし!」
大地を穿ち、地面から巨大な土の槍を発生させる。デリアの時は囮として使った技だ。
「⁉」
肉球魔神の突進は強力だが、すぐに止まれない欠点がある。
化け物は突き出した土の槍に乗り上げると、そのまま凄い勢いで上空へと跳ね上げられる。
「FUGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!? FUGYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!?」
筋肉だるまはギョッとした表情で、必死に目をぎょろぎょろとさせた。
地面にいるはずの敵を探して。
しかし!
「……確かにボクだけの力だけでは、あなたのような化け物の肌を貫通することは難しいかもしれません……」
「FUGYO⁉」
いつの間にか自分よりも更に上空へ飛び上がっていたラッカライに、化け物は不意を突かれる。
「ですが、あなたの鉄のように重い巨大! そして、重力! これを利用すればっ……!」
ラッカライは聖槍ブリューナクの力を最大限解放する!
「くらえ! 唸れ! 聖槍ブリューナク‼ 秘龍槍・下り落星竜!」
「FUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?!?」
「消え去れえええええええええええええ! 化け物ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン…………。
「BUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!? NI,NISE,KINNIKUNI,O,DE,GA……VOEEEE!」
血反吐とゲロを吐き出しながら、大地にたたきつけられた最も醜悪な化け物が気絶した。
観客たちがまたしても大歓声を上げる。
「すごい! 化け物たちを次々と!」
「これで2匹目だ!」
「アリアケ様の弟子、ラッカライがやったぞ!」
「あの二人、すごい師弟だな!」
やれやれ、余り目立ちたくないのだが……。どうしても俺たちが少し活躍すれば、こうして英雄だなんだと、華々しく人目を引いてしまう。
もっと自重せねばならんなぁ。
「でも、俺の聞いた話だと、あの強いラッカライを、勇者ビビアは弱いってなじって追放したらしいぜ?」
「まじかよ⁉」
「は~。本当に弱くて、見る目がないのは勇者……。いや、偽勇者のビビアだったってわけか! はははははは!」
まったく、本当に大衆と言うのは耳ざといな。
「優れた師匠がいてこそ、ラッカライもあの強さなんだろうな」
「ああ、ダメな人間にいくら師事してもダメだからな。ラッカライは本当に素晴らしい師匠を得ることが出来て良かったんだろうな。ビビアのままだったら、強くはなれなかったろう」
「アリアケ様とビビア、対照的な二人だなぁ」
正直過ぎると言うか、口さがないというか……。
まあ、全て事実ではあるので、反論する気はないのだが。
しかし、俺と同じレベルを勇者ビビアに期待するのは酷と言う者だ。あいつは、まだまだこれから、俺を目指して成長しなくてはならない、未熟な存在なのだから。
まだ一人で、師である俺を追いかけ始めるために、歩き始めたばかりの赤子にすぎないのだから。
と、そんなことを考えていた時である。
「きょ、強化ぁ! 強化ぁ!」
ボロボロなプララが呪詛のような詠唱をコロシアムに響かせた
「⁉ ぶっ⁉ ぶっひひひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
メキリ! メキリ! ふしゅうううううううううううううううううう……。
それと同時に、勇者の体から更に異音と、人とは隔絶した獣の咆哮が、スタジアムに響きわたる。
ふ、仲間を倒されて、更に本気と言う訳か。ならば、
「さあ、最終決戦だ、勇者ビビアよ。ついに本気を出したようだな。俺も手加減はせんぞ」
両雄の激突が始まるっ……!
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