30.エルフたちから感謝を受け、エルフ族の英雄になる
30.エルフたちから感謝を受け、エルフ族の英雄になる
「それでは、我らエルフ一族を未曽有の窮地よりお救い下さった大賢者アリアケ殿に心からの感謝を捧げ、ここに祝いの席を設ける。我らが英雄のアリアケ殿に、一同乾杯!」
「乾杯!」
「アリアケ殿に乾杯!」
「ありがとうアリアケ殿!」
「大賢者殿!」
エルフ全員が俺に対して感謝の祝杯を挙げた。
「ご覧ください」
そう言って一人のご婦人が抱っこしてきたのは、まだ小さな赤ん坊だ。
「この小さな命をお救い下さってありがとうございました。本当に何と感謝申し上げていいか」
「ふ、礼ならもう貰っているさ。エルフに手料理を振る舞ってもらえるとは、助けたかいがあった。それで十分さ」
「いえいえ!」
と、ヘイズが割り込んだ来た。
「この程度で十分などとは、エルフの誇りが許しません。もっともっと感謝の気持ちを伝えさせて頂きますぞ!」
「最初から思っていたが、暑苦しい男だなぁ」
その言葉に周囲のエルフたちが大笑いした。
≪エルフの感謝≫をこれほど受ける人間は前代未聞だろう。
もちろん、俺という人間ならば起こりえることだとは思うが・・・。
正直言って騒がしいのは余り得意ではないのだがなぁ。
「それにしても、どうしてアリアケ殿ほどの方が勇者パーティーを追放になったんだろうなぁ」
「逆じゃないのか、勇者パーティーをアリアケ殿が追放したんじゃないのか?」
「それはありうるなぁ」
エルフたちが酔っぱらいながら、口々に言った。
そんなことはしていないぞ、と急いで訂正しようと思ったのだが、
「なるほどのう。旦那様が追放したということか。なんじゃ、わし納得じゃ」
「わたくしも納得できました」
「私もです。胸のつかえがとれましたよ」
コレット、セラ、ヘイズも同調してしまう。
やれやれ、事実とは違うのでちゃんと正しておくか・・・。
「追放したか、されたのかなど小さなことだ。大事なのはあいつらが俺と言う余りに大きな存在に縋ることをやめ、そして、まだまだ未熟なりに自分たちの足で立とうとしたという事だ。傍から見れば滑稽かもしれないが、いくら転んでもいいと俺は思っている。なぜなら、歩こうとしなければ転ぶことも出来ないのだから。小さな子供が歩くのを見守るのも、また親の役割でもあるのだろうさ」
俺は遠い目をする。俺という偉大な存在に指導を受けた彼らも、いつかは巣立たなければならなかった。俺に甘え続けたいのも分かるが、彼らはついに巣立ったのだ。そのことを上位者たる俺は言祝いでやらねばなるまい。彼らの上に立つ者として。
「さすが旦那様は優しい視線で皆を見ておるのじゃな。それが物事を大きな目で見るということなのじゃなぁ」
「まるで自然の精霊神のような温かで素敵なお考えですね」
「本当ですな。私もエルフ族を導くにあたり、アリアケ殿を手本にしたいと思います。その素晴らしいお考えをもっとお聞かせいただき、学びたいと思います」
「なに、大したことではないさ。物事の通りを深く考え、歴史や大局から見通せば、容易なことだ」
「それが凄いのですがなぁ」
俺の言葉に、エルフ長のヘイズはどこか感動したかのように嘆息した。
ところで、とヘイズが話題を変える様に言う。
「≪枯死≫の原因ですが、一体なんだったのでしょうか。もしや、大賢者アリアケ殿にはお分かりになっているのでは?」
その質問に俺は、
「木を大切にしすぎたからだ」
と即答する。
「へ?」
とヘイズが変な声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、アリアケ様!」
「そうです、木を大切にしたらだめなんて・・・」
「そんなの意味が分かりませんよ! 木を守ったら森が衰退するだなんてっ!」
そうだな。と俺は頷く。
「だが、それが事実だ。ヘイズお前の代から木々の伐採をやめたということだが、それ以前は必ず伐採をしていたのではないか?」
「そ、その通りです。定期的に、一定の範囲を開けながら、木を切るようにしていました。そういう掟でしたので・・・」
「それを『間伐』という」
「か、間伐・・・?」
そうだ、と俺は頷く。
「間伐をしなければ太陽の光が当たらず、新しい植物は育たない。すると悪い気が発生し、魔素がたまり、モンスターが集まる温床になる。そして、一時的には良くても、長い目で見れば森は枯れていくんだ。すると、地盤が荒れ、自然災害が起こりやすくなっていく」
「そ、それであの山崩れが・・・。確かに最近大雨があったんです」
「す、すごい。さすが大賢者様だ・・・」
「ああ。これほど自然の知識に精通されているとは!」
ヘイズは頷き、
「これからは間伐をしっかりやって行くように変えたいと思います」
と言った。
それがいいだろう。
ただ、一点疑問があるのだ。
「だが、一つ聞きたいのだが、なぜお前はいきなり伐採を完全にやめてしまったんだ? エルフと言うのは保守的な種族だ。それが悪いとは思っていない。特に自然と共に生きるならばその方がいい面も多いと思う。だからこそ疑問だ。どうして急に今までのルールを変えたんだ?」
「え、ええ。それはある時旅人からそうアドバイスを受けたからなんです」
「旅人? それは一体どこの誰なんだ? まったくもって無責任な無能ではないか。もはや犯罪行為だぞ」
温厚な俺であるが、若干憤る。
「その・・・勇者様です・・・」
「は?」
勇者? それは一体どこの・・・。
「随分と前ですが・・・。その時は大賢者様はいらっしゃいませんでしたが、確か3名でお見えになられました。我々は先代勇者との盟約がございますので、勇者殿を信頼しておりました。けっして無責任なことはおっしゃらないであろうと」
そ、そうだったのか。
3名と言うのもどの3名なのか、なんとなく見当がつく。確かに冒険に出ていない時などは基本同道しているわけではないのだ。
「俺が同伴していれば、こんなことは絶対に起きなかったのに・・・」
「確かに・・・旦那様がおらんかったのが、最大の不運じゃったな・・・」
「アリアケ様さえいらっしゃればこんなことには・・・」
「大賢者殿さえいれば・・・」
コレット、セラ、ヘイズが口をそろえた。
「すまなかった。俺の責任だ」
「え? ど、どうしてアリアケ様が?」
セラが驚くが、
「俺が面倒をみていた奴らだ。いわば俺は教師のようなもの。出来の悪い生徒たちの不始末は俺の責任だ・・・」
子供の面倒を見切れなかったようなものだと責任を痛感する。
しかし、
「大賢者殿。顔を上げて下さい。大賢者殿の責任ではありませんよ。それに私は感動しました」
え?
どういうことだ?
顔を上げると、他のエルフたちも笑いながら、
「さすが大賢者様です。他の人のために自分が謝るなんて普通できません」
「ああ、これほど潔く気高い人がいるなんて驚いたよ」
「我々もアリアケ様の在り方を学ばないといけないなぁ」
「そうだな。本当は愚かな勇者パーティーが謝るべきところを、代わりに謝罪をされる度量をお持ちなのだものなぁ」
そんなことを口々に言った。
「ただ・・・」
エルフ長ヘイズが眉根を寄せて口を開いた。
「やはり今回のことは正式に国に抗議はせねばなりません。勇者は王国から特権待遇を保証された身分。王国騎士団のようなものですからな。言動には国家として責任が生じる。そのことを王国に問わねば私の指導者としての責任が取れません」
「お前の言う事は正しい。だが、あいつらはまだ未熟で・・・」
俺がそう言いかけると、
「ですが・・・」
とヘイズは続ける。
「大賢者アリアケ殿の偉大さ、そして我々に示して下さった寛容さに学び、今回の件で勇者パーティーを罪に問うようなことは致しません。あくまで軽いクレームにとどめるつもりです」
「そうか。恩にきる」
「何をおっしゃいますか!」
ヘイズは慌てた様に恐縮し、
「こちらこそ返せないほどの恩を頂きました」
その通りです。とセラも同意しつつ、
「それに、今度から『勇者様』と言われたら、アリアケ様のことだと思うようにしますね♪」
などと言った。
「それはいいな!」「賛成だ!」「真の勇者様!」
他のエルフたちも同意して盛り上がるが、
「頼むからそういうのはやめてくれ! 俺は引退してゆっくりする予定なんだ!」
「これほどの大活躍をしておいて、それは無理じゃろ?」
コレットが無情にもツッコミを入れる。
「そうですぞ、大賢者殿。私が口を閉ざしても、このような英雄譚、どこからか噂は広がるものです」
「頼むから勘弁してくれ・・・」
俺は盛り上がる周囲をよそに、ひっそりとため息を吐くのであった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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