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227.冥王からのお願いごと

227.冥王からのお願いごと



「ここがお前たちの仮住まいとなる」


フェンリルが案内してくれたのは、それなりの広さのレンガ造りの家だった。


清掃も行き届いていて、ありがたい。


食べ物もフルーツなどが置かれている。見たことがない形状で、リンゴに見えるが少し色合いが違う。紫色だ。後で食べてみよう。


ちなみに、ビビアは後で来る。今は自分の不始末の処理をしていることだろう。


「食事は係りの者が一日2回運んでくるから、それを食べてもらえればいい。あと、これは当座の金だ。過不足あったらこれで賄え」


「ありがとう。ビビアの分は……」


「あいつに渡せば即座に使い果たしてしまいそうだ。お前に渡しておく」


「ははは、あいつもそこまで馬鹿じゃないさ」


「ああ、うん……」


フェンリルが何か言いたそうな表情をしたが、言葉を飲み込むようにした。


「ところで、ナイアとはいつ話せるんだろう?」


「呼び捨てとは無礼な、と言いたいところだったが、お前も王なのだったか。ナイア様も許可していたし、なら問題ないか。うん、ナイア様は忙しいからな。数日以内には時間を確保するよう努められるかとは思うが……」


「その通り! 我は忙しい! だが、時間は作るものである! 今ここに満を持して冥王ナイアちゃん登場! である!」


ババン! という音が聞こえてきそうな勢いで、扉が開け放たれた。


そこにいたのは、相変わらず長い深紅の髪と瞳が特徴的な冥王ナイアであった。


小さいが、何となく威厳がある。身長の2倍以上ある大鎌は剣呑この上ないが。


腰に手を当てるポーズがよく似合っている。


そして、フェンリルはあちゃーという顔をしていた。


「ナイア様、公務はどうされたのでしょうか?」


「休暇である! 我だって休暇が欲しい! 何連続勤務か! ワークライフバランスをなんと心得るか!」


「人類滅亡のカウントダウン中なので仕方ないかと」


「冗談である。人類滅亡に際して、そこなアリアケと話すことは優先順位の最上位というだけだ。ついてくるが良い!」


俺は見慣れないリンゴに似た食べ物をかじりながら、返事をする。


「どこに行くんだ?」


「むっふっふー。い・い・と・こ・ろ」


ナイアが色っぽさを出そうとして、しかし、小さいので色っぽさが全く感じられない回答を寄越した。




「って、酒盛りじゃないか」


「うむ、人の作り出した文化の極みであるな! 素晴らしい! 我を虜にするなぁ、この星の営みは! ここのエールは! ぷはぁ!」


「大げさな。それにしても、乾杯もせず、もう飲んでるのか、やれやれ。ぷはぁ」


「そなたも飲んでいるではないか、わっはっはっは! ういやつよ!!!」


歩いて5分くらいの場所にある酒場にいきなり入ると、周囲は騒然とした……と言いたいところだが、最初ざわついたものの、周囲の人間たちは大いに盛り上がった。


どうやら、よく来るらしい。


「王様が市井に顔を良く出すのは珍しいなあ」


「そうなのか? 我はそんなこと考えたこともなかったぞ?」


「少しは考えろ」


と、言いたいところだが、俺も似たような口なので、人のことは言えない。


「それになぁ、アリアケ。小難しい話をするときに辛気臭い感じでするのはどうかと我は思う。楽しくやろうではないか。せっかくの終末であるぞ? レアではないか? まぁ、そなたのいた未来でも終末だったらしいが、そなたが世界を救ったのであろう?」


いきなり核心的な話をするので、仕方なくエールをあおる手を止めた。


「なぜ知って……」


そのことを、と聞こうとした時であった。


「なんでそのことを知ってやがる!? この胡散臭いガキがあああああああああああああ!!!!」


バーンと扉が乱暴に開かれて、ビビアが入ってきた。


「おお、下級勇者ビビアとやらではないか。ふむ、そなたの文化ではどうかしらぬが、小水はトイレでして欲しい。床でするものではないはずだ。で、合っているか、アリアケ?」


「ビビアもしたくして粗相したわけではない。いきなり神代回帰し、トラウマのフェンリルに出会って死にかけ、ビビり散らかしていたところへ、大鎌を持った少女に襲撃されて、ついに限界に達したんだろう。俺の保護者責任が問われる事態だ」


「そうか。まぁ一歩ずつ前進するのが人類に良いところだ。下級勇者ビビアよ、これからもアリアケの元で励むが良い! 此度のおねしょの件は、我が冥王ナイアの勅命により、無罪放免とする!」


「良かったな、ビビア」


「粗相、粗相言うんじゃねえええええええええ! あれは心の汗だ! 俺は漏らしてねえ! 冤罪だ! 冤罪!」


怒鳴るビビアに、


「黙れ、噛みつくぞ」


隣でもくもくと飲んでいたフェンリルがガルルと牙をむくようにして言った。


「はひぃ!?」


「おっと、これ以上やってはまた粗相するかもしれんな。自重するとしよう」


フェンリルはエールを再び飲み始める。


「ほう、あの下級勇者とやらは玉座の間で粗相をしたのか?」


「なかなか大物だな」


「よく首と胴体がつながってるもんだ。幸運なしょんべんたれ勇者ビビアか、わはははは!」


「ぐぎ!? ぐぎぎぎぎぎぎ!!!」


さて、周囲で飲んでる者たちも酒が入って楽しそうにしているが、ビビアも歯ぎしりはしているものの静かになった。


話を元に戻す。


「とりあえずビビアの言った通りだ。どうして俺たちが未来からやってきたことを知っているんだ?」


「うむ。そなたから言うと神代である今は、マナの量も多い。ゆえに予知、とはいかぬが、星見をする能力者などもいる。それゆえにある程度、未来の姿が分かったりするのだ」


その言葉に、フェンリルはグラスを置いて補足する。


「あなたたちのような旅人が突如現れることも星見の者が言っていたらしい。私はあったことがないがナイア様からそう伺っていた。最終的には7人の旅人《英雄》が現れる、と」


「一つ確認なんだが」


俺は端的に聞く。


「ここは実際に俺のいた世界につながる過去、ということでいいのか? 例えばだが、ここで起こったことは未来を変えることにつながるんだろうか?」


「当然である」


ナイアは即答した。


「世界は一つである。未来も過去も変えることが可能である。要は未来は可変である。この神代で人類が滅亡すれば、未来の人類も滅亡することになるぞ」


「あっさり言うな」


「わははは! 世界の危機! 滅亡の危機! いつものことである! 良い酒のさかなである。うむ、旨い!!」


「ひいいいいいいいいいい、世界が! 世界が滅ぶなんて!? し、信じねえぞ! 俺は信じねえ! せっかく俺が邪神を倒したってのにいいいい!?」


「わっはっはっは! うむうむ、下級勇者おねしょビビアも良い反応である! 酒も飲む! 世界も救う! 両方したら万事OKである!」


「うおおおおおお! デリア―! プララ―! 戻りたい! 現代に戻りたいいいいい!」


もうおねしょビビアのあだ名は諦めたようだな。


「そうか。まぁ未来に俺を送ることが出来るなら、過去に戻すことも出来るだろうとは思っていたが、まさか神代とはなあ。ところで、この時代の俺はどうなったんだ?」


「うむ、既に星神イシスと宇宙癌ニクス・タルタロスは痛み分けを喫して、眠りと休息についた! 大地の3割は海底に沈んでおる!」


「ちょ、ちょっと待てよ。邪神が休眠してるなら、この有様は何なんだよ!? 人類が滅亡するほどの敵がせめて来てんだろ!?」


「うむ! 噂によれば『魔王』? とか言うのが出たみたいでな。モンスターを操って人間を襲撃しているのだ」


「それは本当か?」


「うむ? 何か疑問でもあるのか、アリアケよ」


「いや、この時代の魔王はモンスターを操るのか、と思っただけだ」


俺の時代の魔王リスキス・エルゲージメントは、そういう能力はなかったからな。どちらかと言えば、そういうのは宇宙癌ニクスの領分だった。


「ふむ、未来の魔王は違うのかもしれんな。あのレッドドラゴンはイヴの子という因子を埋め込まれて操られておる。統率が取れていて厄介だ。他にも色々と厄介な敵が多い。というわけで、アリアケとそのお供ビビアに頼みがある!」


「ははは、俺はリーダーじゃない。このビビアがリーダーだ」


「そ、そうだ! 俺こそが世界を救う勇者ビビア! 勇敢なる真の救世主様だ!」


威厳を取り戻そうと、胸を張ってビビアが主張した。


「そうか、それは失敬! では下級勇者ビビアに正式に依頼する! 今代の魔王を討伐し、人類を滅亡から救済せよ! この神代救世こそが、そなたらの未来をも救う偉業となる!!!」


「ほんげえええええええええええええええええ!?」


ビビアが絶叫した。


威勢がいいな。


「ふ、ビビアもやる気のようだ。任せておいてほしい、ナイア。魔王を倒し、弱気を助け、人類を救い、世界を救済するのは勇者本来の役目だ。その命令がなくとも、勇者ビビアは立ち上がるつもりだったろう」


「ほげげげげ!? ほげええええええええ!?」


何勝手なこと言ってやがる、アリアケエエエエエエエエエエエエエ!!!!???


という声が、なぜか聞こえた気がしたが、気のせいに違いあるまい。


「そうか! うむ、頼んだぞ、下級勇者ビビアと、その保護者アリアケよ! ……そして、聖獣フェンリルにも命ずる!」


「はい!」


フェンリルがグラスを置いて頷いた。


それにしても未来とは随分雰囲気が違うな、今更だが。


「お前はアリアケ達のパーティーに一時的に加入して、その戦力となるがよい!」


「はい! 分かりました!」


「うむ! 今日は良い日だ! 計画が進むのは気持ちが良い! わっはっは! 店主! 我のおごりである、皆の者、大いに呑むが良い!!!」


その言葉に、


「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」


「王様さいこー!」


「滅亡するまで楽しく生きてやるぜー!!!」


周りの酔客すいきゃくたちが大声で歓声を上げた。


「ふ、追い詰められても人類と言うのはこうも明るく振る舞えるものか」


俺は微笑む。


「うむ、だから我は人間が好きだぞ、アリアケ」


「そうか」


俺は彼女の言葉に頷きながら、注がれたエールを飲み干すのであった。


こうして、俺たち下級勇者パーティー一行は、神代救世のための旅に出ることになったのである。

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