20.大賢者は冒険者たちを雇う
20.大賢者は冒険者たちを雇う
「助けがいるか?」
俺はそう言ってギルド長に話しかけた。
冒険者ギルドは騒然としていた。魔の森から突然モンスターが街を襲撃しはじめた。しかもそれは、王国騎士団の敗北によって引き起こされたというわけだ。普通の人間ならば恐怖に駆られて当然だろう。
「くっ、役立たずのお前の助けなどいらん! 貴様たちしっかりせんか!」
「ほう」
俺は感心する。怯えてはいるようだが、それでもちゃんと役割をこなそうとはしている。
「なるほど、俺に大声で怒鳴りつけたりしたのも、よく考えれば理由があったかもしれない。それは自分の恐怖に打ち勝つためだ。俺はCランクとは言え、勇者パーティーの元メンバー。そういった人間からライセンスをはく奪するというのは、勅命があるとは言え、勇気がいる行為だ。こいつはこいつなりに何とか職責を果たそうと、自分を奮え立たそうとしていたのかもしれない」
「旦那様はあのような仕打ちを受けたにもかかわらず、本当に広い公正な目で相手をみるのじゃな」
コレットは驚いて目を見開いた。
「物事は一面的ではないからな。誰しも良いところと悪いところがある。上に立つ者はその両面をしっかりと見定めてやらねばならん」
「上に立つ者の責務ということじゃな・・・」
勉強になるとばかりに、コレットは大きく頷く。
ギルド長の掛け声は続いている。
「武器を持て! 盾を構えろ! 敵はもうすぐそこまで来ているぞ! 俺たちがやらなけりゃ、どっちみち皆殺しなんだ‼」
だが、冒険者たちは震え、怯えている。何かがもう1ピース足りないといったところか。ならば・・・。
「ギルド長。今回の報酬はいくらになる?」
「ああ⁉ こんな時に・・・くそ、たった金貨1枚だよ! くそったれが!」
なるほど。まあ、王国の強制徴収では精々そんなところだろう。
「旦那様、今の質問はどういう意味があるのじゃ?」
「簡単なことだ。雇用主は正当な報酬を支払わねば、部下たちは働いてくれない。それを理解するのも上位者の義務というだけだ」
俺はそう言ってから、テーブルの上に立った。そして、
「一人頭、今回の戦いに最初から最後まで参加すれば金貨100枚を払おう! これは大王国法令における契約事として、君たちと俺の契約だ!」
そう大声で言い放ったのである。
一瞬時が止まった。大王国法令における契約は呪いの一種で、けっして破ることができない。その時点で俺の申し出が真実であることが証明されている。
俺は構わず続けた。
彼らはまだ頭が付いてこないようだ。が、申しわけないが彼らのスピードに合わせていては俺が退屈だ。それに今は時間が惜しい。申しわけないが俺の速度についてきてもらうとしよう。
「お前たちは何だ! 冒険者だ! ならば破格の報酬のために命を張ってみせよ‼」
俺は大上段より皆に号令をかける。
しかし、
「なっ⁉ そ、そんな無責任な! 魔の森のモンスターが大軍で迫って来てるってのに! しかも王国騎士団だってやられちまったんだぞ!」
そんな反対意見も上がった。
だが、一方で
「け、けどよ。金貨100枚って言ったら・・・。しかも嘘じゃねえ。大王国法令契約だぞ?」
「あ、ああ。何年分だ? それなら家族を食わせてやれる。ボロボロの家だって直してやれる」
「俺には病気の妹がいるんだ・・・」
そんな声も聞こえて来た。いや、むしろそうした声が大勢である。
金で釣ったという意見があっても俺は構わない。実際に彼らは言っているのだ。金貨100枚でどれほど救える家族や友人たちがいるのかを。ゆえに十分な報酬を支払うことは上に立つ者の役割なのだ。そうした義務を果たさず・・・例えば金貨一枚で死地に人々を赴かせることほど、罪なことはないだろう。ふむ、後日王国の方を俺の裁量で裁いても良いのかもしれない。
とにかく、ちゃんと人の社会と経済を理解していれば、こうして本当に救わなければならない人々に恵みを与えることが出来るということだ。
「さすが旦那様なのじゃ・・・」
「お前、本当にあの噂の無能賢者なのか・・・?」
コレットは尊敬の目を俺に向ける。対して、ギルド長は何と俺が本当に噂の(悪い噂だろうが)勇者パーティーを追放になったアリアケか自信がなくなってしまったようだ。やれやれ・・・。だが、こうして実際の行動で人々の目を開かせ、正しい道を歩みなおさせることもまた、俺のような者の役割ではあろう。
そして、
「くそ! くそ! やってやる! どうせ逃げ場なんかねえんだ! なら、アリアケ・・・アリアケさんの奮発にのっかるしかねえだろうよ!」
「ああ‼ そ、それにここは俺の生まれ育った町なんだ。魔物なんかに蹂躙されてたまるかよ」
「ああ、やってやろうぜ。そして家族の元に帰るんだ! 大金を持ってな。ちくしょう、いくぞお前ら!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、と鬨の声が上がった。
そして、自分の獲物を持って出陣していく。
それはギルド長も同じだ。巨大なハンマーアックスを持って、扉から出て行こうとする。
出ようとする寸前にちらりとこちらを向いた。
「ふん、礼は言っておいてやる。どちらにせよ、俺たちゃ戦うしかねえんだ。けど、お前の大盤振る舞いがなけりゃ、前線に立つことすら出来なかったろうぜ。戦わないうちにこの町は終わってた。だが、今はほんの1%程度でも可能性はある。戦うなら一縷の望みはある。ふん、王国のはした金で命がかけられるわけねえよなあ。その点、あんたはちゃんとわきまえててくれた、ありがとうよ」
「なに、当たり前のことをしたまでだ」
「ふ、みんながアンタみたいに考えてくれりゃ、いいんだが。特に上の者たちなどはな・・・。爪の垢を煎じて飲ませたいものだ・・・。ではな、生きていたらまた会って、あんたの金で祝杯だ」
そう言って出て行ったのである。
「さすがにもうすっからかんなんだがなぁ・・・。パーティーを抜ける時に金だけは死守しておいてよかった」
「じゃが、勝てるのかの? 彼らは? ただの冒険者の集まりじゃ。決して特別な者らの集まりではないぞ?」
コレットが疑問を口にした。
俺はふむ、と頷く。
「それが大事なんだ。救世主が来て自分たちを守ってくれる、という考え方に俺は反対なんだ。それは大きな目で見た時に良い結果を生まない。人類全体にとってな。だから、一般人たちが自分たちで戦い勝利しなければ意味はないと思う」
「なるほど。歴史的に見てもそうじゃ。さすが旦那様じゃ」
ただまあ、
「だが、英雄と一緒に戦う、というのは俺的には、彼らに許していいと思う。きっと一般人からすれば誉れでもあるだろう。さてそんなわけで、コレット、これを飲んだら出発しようじゃないか」
「出発って、どこにじゃ?」
俺はその質問に静かに微笑んだのである。
「面白かった!」
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