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破滅導者  作者: ねむり。
一章
4/4

初めての感情

 ゲートを抜けた先は森林になっていた。後ろを振り向いてもゲートは無く、そこには洞窟があった。当然だが中に入ってみても先程の空間に戻ることは無かった。


 この洞窟にはなにかの住処であるような痕跡も無く、無闇に歩き回るより安全だろう、と暫く拠点にすることに決めた俺達。太陽が真上にあるから今は昼頃だろう。夜になる前に食料調達はしておきたい。


 この世界のことをまだ何も知らない俺達が別行動をするのは危険だと全員固まって動く。どこに何があるかも分からないから適当に、だが戻れなくなることは無いように捜しまわる。


「全然見つからない…てゆーか食べられるものあるの?この森」


「そうだね…木の実とかじゃなくて生き物探す…?」


「いいねぇ、初の魔法行使!使ってみたくてうずうずしてたんだよなぁ」


「満が使えるのって範囲魔法だろ?食料として捕らえるなら俺か御守さんの魔法が適任だと思うぞ」


 翔陽の言う魔法は各自二つずつ使用出来るようになったという普遍(ノーマル)魔法のことだ。

 ちなみに俺は【火属性支援魔法】と【風属性支援魔法】を使えるらしく、攻撃魔法が使えないのは少し残念な気もするが、後方から援護するだけって楽そうだし良しとする。


 他は…優花が【風属性指定魔法】と【水属性支援魔法】で、咲夜が【地属性支援魔法】と【闇属性支援魔法】。満が【火属性範囲魔法】と【光属性範囲魔法】で、翔陽が【水属性指定魔法】と【闇属性支援魔法】だ。


 俺達の使える魔法の情報を共有すると、支援系魔法は火属性が物理攻撃、水属性が魔法攻撃、風属性が魔法防御、地属性が物理防御、闇属性が毒付与だ。分からないのは光属性だけだが…恐らく回復系だと考えている。


 パーティにヒーラーがいないのはかなり痛いな。そんなことを考えていると、前方の草むらがガサガサと音をたてる。姿は見えないが、草むらから飛び出ているそれを見る限り―俺達の知らない生物でなければ―兎だろう。ピョコピョコと揺れるその耳を見て女子陣は男子陣の前に立ちはだかる。


 「この子達はだめぇ!」


 「う、うざきは食べないですよね!!」


 必死な形相の二人に「あ、あぁ…」と魔法を使おうとしていた翔陽がその手をサッと隠す。安心した二人が後ろを振り向くも、兎達は先程の大声に驚き逃げてしまった後でその姿は既に無かった。


 がっかりしたように肩を落とす二人を連れ森の中を進むと、上空を何かが通ったように影が通り過ぎた。影の飛んでいった方角を見ると鮮やかな色合いの鳥が数羽飛んでいた。今度こそ邪魔するなよ?と女子二人に睨みをきかせ、うずうずしている満に指示を飛ばす。


 「満!火…は駄目だ。光属性の魔法で範囲は最小限に!」


 「おうよ!」と答えた満が手を鳥達に向け魔力を貯める。


 「いけっ!天星(スターライト)!!」


 自信満々に唱えた満の手から放たれた大きな光球は鳥達の頭上まで飛んでいくと、大きな音を立て破裂したように散り散りになる。弧を描くように降り落ちる光により周辺の木々がいくつも倒れるが、目的の鳥には当たらなかったようだ。


 「おい!当たってねぇじゃねぇか!」


 「あれっ!?おかしいな…ちゃんと狙ったんだけど」


 逃げていく鳥達を追いかけながら、今度は翔陽に声をかける。


 「翔陽!任せた!」


 「ああ!えっと…水矢(ウォーターアロー)!」


 そう唱えた翔陽の手から鳥の数と同じ四つの矢が放たれる。それは鳥達の方へ真っ直ぐ飛んでいき…当たる直前で鳥達が降下した。鳥達の頭上を通り過ぎた攻撃を見て次はっ…!と優花の方を向くと背後でバサバサッと何かが落ちる音がした。振り返ると先程まで飛んでいた鳥達が地面に落ちていた。ハッとして翔陽を見るとこちらに向けてVサインをしていた。


 落ちた鳥を回収しつつどうやったのか聞くと、どうやら先程の魔法は遠隔操作ができるらしい。逆に満の使った魔法は遠隔操作出来ないらしく、少数を狙うには向かないことが分かった。


 鳥の回収が終わり、さて戻ろうと振り向くも夢中で追いかけてきたので帰り道が分からなくなってしまった。が、ここでファインプレーをした者が一人。流石というべきか、追いかけながらも冷静に木々に印を残してきたと言う咲夜。俺達はその印を辿って道を戻っていく。


 道中は鳥達が住処にしていただけはあるようで、果実のなる木やキノコが生えている場所を見つけた。制服の上着を風呂敷代わりにそれらを詰めるだけ詰める。


 そうして洞窟まで戻った頃には日が暮れ始めていた。そこから鳥の羽を毟ったり内臓処理をしたり、調理…と言っても焼くだけで調味料など無いが、まず火起こしが必要だったりと忙しく、結局食事ができるのは夜になってからだった。


 パチパチと焚き火の音を聞きながら食後のまったりタイムに入る俺達。味付けの無い焼き鳥と焼きキノコという質素な食事に一時無言になった俺達だが、デザートとして食べた果実がとても美味く空気も和んだ。俺達の世界の果物で例えると、りんごと梨の中間のようなものだろうか。瑞々しさはもちろんだが甘みがとても強かった。


 その後皆疲れて眠気が襲ったが、流石にこの場で見張りがいないのは危険だと感じ、狩りに動いた満と翔陽、鳥の解体から調理をほとんどやってくれた咲夜を先に寝かせ、ほとんど何もやれていない俺と優花が前半の見張りをやることを半強制的に決めた。満は「ラッキー!」とそそくさと眠りについたが、咲夜と翔陽は皆疲れてるのだから公平に、となかなか聞いてくれなかった。そこで俺と優花は洞窟の外までサッと出て、入口を塞ぐ形で見張りを開始した。そこまでしてやっと言っても無駄だと理解した二人は感謝を口にして眠りについた。


 二人が眠りについたのを確認しつつ焚き火の調整をしていると優花がおもむろに口を開く。


 「私達これからどうなるんだろうね」


 今まで元気に振る舞っていたから気付かなかったが、この状況に不安を感じていたようだ。そっと目を伏せ焚き火を見つめるその瞳はゆらゆらと赤く輝いていて、綺麗だ、と感じた。初めてのその感情に戸惑いつつも「巻き込んで悪かった」と一言謝る。


 俺がこの世界の調査を、なんて言い出さなければただあの神様の言う通りに動いてそれで終わりだったのだ。ややこしくしたのは俺で、それにこの四人を巻き込んだのも俺だ。


 俺が謝ると優花は「真らしくない」と言って微笑む。その言葉に確かにそうだな、と思い言い直す。


 「俺はもし真実が違ってそれを後から知ったら後悔する。それで悩むようなめんどくさいことは御免だ。だから真実を見極めて正しいと思うことをする。…ついてきてくれるよな?」


 「もちろん!そんなの今更だよ!」


 元気よく答える優花にふっと笑みが零れる。それから星の輝く夜空を眺めながら二人で交代の時間までまったり過ごした。

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