破滅を望む者
光に眩んだ視界が回復してくると、そこは見知らぬ場所に変わっていた。岩肌に囲まれたドーム状の空間、その中央に俺達はいた。四方向に大きな両開きの扉があるのが分かる。
皆がきょろきょろと辺りを見渡していると、頭上から淡い光が降ってきた。見上げるとそこには美しい少女が空中にふわりと浮かんでいた。シルバーブロンドの髪を靡かせ降りてくる様子はどことなく神聖さを感じる。しかしその少女の瞳、冷たく光る白眼からは生気が感じられるず、生徒達に恐怖を与えた。その少女が地面から二メートル程の空中で降下を止めると口を開く。
「私はこの世界〈エーラ〉の創世神ルリシオン。あなた達をこの世界に召喚した者です。私の望みはこの世界の破滅です。」
神だと名乗る少女。それだけでも驚きだが、その後に続く言葉に辺りは騒然とする。
破滅。世界を救う者ではなく、滅ぼす者を召喚したというのか。この世界を創った神本人が?訝しむ真だが、その不自然さには真以外にも気付く者が数人いた。それ以外は破滅を望むというワード自体に驚いているようで、創世神が破滅を望むという不自然さには気づいていないようだ。ルリシオンも訝しむ数人に気付き説明を始める。
「この世界には創世神である私の他にも神がいます。その者達は私が世界をより良くする為に生み出したのですが、その内の一人に破壊神がいます。」
「破壊神の役目は人々が悪しき方向へと文明を発展させた時にその文明を滅ぼすことです。ですが、その役目を果たそうと地上に降りた破壊神は勇者と名乗る者達に討伐されてしまいました。」
「私は神々のルールにより世界に直接干渉することが出来ません。もう一度破壊神を生み出す余力も無く、破壊神の代わりを、とあなた達を喚んだのです。」
「役目を果たして頂ければ元の世界に帰します。役目を果たす途中で命尽きた者もこちらで回収し、帰還時に生きた状態で帰すのでご安心を。」
そこまで言うと安心させる為か微笑む。しかし目が笑っていないので怖い印象しかない。生徒達の背筋をヒヤリとさせた後、質問は無いかと問う。
皆が挙手するべきか悩んでいると、真面目そうな少女が先陣を切る。
「私達は平和な場所で生きてきました。戦う術もありません。役目を果たせるとは思えないのですが。」
「これからあなた達には戦闘技術を身につけ、強くなるまでこの迷宮内で訓練して頂きます。あなた達はこの世界に来た時点で二つの普遍魔法と、二つの固有魔法を使えるようになっています。ステータスと念じると自身のステータスが見られるので確認してください。」
破壊神の返答を聞き、それぞれ自身のステータスを確認する。それを見て顔を輝かせワクワクしている様子の者から、確認だけして興味の無い様子の者まで様々な反応だった。
次にワクワクしている様子の男が質問する。
「役目は果たすけど、その前にこの世界の探検とか、遊んだりするのはいいですか?」
「文明や人々に興味を持ったり、情が湧いては困るのでそれは許可できません。」
その返答に、この世界を楽しむ予定だったのだろう数人ががっくりと肩を落としていた。
ここまであまり真面目に聞いていなかった少女も挙手して質問する。
「やりたくないって言ったらどうなります?」
「もちろん戦闘、破壊に参加したくない者もいるでしょう。その者達は戦闘中の支援や家事等、自らのやるべき事を決めサポートしてください。」
恐らく少女は何もやりたくなかったのだろう。うぇ…と顔を顰める。他にもめんどくさそうにしていた数人が同じような反応をしていた。
皆の質問しようとする気配が無くなったところで手を挙げる。
「あなたの言うことが真実か判断する術が俺達にはないし、その役目とやらを素直に果たたす義理もない。俺達がボイコットしたらどうするんです?」
そう聞くとルリシオンは一瞬目をすっと細めた。それから取り繕うように先程のような笑みを浮かべる。その一瞬の殺気に生徒達は震える。と同時に殺気を放ったが為に、数人にルリシオンへの疑心が芽生える。そんな生徒達の様子を見てルリシオンは微笑みながら口を開く。
「…申し訳ありません。決して強制させようというわけではないのですよ。ただ…私自身にもう一度召喚する力は残っていないので拒否されてしまうと困りますね…。何がお望みですか?」
殺気を放つほどの理由とは思えないが、こちらの要望も聞く気になったらしい。
「まず、話の内容が正しいのかについて。この世界を見て回ることを許可してもらいたい。ただ、あなたの危惧することも理解できる。世界は違えど俺達も人間であり、この世界に生きる者達と同調する可能性はある。だから向かうのは俺を含む数人のみ。仮にあなたに反逆しても数人ならどうとでも出来るだろう?もちろん話した内容が正しいと分かれば協力する。」
一見ルリシオンにデメリットが無いように聞こえるが、連れていくのは信頼できる者のみ。そしてそいつらは他の生徒達にも信頼されている。つまり、俺達が反逆すれば生徒達の大半がこちら側につくということ。そうなることをルリシオンは知らない。だからこそ――
「…いいでしょう。元々あなた達には数人のパーティを作ってもらう予定でした。あなたのパーティをエーラに送りましょう。」
思案したルリシオンはふぅ…と一息吐くと許可した。ここで反対すれば生徒達の疑心が深まると理解しているからだ。
その後質問する者はおらず、そこから数人ずつのパーティを作ることになった。世界を見て回りたい数人が俺のパーティに入りたいと声をかけてきたが、メンバーは既に決めていた為断った。そいつらは残念そうにしながらも、そのメンバーが誰かを知り納得したように離れていく。
パーティは5つでき、元の世界で仲の良かった者達で集まったところや、マイペースな者達は委員長達のチームにまとめられていた。
俺のパーティには優花と満は当然の如くおり、他に仲の良い二人――静観咲夜と真力田翔陽が入った。咲夜は普段は大人しい少女だが、学年一頭が良く、必要な時はしっかり意見するので信頼されている。本人は知らないことだが、男子からの人気が密かに高い。翔陽は朗らかで、困っている者を放っておけない性格だ。空手を小さい頃から習っていることから体格もよく、頼りになる。
パーティが決まったところでルリシオンが俺達5人の方を向き、北にある白い扉を開放する。
「ここからエーラに出られます。モンスターはいますが弱いもの達がいる場所に繋いだのでご安心を。」
俺達はルリシオンの説明を聞いて扉のその先、光揺らめく空間に足を踏み入れた。