切ること。
私が生きていることに意味は果たしてあるのだろうか?
仮にあったとしてそれは私にとっても意義があることなのだろうか?
私は自身で他人に不愉快な思いをさせていることが多い気がする
それは私自身での意識は無いのだ、
例えるのであれば、腐臭を放つゴミのような物だ
きっちりとふたを閉めて
消臭剤をかけたとしても
どこからか悪臭が漏れているのだ
存在しているだけで、他人を不快に貶める
私は生ゴミなのだ
存在は悪なのだ。
悪が存在していることと同意義なのだ
存在は罪である
だから
だから私は悪を罰せねばならない
私は私を殺したいのだ
だけれど
私は出来ない
なんて臆病な人間なんだ
なんて浅はかな人間なんだ
なんて愚鈍なんだろう
なんでタオルを赤く穢しているのだろう、
タオルにすら失礼なのだ
この右手の剃刀に対しても
はた迷惑な生き物の為に
彼を貶めてはいけないのだ、
しかし今日で最後だ、
明日で19の誕生日を迎える
私のような人間が年を重ねてはいけない。
大人になる前に
弱きものを救うことが出来る大人になるまでに
消さなければ
今日で最後だ
今日で最後だ
この腕を切り
命を終結させるのだ。
腕を電灯に晒す
赤く 黒く
てらてらと
ミミズがのたうちまわり
焼きついたような傷が曝け出される
腕を恨み
自分に対しての呪いを込めて
力の限りを込め
この腕を
この腕を
この腕を
切る
切る
切る
私がいなくなれば
世界は見えなくなる
私がいなくなれば
世界から私は見えなくなる
この腕を切れば
しかる後 私は死ぬ、
腕を、
剃刀を右手に持ちかえる
左手を巻くりあげ
手首の付け根
さらに三センチ下の
動脈と静脈
狙いを定め
手首に剃「さっさと切れよ」
不意に声が響く?
誰のだ?
恐怖で振り返れない
「今まで死ねばいつでも逃げられる」
「それは分かっていたことなのかな?」
「だったらどうしてそれが出来ないのでしょう?」
「それは生存本能?」
「今まで出来なかったのに今日出来るのかな?」
「ところで僕、魑魅魍魎 名前はまだ無い我輩、猫?」
流れるような男の声が背中のベッドの近くから聞こえる
男というよりは男の子といった、声色だ
チミモウリョウ?
鍵は掛けたよね。
親戚な訳無いし,
ここは尋ねてみるのがよいのか、
振り返り、男を見据える
「えと、 あー あの」
言葉が出ない、
とりあえず警察に電話だ
後ろ手で110番を押す、時間稼ぎです。
話をして時間を稼がなきゃ、
「ここはあたしの部屋です、私は津山兔和子
和やかな兔のような子と書いて兔和子」
名前を教えてしまったら出所したら復讐にこられてしまうのでは
と不安が横切った、
私はなんて馬鹿なのだ、
ふと男を見ると手持ち無沙汰で
手遊びをしてながら緩やかにしゃべり始めた。
「僕は猫ではないが名前はまだ無い。」
電波系なのか
いや女の子なら電波でいいのだろうが
男ということを考慮して
異常者とするべきなのか、
「えとつまり、というか霊みたいなものって言えばいいのかな」
「長年使ったものとか、人形に魂が宿るってのは知ってる?」
相手はとくにわたしの態度で激昂してはいないようだ。
しかし、それなら知ってる、
お化けの系統は結構詳しい、
私自身 悪霊だの幽霊だの言われていたから親近感が沸いて調べたことがあるのだ、
「物には魂が無いんだけど、強い思い込みとか、恨み、希望とか吹き込むと魂が移るの、
正確には感情とか、想いって言うのは魂を使ってる訳なのね、だから恋しちゃったりすると
苦しくなったりするんです、胸キュンってのは魂が掛ける音だよ、
あんまりキュンキュンしすぎると恋煩いになる。
そんで、寝込んだりするのは死に掛けてんだね。
ポエムとか唄ってる場合じゃないのにいい気なものです。」
見ず知らずの男と会話なんて始めてだ、
むしろ恐ろしい。
確かに理屈は合ってる気がする。
最近の宗教はロジカルなんだ、
早く警察来てよ、
そう思い口をつぐむ
あれ、そしたらこいつは一体何を媒介にしてるんだ?
「えと、なんとなくわかりましたけど、じゃ貴方は?
人形とかそういうのは私特に持ってないんですけど」
細い目を少し大きくあけて、
気がついていなかったように
口を開いた。
「ああ、そうでしたね 人形が魂を持ちやすいのは
人の形を模しているからです。
シャーマンも人間が媒介しているので、同じ理由ですね。
私は貴方の左腕の傷を媒介にしています、
あんだけ思い込めば、魂が宿ってもいいのかもしれませんね。
後、時間はわかりました、番号を間違えてませんか?」
電話のことが?
携帯を出して見ると
情けなく
117とダイヤルされていた。
そして午後11時50分50秒をお知らせしますと
声がひそかに漏れていた
失策。
どこまで私はグズなのか・・・。
「あ あれ、」
携帯を持った左手を見た瞬間私は 絶句した
腕にあった大量の傷は
私の腕から消えていた
そして男の腕に
まったく同じ傷跡があることを気づくまで
時間はかからなかった。
男の子は優しそうな、裏がなさそうな笑い顔で、
「ね? 言ったでしょ。」