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君と輪廻の結び方  無適正者と鬼姫の異界捜記  作者: 鈴片ひかり
第四章 結びの章
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40 魔導王国

 魔導王国ラザルフォード 王都オルフィリス。


 城壁に突き刺さった蝋燭のような尖塔がその王国の威容を喧伝しているかのようだ。

 白を基調にした王国の建造物は優雅でデュランシルトのような雑多な印象とは真逆に近い。


 その都市の大きさはデュランシルトと同等かそれ以上である。

 近隣の農場では魔導人形による作物の栽培が実用化レベルまで進み、基礎的な魔法技術の高さを物語っていた。

 だがイクスを間近で見てしまうと、その技術力の差に天と地ほどの違いがあることに驚くしかない。


「魔法技術がここまで進んでいたとは」


「と思いたくなるのもわかりますが、実際のところは頭打ちというのが現状なんです。次世代魔法技術の壁が高すぎて停滞してきているという見方すらあるぐらいなのです」


「それは意外だな……」


 魔法技術発展の壁は見た目以上に高く険しいモノなのだろう、シンギュラリティーへ到達するにはあと数十年、数百年の時間が必要なのかもしれない。


 冒険者登録証はここでも信用性が高いようでファルベリオスの実家の名前を出さなくてもすんなり入城することができた。


 グルノアやデュランシルトの街では楕円形の環状道路が走っていたが、このオルフィリスは例えるなら平安京に似ている。

 朱雀大路のような太い中央道路と碁盤の目のような区画整理は整然としているが、巡回馬車は大廻の路線があるぐらいでタクシーような軽馬車が発達しているようだ。


 街の中には魔導学院が何校もあり、優秀な魔導師を育成しようと鎬を削っているらしい。


 白い魔法都市と呼ぶのが最も適当だろう。

 第一城壁と第二城壁の間には住宅街や貴族街もあり、第三城壁になると個人所有区画があるほどでやはり大陸が違うと都市機能の考え方も大きく異なるものだ。



 俺ははやる気持ちを抑えながら、ファルベリオスに案内され冒険者ギルドへと到着した。

「僕はこれから実家に戻ることになりますので、何かあればここの掲示板にメッセージを届けます」

「俺は宿を確保してから聞き込みに回るよ」


「マスターにお供します」「わたしも」


「イクスさん、いずれあなたを振り向かせて見せますからね」

「振り向けばいいのですか?」

「……はぁ……道は険しいが諦めない!!」



「レイジ、宿を見つけたらさ聞き込みしながらあれ、探してもらってもいい?」

「そうだった、あの石だな」「そうそう!」


 ユキノがはしゃぐのも無理はない。

 海辺のダンジョンで拾ったあの不思議な宝石なのだが、実は精霊石という非常に貴重で強力な秘宝であることが判明したのだ。


 魔法力を増幅したり、繊細なコントロールを補助する力を秘めておりこれで作られた杖を持つことは魔導師にとって憧れなのだという。


「正直に申し上げれば、ギルド内の資料を全てスキャニングした後に効率的な聞き込みと装備更新などをしたかったのですが、マスターと離れるわけには参りません」


「心配してくれるのはうれしいが、ここじゃもっと高性能な発掘ユニットがあるかもしれないぞ?」


「!……その情報は本当なのですか?」


「知らないけど、大陸違えば拾える物もだいぶ変わるんじゃないかと思ってさ、違ったらごめんな」

「たしかにマスターのおっしゃる通りですね、これは非常に……た……」


 やや動きがぎごちないイクスを連れ、ギルドで拠点登録をした後適当な宿を探しつつ魔法道具、主に魔導師の杖を扱う店を探し回った。

 もちろん、忙しそうじゃない人に黒髪の少女の話を聞いて回りながらだ。


 卑怯にも、男性冒険者にはイクスを、女性冒険者にはユキノを、そして俺は人当りが良さそうな怒らなそうなおじちゃんおばちゃんに声をかけまくる。

 きっとラザルフォードへくればすぐに目撃情報が見つかると、そう踏んでいたのだが。


「こんな苦労するとは思わなかったね」

「聞き込み場所が偏っているのかもしれません。やはり一度ギルドで資料を収集してこようと思いますが」


「構わないぞ、俺たちも気を付けるからイクスも注意するんだぞ」

「了解しました、マイマスター。では夕暮れ時にまたギルド前に集合いたしましょう」


 結局、翌日もイクスは情報収集、俺とユキノは街を歩きながら聞き込みに回った。

 正直ユキノが愛想を振りまいて積極的に通りすがりの人へ声をかけてくれるのはかなり助かっている。


 俺が声をかけると、答えてくれるか去っていくかは半々ぐらいだがユキノだとほぼ100%の人が記憶を遡って答えてくれるのだ。


「全然手応えがないね」

「ああ……」

「ほら聞き込みする場所が悪いかもしれないじゃん? イクスが戻ったらまた相談してみようよ」


 通信で話せばいいじゃないかって思うよね。

 だが、この魔導王国王都の岩盤に含まれる特殊岩石の影響で現状のインプラント通信がほぼ使えない状態になっていた。


 近距離ならノイズ混じりで聞き取れることもあるが、それじゃあ面と向かって話しろよってことになるわけで。


 ずっと俺のために駆けずり回ってくれたユキノを休ませようと喫茶店で甘いモノを食べさせてやっていた。


「これおいしいよ。レイジも食べれば?」

「ユキノのほうが疲れてるだろ? 負担かけっぱなしで悪かったな」


「別に~わたしだって葵衣さんと会ってみたいしさ……でもなんでだろう? 見かけたことあるけど、どこだっけ? みたいな話が出てくるかと思ってた」


 たしかに……エルファベールのロッドさんが嘘を言っていたとは思えないし、ギルド前の冒険者たちに聞き込みを絞ってみるか?


 午後の聞き込み中、魔導杖の専門店が一本路地を入った場所に合ったことと縁結びのお守りが仄かな温もりを発したので入ってみることにした。


 俺は専門外だからユキノに任せて杖のオーダーを頼んでいると精霊石にぶったまげ初老の男性が椅子から転げ落ちそうになっていた。


 慌ててユキノが助け起こし、何やら話に花が咲いているのでここは任せて店先で状況を整理してみようと思考を巡らせる。


 ここまで目撃情報にぶち当たらないのは……何か理由があるはずだ。


 運が悪い? だが縁結びのお守りはこの杖の店ぐらいにしか反応を示していない。


 今後を考えればどうすればいいのやら、とかなり精神的に疲れていることを自覚できたときだった。


 向こうからイクスが走ってやってくるのが見える。


「マスター!生体データを辿って合流しました。朗報であります、ラザルフォードから北に二日の距離にある薬草や狩りを生業とする村の住人が山に黒い髪の女性がいるのを見たそうです」

「!!!」


 ”

 冒険者ギルドで私に声をかけてきた男性冒険者たちに目撃情報を訪ねていたときでした。


 そういえばと、3日前にその話を聞いたそうです。


 ジャルチ村という小さな集落ですが、薬草の買い付けや護衛で冒険者が出入りすることも多いようなので信憑性は高いと思われます

 ”



 冒険者の言葉を素直に信じるのは危ないと最初は俺も思っていた。

 だが拠点となる都市を決めて活動している冒険者にとっては、評判の失墜は死に直結する重大事項だ。


 そのため嘘情報で騙すという行為がひどく忌み嫌われており、言いたくないことは言いたくないとはっきり伝えるべきという暗黙の掟があるぐらいだ。


 だからこそ、今回の情報には一定の価値があるとイクスが判断したようだしこのような状況分析ができたイクスの成長が目撃情報を得たことと同じくらいうれしかった。


「あっ!イクスおかえり! ねえねえ! 加工代金が70万レーネっていうんだけど……」

「よし、支払いしてくるからイクスから話を聞いておいてくれ」

「え!? ケチで陰湿で……うそ……ありがとうレイジ」


 正直言えば魔石の売却益は相当にうまかった。

 所持金は現在180万レーネを超えていたので、杖の料金70万と発掘ユニットの代金50万を払ってもまだ余裕があるからたいしたものだ。


 杖屋の親父はてっきり値切りに来たものと警戒していたが、きっちり70万レーネを出したことに驚いていた。

「その若さでたいしたもんだ」

「ユキノのために最高の一品を作ってくれ。追加代金があれば払う用意がある」

「いいだろう! 俺の持てる技術を全てつぎ込んでやる!! 貴族のバカ息子やバカ娘たちのような子犬とは違いあの娘さんは俺が今まで出会った中で最高の魔力資質の持ち主だからな、赤字だろうが知ったことか作ってやる! 精霊石だぞ精霊石!」


 何やら興奮しやる気になってくれたようで助かる。

 これは追加料金用に海竜の魔石も売る必要があるかな? でもうれしい悩みってのはいいもんだ。


 俺を待ち構えていたようにイクスから目撃情報を聞いたユキノが涙ぐみながら手を握ってきた。

「レイジ良かったね……あっでもまだ決まったわけじゃないから喜びすぎもだめだよね」

「二人とも一緒に来てくれるのか?」ガンッ!と思いっきり脛を蹴られて呻く俺……


「いてぇ」

「この期に及んでまだそんなこと言ってんの? この根暗! 陰湿! ケチ! 粘着質!」


「悪かったよ、ユキノの力を貸してくれ」

「素直にそう言えばいいのよ」


「マスターの行くところであればどこへでも」


 ◇◇


 ユキノの提案で、金持ち冒険者がやりそうな馬車のチャーターというものをやってみることにした。

 料金はそこそこするが、時間を選ばず多少無理をすることができる。


 御者にはチップを弾み、急ぎであることを伝えると金払いの良い客ということでたまたま空きのあった高速馬車を進められる。

 費用は12万レーネだったが、この際惜しくはない。


 向こうも空いているよりも良いすぐに馬車を出してもらえることになった。


 こちらのドラグランナーはデュランシルト近郊の種と若干ことなり、脚が太く首が短めになる。

 だが基本的な性格は人間と親和性があるようで、休憩時に鱗を掃除してやるとすぐに甘えてくる良い子だった。


 ここでもグラスランナーの若い御者二人が担当で、小さい体が逆にドラグランナーを警戒させず相性が良いらしい。


 愛想がよく質問にもよく答えてくれるので、夕食時には焼き立てパンをごちそうしてやると小躍りして喜んでくれる。

 ドラグランナーと仲が良いらしく、御者が喜んでいる姿に体を揺らして共感するような性格の持ち主でユキノとも仲良くなれたようだ。


 もうすぐ葵衣に会える……大切な、愛しい人に会えると考えるだけで人ってこれだけ優しい気持ちが溢れてくるんだな。


 世の中の恋人たちがバカップルになる理由が少しわかったような気がした。


 ジャルチ村には翌日の午後に到着することができた。

 聞いた通り、薬草採取や薬草栽培、狩猟と採集をメインにしたような集落だ。


 すぐに俺たちは聞き込みに向かう。

 すると薬草店の店主が直接の目撃情報をおしえてくれた。


「ああ! あんときの娘っこと同じ黒髪の兄ちゃんだ!」

 こうもストレートに反応してくれると、探しに来たかいがあったというものだ。ユキノがほらと背中をひっぱたくので緊張しながら目撃情報について聞いてみることにした。












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