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君と輪廻の結び方  無適正者と鬼姫の異界捜記  作者: 鈴片ひかり
第三章 ヴァイス・レイジ
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37 吠えろ 鬼凛丸!!

なんだかんだで俺たちは今、エルファベール領主屋敷での事情聴取を終えたところだった。

応接室らしい調度品がほどほどに豪華な部屋のソファに俺たちは座らされている。

「ねえレイジ!せっかく集めた魔石の半分以上取られちゃったじゃん! 悔しい!!」


ユキノが怒るのも無理はない。

刃ムカデを撃退したものの、街が受けた被害は大きく俺たちが悪いという流れになりかけたときだ。


「隠すつもりはなかったんですよ。放蕩息子なもので」

「自分で言うなよ、魔導王国ラザルフォードのローエン伯爵家の次男坊だっけ?」


「兄上が優秀なのとボクはルーンナイトの適正が出たため、自由に生きてみようと思ったんです」

「自分で選べたってことか、恵まれてるな……いや、これは皮肉じゃなくなこの世界じゃ幸運な境遇なほうだと思ってさ」


「まさにおっしゃる通りです。僕は恵まれていますよ。だからこそというつもりもありませんが、今回の件じゃレイジ君が不利益をこうむる事態は回避したいと思っています。あの魔石も必ず取り戻させます」


「それに関してだが、差し出した魔石は見舞金代わりに提供してもいいと思ってる。この街はかなり気に入ってるんだよ、だからまた来た時に後ろめたい気持ちは背負っていたくない」

「ははは、かなわないなぁ。そういう考えをする人に出会ったのは初めてです。後ろめたい気持ちを背負っていたくない……ですか! かっこいい!!」


そこで顔が利くファルベリオスにあの連中とは初対面でいきなり襲われたこと、この街が気に入ったので魔石は見舞金として提供する、という話を通してみるとすんなり解放されてしまった。


イクスはずっと黙っており、ユキノは不機嫌そうだった。

とりあえず、こいつの情報を聞き出すのは後日にするとしてイクスが拘束した黒いフードローブの男たちから情報を聞き出そうと衛兵に確認したのだが……


「全員遠隔式の魔道具で脳が焼かれていたそうです」

「手の込んだ真似をしてくれるじゃねえか」


こうなってくるとファルベリオスは利用されはめられたと見るべきだろう。油断はできないが。


「レイジくん、それにイクスさん、ユキノちゃん、僕はあなた方が船を探していることを知っています。そこで提案なのですが」


領主の屋敷からの帰り道、日が落ち夜空には満天の星空と浮島から流れ落ちる滝が虹色の川を天空に描く競演がなされていた。


「船を手配します、ですが僕もあなた方と同行させてもらえませんか?」

「なんであんたが一緒なのよ」


「俺があっちに向かう目的を知っているのか?」

「タチモリアオイさんを探すため、ですよね。それに関しても僕がいえ、僕の家がギルドに協力依頼を出せば探しやすくなると思います……この際です家でも何でも利用させてもらいます!」


「お前がそこまでこだわる理由はなんだ?」

「師匠、いえ、魔導王国時空魔法研究所所長バルケイムに報復するためです」


<マスターへ提言。この男を最大限利用するべきです>


「報復を手伝えってことか? そんな国家に仇なす大罪人になりに行くのはごめんだぞ、それこそ葵衣を探せなくなんだろが」

「いえ、そこまでは……ただ何の目的であんな書状を送りつけたか、理由いかんでは報復になるということです」


「やっぱりだめだ、お前を信用しないんじゃない。俺たちの戦いに巻き込むのは気が引ける」


「なんでですか! あっちでは僕を利用してくれていいですから! バルケイムにたどり着くにはレイジ君たちとの協力が不可欠なんです! 奴の捨て駒で殺されてたまるか!!」

「やっといい顔になったじゃねえか……一晩考えさせてくれ」


「じゃあ明日、宿屋に迎えにいくとします」


そう言い残すと、ファルベリオスはまだ混乱の余波が残るエルファベールの街に消えていった。




一度部屋に戻った俺たちはファルベリオスについて話し合ってみた。イクスは使い捨ててもいいから利用すべきという意見で、ユキノはこの3人がいい、他はいらないという。

どちらの気持ちも分かるだけに辛いところだ。


「ファルベリオスと行動を共にすれば、葵衣様の情報をたどれる可能性が僅かながらあると思われます。このルートを断ってしまうとラザルフォードでの聞き込みから開始しなくてはいけません」

「むむぅ~イクスの言う通りだよね……うん分かった、私も納得したけど変なことしたら半殺しでいいよね?」

「半殺しならいっか?」

「いいでしょ」


あの黒フードローブの集団に関する情報は追加報告待ちとして、イクスは回収した魔石のうち価値の低そうなものを提供したが残りと戦利品、そして蔵から回収した脇差などを一度分析させてほしいと申し出てきた。


そこで一通り出してみると何やら夜通し加工や整備をしてくれているようで、ユキノは防音の結界を貼ってぐっすり寝ているという。


ファルベリオスは基本悪い奴じゃなさそうなんだが、どこか掴み切れない何かを抱えている気がしてならない。

もし本当に葵衣を奴が殺していたとしたら……


イクスによるモニターで奴を問いただした時の脈拍や鼓動に異常はなく、嘘をついているという分析結果は出せなかったという。


翌日、宿屋のドアがこんこんとノックされファルベリオスを中に導きいれる。

「おはよう! もちろん僕を連れて行ってくれますよね!?」

「おい、その聞き方だと断りたくなってくるからやめとけ」


「ええええええ! ここまで来てだめとかあるの!?」

「連れてくよ……連れていくから。だが俺たちの秘密を守れるのか、その覚悟はあるか?」


「秘密は守ります。では僕の秘密もここで暴露しましょう……実は僕、イクスさんに惚れてしまっているのです!付き合ってください!」「拒否」


「うばああああああああああああ!」


崩れ落ちたファルベリオスだったが、再び立ち上がる。

「大丈夫、必ずイクスさんの心を僕に振り向かせて見せますから!!」

「だってよイクス」

「私の存在は全て、マスターレイジの目的達成のために全力を尽くすことであり、あなたへの関心は皆無です」


「ぐはっ!!」


ちょっと気の毒になってきた。


「勘違いなさっているようですので申し上げておきますが、私は人間ではありません。このとおり発掘人形なのです」

イクスの左腕がスライドし、オーラバルカンの発射口が現れる。


「!! は、はっくつ人形……まじですか」

「まじです」

「だったら初めて人間と発掘人形との間に愛が生まれた実例として結婚しましょう!」「拒否」


「ぐはっ!」


「ねえいつまでこのコント続けるの?」

「まあそう言ってやるなユキノ」

男なら多少同情してしまうよな……


「まあ諦めませんけどね、イクスさんはイクスさん!僕の最愛の人です!」

「マスターへ、先ほどの提言を取り消し、ここで射殺してもよろしいでしょうか?」


「やめてええええええ!」

「イクス、それは却下だ。理由は死体の始末に困る」

「さすがマイマスターです。命令受諾しました」


「……ま、負けないぞ!!」

「ふられてるから既に負けじゃない? この先も負けしかなさそうだよね」


最後のとどめの一撃はユキノだった。



◇◇◇



商用大型魔導帆船ポルポフィン号


基本的には風を使った帆船であるが入港や凪のときには魔法の力を動力に航行可能な船である。

木造船ではあるが魔法による強化措置をされており、魔物除けの聖印も搭載。イメージするならドラクエぽい船ではなくFFぽい船。


そこにファルベリオスの力で4人分席をねじ込んでもらった。

つまりねじ込めるだけのコネと財力をローエン家が持っているということだ。


イクスとユキノは狭いながら一部屋用意してくれたが、俺とファルベリオスは当然雑魚部屋で眠るはめになった。

文句はないが揺れる船の中で寝るというのは意外に慣れが必要で、昼間は船の清掃や見張り作業の補助などを手伝うことが条件だったので仕方がない。


刃ムカデとの戦闘での負傷があったため包帯を巻いていたことから、潮風はきつかろうと中での作業、主に料理の手伝いを俺がすることになった。


イクスは海での警戒をしつつ、ダンジョンでの戦利品を整備していた。

グリフォンレザーの損傷がかなりひどかったため、霊糸の衣から分離してしまったことも原因にある。


鎧の補修と脇差などの塩分除去などもしてくれるというので、もう任せることにしていたしイクスはこういう作業が好きなんだなと思う。


海の上に出てから10日目のことだ。

船上では隊商にあった3日目のジンクスはないらしいが、夜になると決まって船員たちは慌ただしく緊張した面持ちで警戒するようになる。


イクスにもそれとなく警戒を伝えるが、海洋生物が船の周りを泳いでいることがある程度で異常な魔力反応は今のところ見られないという。


「なあ、あそこまでの警戒って陸上でもあまりしないと思うんだが?」

「レイジくんはそうか知らなかったのか・・・・ダークシャドウが出る海域なんですよここは」

「・・・なんだそのお腹の腹痛が痛いみたいな名前は」


「たしかに名前は少し抜けていますが、恐ろしい魔物ですよ。って魔物かどうかも不明な亡霊・・・じゃないな、剣や槍、弓はまったく効かず魔法も光属性以外は効果がありません」

「闇系特化ってやつか、たしかに面倒そうだ」


「でも安心してください。僕のルーンソードは効果がありますので」

気になるのはゴーストやレイス系は俺の刀でも切れたということだ。


「たしかにレイスやスペクターなどは魔法の武器でないとダメージを与えられません、アストラルボディというものです。ですがダークシャドウはディメンジョンボディいうものらしく全く別、いえ上位の魔物と考えてください」


となると、この刀でもダメージを与えられない可能性が出てきたな。

そうなれば退魔法で対抗するしかないだろう。


ユキノは光属性魔法も使えるので迎撃能力としては整っているほうだろう。


まあこういう話をしているとやはり噂をすればとやらで、奴らがお出ましになった。


「黒霧だあああああ!!!!」


見張りの声に合わせ、多くの船員たちが鐘を鳴らし松明や剣を手に迎撃しようと集まって来た。


「ユキノを迎撃要員にあげてくれ」

<了解しました。私は試作武器の調整があとわずかで整うのでお待ちください>


話をモニターし、迎撃準備をしておいてくれたのだろう。

こう自分の判断ができるようになっているのはうれしい。


ときおり自然と微笑んでいるような表情になっていると本当に人間と区別がつかない。


黒い霧が近づくにつれ、気温が一気に下がり始め黒い影のようなものが船の周囲を飛び始めている。


なるほどダークシャドウとは良く言ったものだ。

ネーミングセンスは最悪だが、実態をよく表している。


さて・・・・仕掛けてくるかこないのか・・・・

そう考えているうちに、火矢が周囲を漂うダークシャドウへと放たれる。


わずかに影が揺らぐような影響を与えてはいるようだが、根本的にダメージを与えられていない。


骨ばった腕と骸骨のままの頭部と上半身が漆黒の影として飛び回り船員たちへ襲い掛かり始める。

迎撃できないと知っているのか、船員たちは避けることに集中しているようだ。


「アーグメルドシュワイザー ベルデエム!! サークルソード ブライトスター!!」


ファルベリオスの頭上に光輝く剣が10数本現れ、回転しながらダークシャドウへに一本が撃ち込まれた。

寸前でかわされたが、ルーンソードをコントロールしダークシャドウの胸元へ突き刺さる。


キイイイイイイイアアアアアアア!!!


金切り声のような悲鳴をあげて消え去るダークシャドウだが、それを契機に奴らが一斉にファルベリオスへと襲い掛かる。


「ひいいい!聞いてないよ!!こいつらがこんなに出るなんておかしいって!!!」


逃げ回りながらサークルソードを振り回し迎撃しようとするが、船員からマストを傷つけるな!!と叫ばれ萎縮してしまったようだ。


「世話の焼ける! 破っ!!」

気功破が効くとは思ってないが、ダークシャドウの体を一時的に散らす効果はあったようだ。


「インペリアルマジック!! シャインアロー!!! 」


ユキノの光魔法がさく裂した。

無数の光の矢がダークシャドウの密集していた空域で弾け閃光を発した。


キイイイイイイアアアアアアア!!!


数体が巻き込まれ消滅するが、それでも尚湧き続けるダークシャドウの攻撃は激しさを増した。

ユキノは呪文を撃てる射線をイクスから助言をもらいながら撃ち続け、かなりの数を撃退しているがダークシャドウは船員たちに取りつくと奇声を発しながら他の船員を襲い始めている。


「どうすればいい、風天神、水天神、竜神に火界呪・・・・どれも威力がありすぎて船にダメージが!」


俺に急降下で襲い掛かったダークシャドウを抜き打ちに斬りつけたが、手ごたえがない。

くそ、この刀でもだめなのか!?


あの悪魔貴族でさえぶった切ったのに!


俺自身混乱していたのだと思う。

ハンドブラスターを撃とうとしても、逃げ惑う船員や船のマストが邪魔でトリガーが引けない。


<マスターお待たせしました!! これを>


イクスが着地するとあるモノを俺に手渡し、すぐユキノの護衛に向かう。


「こいつは・・・・は?」


<以前からプランのあった武器であります>


俺の手には刀の柄がある。鍔もあり、ハバキもある・・・・だが肝心の刀身がない!!


これでどうやって戦えって!?

せっかくイクスが準備してくれたのに、これじゃ!


そのときだった、戸惑う俺の様子に付けこむように現れたダークシャドウが憑りつこうと襲い掛かる。


つい、カタナを構えた癖で刀身のない刀で斬りつけてしまった。


キイイイイイイアアアアアア!!!


両断されたダークシャドウが青白い炎で焼かれるように消え去っていく。


「なっ!?なんだよそういうことか」


まったくイクスの奴・・・・ちゃんと説明ぐらいしてくれ。


俺の手に握られていたのは刀の柄、そう打ち刀用の柄。そして鍔とハバキもある。


刀身は無く、代わりに俺の霊力によって収束した刃が青白い輝きを放ち刀身となっていた。


<オーラブレイドになります。霊子力のアストラルエナジー放射によりディメンジョンボディであってもダメージが通るはずです>


「オーラブレイドね・・・・・まあ中二気質の俺には最上の武器ではある!! 」


迎撃していたユキノやファルベリオスたちも俺の光る剣に驚いていたが、一刀ごとに確実に倒していくオーラブレイド・・・・


やっぱゴロが悪いな!


「お前は!! 鬼のように凛々しく!! 敵を切り裂くんだ!!! だから吠えろ 鬼凛丸!!」

気合と共に振りぬかれた霊刀は確実な手応えでダークシャドウを数体切り裂いた。燃え上がる青白い炎のかがり火はまるで地獄への灯のようにさえ見える。


その時だ、背後から憑りつかれた船員が数名、俺に襲い掛かってくる。

動きからだけでもリミッターの外れた力で掴みかかろうとしていたので・・・・・船員たちの間を切り抜ける。


キイイイイイイアアアアアアアアア!!!!


腕や足、肩などを斬りつけるとダメージを受けたダークシャドウたちが次々と離脱していく。


「シャインアロー!!」

すかさずユキノの魔法が奴らを消滅させていく。


それが最後だったようで残った奴らは逃げ去っていき、なんとかこの場を切り抜けることができたのだ。


「お前!どうしてこいつらを殺した!!!」


船員の一人が俺の胸倉をつかみかかってきたが・・・・


「いてて・・・おい肩がいてえ!どうなってんだ!」


「へ?」


倒れていた船員たちが起き上がりつつ、斬られた箇所を痛い痛いと抑えている。軽い切り傷で済んでいるはずだが?


「なんだこんなもん、ツバつけときゃなおんだろ!」


「あ、あんた・・・こうなると分かって助けてくれたのか!?」

「本当に殺そうと思ったら、心臓刺すか首を刎ねてるさ」


「あああ!仲間を助けてくれてありがとう!!悪かった!!」


混乱しても仕方がないと宥め、事態の収拾を手伝った。

船長や乗客たちからは非常に感謝され、夕食のおかずが多少良くなったのが俺たちの僅かな戦果だったのかもしれない。




平成最期の日に!という訳ではありませんが、今日最終話を書き上げることができました。

それに連なる37話、読んでいただけたらうれしく思います。


書き終えた達成感と同時に湧き上がる感情が、寂しさだったことには自分でも驚いています。

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