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君と輪廻の結び方  無適正者と鬼姫の異界捜記  作者: 鈴片ひかり
第三章 ヴァイス・レイジ
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24 ハンドブラスター

 バーミリオン商会のダイクさんとの約束である大量輸送のテストを兼ねて、荷馬車20台分相当を魔法の袋へ収納する作業が終わった。

 結果はまだ余裕があるという非常識極まる事態。


 そこでデュランシルトから距離にして荷馬車で10日、高速馬車で3日の距離にある港町へ輸送することになった。

 馬車は商会手配の高速馬車に同乗し、港町で物資を降ろしさらにあちらの商会担当者から交易品を受け取ってくるという話になっている。


 今回は俺一人で向かうことにして、イクスとユキノには杖探しと近場の低層迷宮などで呪文の制御訓練をすることにしてもらう。

 追手のことも考慮したが、髪色が変わった事で以前との印象が激変したためあえて堂々と活動することにしてみるとユキノも乗り気だった。


 報酬として俺が頼んだのは ”黒い髪の少女”に関する目撃情報だ。

 冒険者ギルドの広域情報依頼はCランク以上で大陸中に情報依頼をかけると3000万レーネ以上の金がかかることが分かった。


 新聞全国紙数紙に全面ぶち抜き広告を入れるようなものなのかもしれない。

 紅い八枚羽の魔人に関する情報も調べたかったが、現時点での最優先事項は葵衣との合流と言い聞かせている。


 ダイクさんは葵衣の目撃情報探しを引き受けてくれた。各都市にある商会支部を通じて黒い髪の目撃情報を広く求めてくれるという。

 そうなれば資金を稼ぐ間、商会の手伝いをすることで葵衣の情報が入る可能性がある。


 日も開けない早朝に高速馬車は出発する。

 スプリング機能はないがそれに準ずる反動軽減の魔法がかかった車体と魔物の素材を利用した性能の高い車輪。そして引くのはドラゴンの下位種であるドラグランナーだ。

 馬とは比較にならない脚力とスタミナを誇り、乗ったイメージでは時速80km近いのではないか!?


 同乗していたのが下級貴族の夫婦と王国軍関係者たちだったが、好き好んで冒険者と会話しないという態度だったので焼き立てパンを作ってやるほどじゃないと思い持ち込んだパンで腹を満たしておく。


 あいつらは何してるだろうか?

 きっとイクスがいるからユキノが不満を漏らしつつも、おやつを買ってあげたりしてるのかな?


 それもイクスの感情が成長する要素になればいい。


 非常に事務的な輸送任務が終わり、やや疲労を貯めながら俺があちら側からの商品を倉庫に降ろし終えると改めて驚きを隠せないらしい。

「レイジさん、あなたが数日間輸送してくれただけで我々が節約できた輸送費用はちょっと信じられない額になります」


「こちらもお世話になってますからね、じゃあ黒髪少女の目撃情報、お願いします」

 俺が頭を深く下げると、ダイクさんが肩を優しく撫でる。


「レイジさん、決してあきらめちゃいけないよ? その娘も幸せものだね、君のような男に惚れられているのだから」

「ほ、惚れって……お、俺はその……」

「ははははは、隠さなくても丸わかりだよ。既に指示書にしたためて各地の支部に発送済みだからね。これで情報が集まることを願いたい。わしもその子に会ってみたいものじゃ」


 雑務を終え、俺が部屋に戻るとイクスとユキノが神妙な顔つきで出迎えてくれた。

「おかえりなさいませマスター」

「ただいま、さすがに疲れるな。そっちはどうだった?」


「「……」」

 イクスは無表情、なのは相変わらずだがユキノがイクスを肘をつっついている。

「ユキノ? 何か言うことがありそうだが?」


「えっとね、怒らないよね?」

「ああ、おこら……おい何をしでかした?」


 ぱっと頭に浮かんだのはユキノを狙っていた連中に絡まれ、街中で呪文を使い多くの家々に被害を……やばい!数百万レーネで足りるのか!??


 やばいやばいぞ!破産か!?


「ほら、イクス」

「ん?」イクスだと?


 すっと前に進み出たイクスは正座してからある物を俺に差し出した。

 黒光りする重厚感のある金属製のその形状は見覚えがあるというよりは、恐らくそのカテゴリーに属するモノという認識が働いた。


「これは、銃か?」

「イエス、マイマスター。霊子力反応炉のエネルギーを応用したハンドブラスターになります

「おお! すごいじゃないかイクス! 近・中距離戦闘だけじゃなく牽制に使えるな!」


 ……だがちょっと待て、なんで怒るとかいう話になるんだ?


「よかったじゃんイクス、喜んでるみたいだよ」


 イクスは淡々とテーブルの上に同型のハンドブラスター3丁と、エネルギーパックのようなカートリッジが10個ほど。

 他には専用のホルスターが1セットと、腕時計にも似た腕輪が一つこれはサイズ的にユキノ用なのか?


 銃のデザインは未来的な流線形ではなく、黒光りのするガンメタリックカラーで四角が多用されたデザインだ。グリップは握りやすく滑り止めまであるのがうれしいところ。


「ハンドブラスターは1カートリッジで弾数およそ75発、試射ではゴブリン4体の体を貫通する威力でありました」

「たいしたもんじゃないか」

「さらには魔法の袋の位相収納システムの再現はできませんでしたが、このようにハンドブラスター及び私に紐づけされた装備であれば収納が可能になりました」


 まるで魔法の袋があるかのように銃が空間に出し入れされている。

 いやはやイクスすごいことしてくれたな。

「んでその時計は何?まさか麻酔針を撃てるとか?」


「いえ、これはユキノ用の緊急バリアユニットになります。中・遠距離射撃戦がメインになるユキノが接近された際に緊急展開できるバリアシステムになります」

「でかしたイクス!」

「ありがとうございます、マイマスター」


 とんとんと肩を叩いたユキノが頷きながら俺に諭すように言い出した。

「なら多少装備でお金かかっちゃっても仕方ないよね、だよねぇ」


「イクス、財布出しなさい」

「……はい」


 しょげているというか、しょんぼりしているイクスを見るのは新鮮だった。

 だが……中身を見た俺はひっくり返ることになる。


「お、おい!? 万が一のために90万レーネ渡してたよね? あれ??なんで2万レーネしかないの?」

「申し訳ございません、マスター! 発掘アイテムを扱っていた店でナノクリスタル生成用のシステムコアと貯蔵タンク、さらには射撃管制用のナノユニットを発見してしまい……」


 まるで悪戯で家具を壊しひどくしょげている子供を見ているようだった。

 たしかに金がなくなったのはショックだが、元を考えればイクスが加工してくれたミスリルインゴットの売却益がほとんどだったわけで。


「あとね……私の杖試すうちにさ……35本ほど壊れちゃいまして」

「ユキノお前もか!」


「ひぃ! ご、ごめんなさい」


 そうだよくよく考えれば二人に金を預けることが間違いだったのだ。

 王族育ちのお姫様と、アンドロイドだろ? 

 二人に金銭感覚求めることのほうがおこがましい。


「いや、これに関しては俺のミスだ。ちゃんと指示しておかなかった俺が悪いだから気にするな二人とも」

「ま、まじで!? レイジって神経質で粘着質で小言が多くて器ちっちゃ! って思ってたけど、尊敬しますはい!」


 この小娘が……

「マスターレイジ! 今後このようなことがないよう、売買時には必ず許可を取るようにいたします!」


「まあいいんだけどさ、はぁ……じゃゃあ二人ともこっちきさない」

「え?げ、げんこつとかやだよ!?」


「ユキノ……せっかく時間のない中急いでお土産買ってきたのにな……あ~あ、ショックだなぁ」

「え? お土産!?」


 ユキノもすこし砕けてきたかな……魔法のバッグから取り出した小箱をそっと手渡す。

「何これ?楽しみ~……え?かわいい……」


 水晶サンゴを細工したハート型の髪留めだった。


「選ぶ時間がなくてさ、かわいげなの買ってきたんだよ。気に入ってくれたならうれしいが」

「うれしい! ありがとうレイジ! 器ちっちゃなんて言ってごめん!」


「はいはい器小さいですよぉっとこれはイクスな」

「……はい?」

「イクスにお土産だよ」


 きょとんとした雰囲気で包みを開けると、中には絹のような繊細な手触りをした純白のリボンが入っている。


「うわイクスこれかわいいよ!?」

「えっと、そのポニーテールに似合うかなってさ」


「うわぁレイジおしゃれ! ね、イクス今私がつけてあげるね!」


 戸惑うイクスの背中に回ったユキノが満面の笑みで、まるでお人形の着せ替えを楽しむようにリボンを結んでいる。


 プラチナブロンドの金髪に非常によく似あう純白のリボン。

 さすが俺! センスの塊だぜ。


「マ、マスター……よろしいのですか?」

「俺が良いって言ったらいいの」

「この身が滅ぶその時まで、大切にいたします」


「おおげさだよイクス~」


 はてさて、イクスの散財のおかげで一夜にして貧乏に逆戻りの俺たち。

 まあ地道に生きていこう。


 でもその晩、少しだけ泣いた。


 ◇


 金策で悩み中である。

 この間大量に持ち込んだので研磨剤の材料は買い取ってもらえない。

そこで新たな商材探しに躍起だった。


 イクスは冒険者ギルドの資料室を閲覧しデータベースを増やす作業を行ってもらい、俺は月間ダンジョン攻略をユキノと読みながら良い案がないものかと頭を悩ませていた。

 すると戻ってきたイクスが、サファイアがおいしい募集があるので俺たちにどうだと進めてきたのだという。




 ”

 依頼:ラングワース市への物資輸送とその護衛、支援。


 目的地:ラングワース市 往復8日。現地活動7日予定。


 活動詳細:同市において魔物の襲撃が相次ぎ、冒険者ギルドから支援物資と人員を派遣することにした。  

     後日到着予定のリシュメア王国の救援部隊が到着するまで物資搬送と護衛を行う。


 募集人員:100名

 報酬  : 一人20万レーネ。


 ”



「よしこれにしようぜ、3人で60万なら当面の生活費は大丈夫そうだな、食料も保存食を大量に放り込んであるしおすそ分けで小麦一袋もらってるからパン焼いて節約しよう」

「さすがレイジママ」


「今から登録してくるから二人は荷造りしておいてくれ」

「はーい」


 サファイアは俺が来ると予想していたのか3人分の募集枠を確保しておいてくれていた。

 参加はDランク以上で指揮を王国騎士団がとるらしい。幸いにもギリギリでDランクに昇格していた俺たちは応募資格を満たしている。


 出発は二日後の早朝と意外に早い。

 参加登録と参加証を受け取ると、すぐさま準備に取り掛かる。

 といっても俺の手持ちと合わせて、資金は10万レーネほどしかないので3人分の諸経費を考えるとあまり思い切った買い物はできない。

 フェイク用の大型リュックに詰め込むのもだるいが、ばれてもめんどくさい。


 イクスと相談し、銃器に関しては発掘武器ということでハンドブラスターに使用許可を出した。ユキノのバリアユニットは緊急時は迷わず使うことを言い含め常時装備させる。

 実は帰ってきたときは自分のエネルギーをカートリッジ用や試射で使いすぎて、ガス欠寸前になっていたというから驚きだ。


 その後は何時間も俺の手を握り続け、もしくは唇から補給と言い出したのずっとドキドキする羽目になっていた。

 その間ユキノはからかうのだが、なぜかこいつも背中から抱き着いてあれこれメアリーと遊んだ話をしてくる。


 王族だったのでこういう時間がなく、父親代わりにしているんだろう。


 現在イクスはハンドブラスターと同じシステムだがミニガンタイプのオーラバルカンを制作中だとか。


 なにやら大鎌にも新たなギミックや強化をしたらしい。


目を通してくれた方、少しでも興味を持ってくれた方々に心から感謝申し上げます。

忙しく辛い日常の中で、私如きの作品ではありますがほんの数秒でも息抜きや忘れられる時間が提供できたのならこれ以上の喜びはありません。

右上のブックマークや最新話下部の評価ボタンで応援してもらえると、本人は小躍りし跳ね回り喜び、モチベにもなるので、気が向きましたらよろしくお願いします。

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