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君と輪廻の結び方  無適正者と鬼姫の異界捜記  作者: 鈴片ひかり
第二章 濫觴
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14 イクス、冒険者になる

宿の女将には同じ冒険者仲間で打ち合わせがあるので部屋を取りたいと、イクスは言ってのけた。

 こういうご時世、礼儀正しい女の子というだけで女将は好感を持ってくれたので助かる。


 そして……

 ・

 ・

 ・

「やっぱり信じられないか?」

「なぜでしょう? 並行世界及び異世界の存在は常識とされているはずです。さらにはわたしイクスの存在は異世界からの漂着物ではないかという仮説を立てているほどです」

「お前もか、なら俺たちは似たもの同士だな」


「マスターとわたしが?」

 何故かぽーっとした表情になったイクスは、しばらく俺を見つめ続けていた。


「一つマスターに提言すべきことがあります」

「なんだ?」


「冒険者になります」

「へ?」


「ロナ様には相談済みでありますが、応援すると言ってくださいました。ご安心ください、適正職業判定魔法具の偽装は可能です」

「それはイクスが冒険者になってみたいからなの?」

「いいえ、マスターレイジのお役に立つためのステップです」


 ということで俺はイクスを連れてルビーの元を訪れた。

 正直申し出は迷ったのだが、お側にいますという反応だったため本人? の意思がしっかりしていることから、しばらくは行動を見守る方針に決めたのだった。


 さっそくだが、イクスの容姿に多くの男性冒険者たちが立ち止まり魂が抜けたように見惚れている。

 女性冒険者でさえかわいい、素敵とうっとりしているぐらいだ。


 だが、一部では……

「あいつ、ロナちゃんとパーティー組んでるヴァイスだろ? なんであんなかわいい子連れて来てんだよ死ね!」

 という罵詈雑言が聞こえてくる。


 たしかに、同じ立場なら同じこと考えるよな……まじでくたばれって祈ること間違いない。


「あらレイジちゃん、会いに来てくれたのぉ? ってそのお人形ちゃんのようなかわいい子は?」

「私は人形ではありません」


 ちょっとイクスにしては感情がこもっていたように思うが。


「えっと、ごめんなさいね。とてもかわいらしい女の子だと思っただけなのよ、気を悪くしたらごめんなさいね」

「こちらこそ失礼しました。ルビーさんのお話はマス……レイジさんよりうかがっております」


「もうレイジちゃんたら……今夜は寝かさないぞ♪」

「おい、話をややっこしくするな。この子はイクスっていうんだ、冒険者登録したいそうなんで手続きを頼みたいと思ってさ」

「大歓迎よ、じゃあさっそく適正判定してみましょ!」


 登録用紙への記載も、イクスはすらすら……まるで印字された文字ような丁寧さと早さで書き上げてしまう。


「あら、もう書いちゃったの?! まぁキレイな字を書くのねぇ、じゃあさっそくこれに手を乗せてね」


 後ろには既に10人以上の人だかりができており、イクスの職業判定を待っているようだ。

「きっとあんなかわいい子だから後衛職だろうな、魔法使いじゃないか?」

「あの慈愛に満ちた目はプリーストじゃないのか?」

「いやいやああいう子に限って戦士系かもしれない」


 などと勝手な妄想をしているギャラリーたちだが、俺は内心冷や冷やしていた。

 偽装といっても何にするとまで確認していなかったのはまずった。

 とんでもない職業設定にしてしまっては困る。


「あら……これは……」やば!

 イクスはあいかわらず表情ひとつ変えないが。

「機巧師……あまり見かけない職業ね」


 ギャラリーもざわつき始めている。


「恐らくですが、古代遺跡で発掘された用途不明な遺物を扱える職業であったと記憶しています」

 隣の受付嬢が辞典をめくって調べてくれたようで、うんうんとイクスの意見を肯定している。


 そうか、イクスが銃器を使ったとしても説明がつくってことなんだな。

 よく考えてある。


「ですが遺物がない状態でしたら、武器を扱う戦闘職より劣る程度の力しかありません」

「いいじゃないか俺なんて無適正のヴァイスだぜ」


 違いねえそのヴァイスより遥かにましだぜ! ぎゃはははは!


 きっとその場のノリで大勢が笑ったのだが、声が大きく目立ったその男に対しイクスは反射的に首を掴み床に叩きつける。


「マスターを侮辱することは許さない」

 明らかに怒気が含まれている。

「がっ! ぐほっ! た、ったす……!」「やめろイクス!」

 俺の声に即座に反応し手を離したイクスと静まり返る受付……


「ほらほらあんたたちは解散なさい! 他人を侮辱するってだめなことって学んだわよね? 分からない悪い子はこのわたしが食べちゃうわよぉ~」


「ぎゃあああああ! に、にげろおおおおお!」


 ともかくルビーのおかげで助かったと誰もが感謝しているが、イクスはどこ吹く風できょとんと直立不動。まさか自分のことで怒ってくれるとは思わなかったから……少しだけイクスという存在が心の中へ入って来た瞬間だったのかもしれない。


 ルビーの話では機巧師の職業プレートは少し時間がかかるので待ってくれとのことだ。

 その話をしていると、ロナが様子を見に来てくれた。


「ふむふむ、機巧師とはまたおしゃれさんね。じゃあイクスちゃんの装備をうちで見繕っていく?」

「どうするイクス?」


「実はマスター、私が冒険者登録を申請した理由の一つとして、ギルドの資料室を閲覧したかったのです」

「なるほど、ルビーに頼んでみるよ」


 二つ返事で許可が出た。

 俺も興味があったので、ロナの店には後で顔を出すことにして3人で資料室を覗いてみることにする。


 こういう情報を集めるという作業が苦手な冒険者は多く、あまり利用されていないが各地の自然現象や気候に関する情報や魔物の生態など、見れば見るほど宝の山じゃないか!


「へえ来た事なかったけど、意外とおもしろい本ばっかりね」


 イクスは何をするのかと思いきや……!

 本をパラパラ漫画を見る要領でさーっと一読すると別の本を同じく読みこんでいく。

「な、なにを!?」

「画像データとしてスキャニング中……同時並行で項目別のライブラリデータを構築中」


 そうこうしているうちに10冊を読み込んでしまっている・・・・

「えっと、あれで内容が分かってるってことなんだよね?」

「そうらしい」

「なんかすごい子と出会っちゃったね」


「なあ、後どれくらいで終わりそうだ?」

「スキャニング完了まで残り2時間23分45秒……」

「あ、はい……じゃあロナ、俺が見張ってるから用事とか片付けてこいよ」


「ん~じゃあお昼近いから先に食べてくるね、戻ったら私が見張ってるからレイジ行ってきなよ」

「それは助かる」


 俺はイクスの邪魔にならない場所で気になった本を手に取ってみた。

「創世神話?」



 ”

 この地は闇に包まれ、何かが通り過ぎることが時折あるほどの空虚な空間だった。


 だがほんの偶然に、ある神がこの曲がり角で立ち止まりため息を吐いた。

 それが星空へとなり、立ち止まる存在が増えていくことになる。


 ある慈悲深き女神が星を見上げるには地面があったほうが見やすいと、大地をお創りになった。

 この女神が大地母神ニル・リーサである。


 大地ができたことでまた立ち寄る者、落ちてくるモノ、迷い込むものが多くなった。

 風の神サラシュティアが生まれ、多くの旅人を潤すために水の神イルマが生まれた。


 星も休みが欲しかろうと最後に立ち寄られ、太陽と昼をお創りになったのが偉大なる光神ウルヴァである。


 そして木々や花々、人々が疲れを癒し成長できるようにと闇月の神シルメリアが生まれた。


 虚無の地に豊かな世界が生まれ、人も魔物も生きずく荒々しくも美しい世界が誕生した。


 全てはある神のため息から始まったことなのである。


 創世神話 序章 ”



「ため息……ね」


 結局、イクスは蔵書全てを記録しデータベースや分析作業を進めているという。


 翌日、起床後に着替えを済ませたところでイクスが立ちはだかるように意見があると訴えてきた。

「マスターレイジへ提案があります」


「どうしたんだ改まって?」


「ギルド蔵書の内容を分析し、マスターレイジの目的に際し最も有効なプランを作成したのでご覧いただきたいのです」

「御覧いただきって、紙とペンを用意しようか?」

「不要」


 イクスの目が輝きだすと同時に、空中へスキャニングし補正された近隣地図が投影されていく。

 恐らくデータからイクスが再計算した上での地図なのだろう。


「すげえな……こがグルノアか」

「肯定。現在地のグルノアから、西北に進みリシュメア王国の大都市デュランシルトを目指すプランを提案します」


 説明に合わせ地図のルートが光るが、意外に距離がある・・・・


「予想日程は40日。乗合馬車に乗ることができればさらに短縮は可能」

「なら聞くが、グルノアでなくデュランシルトで活動しろという理由を説明してくれ。危険な旅というリスクを背負うのに値する話をしてみろ」


「イエスマスター!」

 イクスの声が僅かに弾んだ気がする。


 ” 


 マスターレイジの最優先事項はタチモリアオイという女性との再会であります。


 グルノアにおいて黒髪女性の情報は今のところマスターが日夜聞き込みに回っていてもまったく集まりません。


 そこで行動範囲を拡大し、デュランシルトという冒険者ギルド本部がある都市へ活動拠点を移すことを進言します。


 理由1 デュランシルトは冒険者の聖地と呼ばれるほど周辺にダンジョン、遺跡、狩場に恵まれているそうです。

 そのためそれに伴う経済活動も盛んであり、集まる情報の数や質もグルノアとは比較にならないと予想できるしょう。


 理由2 デュランシルトの冒険者ギルド本部には、広域情報提供依頼 というシステムがあり大金を要しますがここで黒髪女性の情報を集めるのが最も合理的かつ効率的。


 理由3 グルノアにおいて広域情報提供依頼を出すための資金を稼ぐにはかなりの年月を有するが、デュランシルトの依頼リストを検証したところマスターの戦闘技能とわたしイクスの戦闘機能を活かすことで”あらかせぎ”が可能


 以上が現状において提言する主な理由及びメリットになります。


 ”


 葵衣と再会できる可能性、それが道筋となっていたことに俺は気づいた。

 イクスが気づかせてくれた。


「悪くないな」


 そうなると旅費が問題になってくるな。

「イクス、物価情報は押さえてあるな?」

「イエス、マイマスター」

 この子は命令口調で指示されるとすごく喜んだ表情になるから少し困る。


「デュランシルトまでの旅費と到着後の出費を考えるとどれくらい必要になる?」

「およそ5万レーネと予測」


 となるとギリギリだな。

「と、おっしゃると思っていたのでこれを用意しておきました」

「は?」


 イクスが胸元から取り出したのは、奇妙な輝きを放つ小型の金属棒??

「たしかインゴット?」

「肯定。リビングアーマーの残骸から抽出したミスリル銀ですがほとんどをこの<マスターの好みである>メイド服の生成に使用したため、残りはこれになります」

 なんだろうマスターの好みをことさらに強調された気がする。

 

「こほん、ミスリル銀って相当高いんじゃないか????」


「グルノアでのミスリル銀相場を参考にこの小型インゴットを算出すると、およそ200万レーネになります」

「おい……」


「そうなるとおよそ2000万か、旅の資金としてはかなり余裕が……ってこれ取り分ちゃんとロナに渡さないとだよ!!」

「マスターがそうお望みでしたら、お二人でご相談なさってください」


 まるでポッキーでもおすそ分けするかのように俺に小型インゴットを手渡すイクス。



 ◇



 もちろん、ロナにインゴットを見せた時点でお茶を吹いて椅子から転げ落ちたのは言うまでもない。

 ロナの爺さんも本物のミスリルだと腰を抜かしかけていた。


「レイジはやっぱり旅立つんだね」

「イクスの提案だが、俺の意思で決めたよ。だからロナの取り分を渡さないとと思ってさ」


「バカな小僧じゃ、言わずに売っぱらえばいいものを」

「だからレイジなんだよ、なんかうれしいな。でも、わたしはお店あるから行けないし、一緒についていきたい気持ちはあるけど……邪魔な女にはなりたくないっていうかさ」


 インゴットはロナ用に半分へとイクスが加工した物を手渡した。

「これだけでも相当な値打ちじゃな、良くみるとイクスちゃんとやらは武器を持ってないようだが……気に入ったのがあれば持っていきなさい」


「そうよ、このミスリルで短剣でも作って貴族に売りつけたら数倍の儲けが出るんだしね?」

「ぬはははは! さすがはわしの孫娘じゃ!」


 イクスはどうしたものかと俺の指示を待っていたので、好きなのを選んでみろと言ってみた。

 するとやはり女の子だからなのか、足取り軽く店内を物色し始める。


 きっと高機動戦闘や射撃が得意そうだから弓? クロスボウ? もしかしたら小剣や短剣っていう可能性もあるな? 似合いそうなのはレイピアとか。


 俺の分のミスリルは旅費のために現金化したいと言うと、知り合いの金属商なら即日買取してくれるというので武器選びが終わったら爺さんも一緒についてきてくれるという。


 イクスの武器選びは意外にあっさり終わった……

 ん?


 なんですかイクスさん、その物騒な武器は……


 イクスが選んだのは、禍々しいデザインの折り畳み式デスサイズだった。そう死神の鎌みたいな奴。





次話は葵衣編の続きになります

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