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君と輪廻の結び方  無適正者と鬼姫の異界捜記  作者: 鈴片ひかり
第二章 濫觴
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12 阿修羅王の左手

静かに石扉が開いていく。石がこすれる振動が冒険映画でありがちな演出を想起させてくれる。

 奴らの指示では飛び込んだと同時に走り出し奥の壁に取り付けられた大きな宝石を持ち帰ること。


 壊れた扉の隙間から見えたが、野球場を一回り小さくしたほどの広さのある円形上の部屋の壁にはたしかに、きらりと輝く何かがはめ込まれているように見える。

「分かってんだろうな? しくじったらロナは慰み者にしてから娼館に売り飛ばすからよ」


「さっさと合図をしろ」

「ちっ! あとは学者がやれ」

「よいかとにかく走るのだ、なにが起ころうと立ち止まってはいかん!!」


 俺は学者を睨みつけると、合図をする気がないなら自分で行ってやると一気に中へ飛び込んだ。

「あいつ本当にヴァイスかよ!?はええ!!」


 須弥山での修行中、天界に満ちる霊力と神気が俺の肉体的な成長を促してくれたため脚力や持久力、瞬発力は一般人のそれを凌駕するまでに鍛え上げていた。

 床の石畳を蹴り全速力で向こうの壁にある宝石のような物をを目指す。


 だが、本能的な直感がそれを大きく拒絶する。

 咄嗟に左に避けると、到着を見計らったように宝石前の床から無数の針が突き出される。

 もし突っ込んでいたら串刺しになっていたところだ。


 だがこれがSランク冒険者が全滅するほどの危機か?

 猛烈な違和感を感じながらゆっくり針を蹴り折って、その針で宝石を取り出そうとした時だ。


 背後に何か巨大な存在がせり上がってくるのを感じる。

 中央の床が静かに開き、全長3m近い巨大な鎧!?


 重厚な金属鎧が姿を現す。

 首のない金属鎧はガチャガチャと擦りあいながら動き出し、床からその身の丈を上回るような戦槌を拾い上げ迷うことなく俺をターゲットに選んだのが分かった。


 ふと周囲を見ると、冒険者の躯らしきものがいたるところに転がりミイラ化していたり白骨化していたり。

 その数、軽く30体を超えるだろう。


 ガチャリ……ガチャリ……一歩ずつその巨体が踏みしめる音が近づいていく。

 小剣は取られたまま。だがあったところでどれだけの役に立つものやら。


 扉の奥では学者やハマーという男が早く宝石持ってこいと叫んでいるが、この状況でそれが出来ると本当に思っているのだろうか?

 仮に成功したとしても奴らは拘束されたロナを見捨てて逃げることは確実だ……ならば俺たちが生き延びるにはこいつをどうにかするしか道がない。


 さらには、鎧の出来具合にも正直呆れるばかりだ。


 あり合わせの金属板をつなぎ合わせただけの存在であればまだ救いはあったが、各パーツごとに繊細な彫刻やら文様やらが刻み込まれ不思議な輝きを放っており一目でただの鎧ではないと思わせるだけの存在感に溢れている。

 恐らくだが、魔法は役に立たないのだろう。


 死体の中に無残に斬りこされている魔法使い系のローブが大量にあったことからも想定できる事態だ。


 丸腰で魔法が効かない相手?

 だったら俺には関係ないじゃないか。そう思えたとき、何かが吹っ切れた気がした。


 俺にはあるじゃねえか! とっておきがよ。と俺は針を投げ捨てる。


 ガシャン! ガシャン! 敵意を持った足音が近づく中、左手に意識を集中し―――

「オン アスラ ガーラ ラヤン ソワカ!」


 左手から巻き起こる衝動と情熱、そして駆け巡る力に全身が震える。


 だが動く鎧、リビングアーマーは容赦なく俺に巨槌を振り下ろす。

 滑るような足さばきで右へ避け、距離を取る為に壁を蹴って奴の背後へと移動するが、上半身をくるりと回転し横なぎに巨槌が振るわれた。

「ずるい!」


 その反則的な挙動に思わずしゃがむことで避けられたが、巨槌の猛攻は苛烈さを増していく。

 俊敏さで優るが、このままでは攻め手を欠いている状態。


 奴は飛び上がり床に巨戦槌を叩きつけ、しかもその破片をぶつけてくるというなんとも知能的な攻撃をする始末。


 広域放射型の攻撃は近接的には辛いところ。でもそちらがその気なら!


「破!」

 金剛式気功破が奴の右肩に直撃し、わずかだが装甲をへこませている。


 ちなみに金剛式とは小角が拠点としていた金剛山で身に着けたという気功発勁のことだ。


 その一撃を喰らった直後から、リビングアーマーの動きがさらに加速し床を砕きながら猛烈な攻撃を休むことなく繰り出してくる。

 遠距離戦ではなく近接戦闘で俺を肉塊にするつもりだろう。


 床石の破片が無慈悲に襲い掛かり、霊糸の衣を持ってしてもかなりの打撲ダメージを受けてしまっている。

 とことん俺の足を潰すつもりか!?


 さっきの攻撃の感触では恐らく剣さえも通らないだろう。

 だからSランク冒険者がやられるという事態に陥ったんだろうな。


 しかもこれほどの守護者を配置するとはいったいこの封印の間には何が?


 今も破片が頬をかすり鈍い痛みが走るが、奴は足場の悪い場所へ俺を追い込もうというしているようだ。

 ならば・・・


 シュウさん、力を借ります!!

 気丈にも振り下ろした巨槌の懐に潜り込むが、奴はそれすら超速で反応してみせ柄で叩き潰そうと強引に力技にきやがった。


「レイジイイイ!!!」

 ロナの悲鳴が響き渡る。


 その悲鳴と同時に鳴り響いたのは大きく金属がひしゃげる音で、ぐにゃりと曲がった柄を打ち上げた俺は、前傾姿勢になったリビングアーマーの胸部の紋章部分に両手を押し当てた。

 練り上げた気と、戦闘鬼神 阿修羅王の腕から流れ込んでくる強大な力を体内で練り上げ放つ渾身の一撃!


「阿修羅 甲冑殺!!」


 リビングアーマーに気と阿修羅王の途方もない力の一端がさく裂し全身に駆け巡る。

 遺跡全体を揺るがすような轟音が遅れて響き渡り、そして間髪入れずに胸部を蹴り後方へ飛び下がった。


 これでも効かなかったらさすがに打てる手はもう少ししかないぞ。


 ギリギリ・・・・ガチャガチャガチャ・・・さきほどまでとは違う不協和音がリビングアーマーから発せられている。

 鎧の隙間から黒い霧のようなものが漏れ出ており、最後まで俺を殴り殺そうとひしゃげた巨戦槌を振り回そうとするが腕部がもげ、パーツとなって転がりそれでも踏みつけようとした足がグシャリと潰れて散らばった。


 倒れながら這いずり俺を握り潰そうともがくその腕にそっと触れる。

「もういい、お前は十分に守った。ゆっくりと休むがいい」


 それが合図であったかのように、しばらく静止した後にリビングアーマーはバラバラの鎧の残骸へとなり果てた。


「オン キリキリバザラバジリホラ マンダマンダ ウンハッタ」


 後方で騒がしい連中に向けて俺は駆けだした。

 倒したために扉が自動で開いたようだ。奴らが気づいて弓を放ってくるが目の前で結界に弾かれていく。

 その様に驚愕し剣を構えた男の頭を、助走の乗った勢いそのまま右手で思い切り壁に叩きつけ頭を砕く。


 飛び散る脳漿と血に震えあがる残りの連中だが、ハマーはロナに短剣を向けお決まりのセリフを言ってくれたんだ。

「こ、こいつがどうなってもいいのか!」


 ロナが待ちに待った瞬間を察し、ハマーの右手に思い切り噛みついた。

「ぎゃあああ!!」

 そのままハマーの顔を殴りつけ、気を纏った拳と蹴りで恐怖に足首を掴まれている残りを叩きのめす。

 悲鳴絶叫が小部屋に響き渡る中、拾った短剣でロナのロープを切り落とした。


「レイジ!」

 色々な感情が混ざったロナの優しさと悔しさが感じられる叫びだった。

 狼狽する最後の一人が俺の背後を切りつけようとしたのを咄嗟に感じ取ったロナは、落ちていた剣で雑な殺意を向けてくる相手の左手首を斬り落とす。


 野盗モドキは壊滅し、呻きと悲鳴を上げるだけになっていた。

 学者崩れは倒れた野盗の下敷きになり頭を打って気絶している……


 その様子を見たロナは、よろけるように俺に抱きついてきた。

 細かく震えながら泣くのを堪えるロナ。


「がんばったなロナ。助けるのが遅れてごめん」

「レイジ……ありがとう。わたし……わたし……」

 言葉にならず必死に心を落ち着けようとしているロナの頭を撫でると、奴らの持ち物にあった予備のロープで生きている奴らを縛り上げた。


「レイジ……あっちで何か光ってるよ?」

「ロナは危ないから下がっていてくれ、さすがに確認する必要があると思う」


 ロナから受け取った小剣を腰に戻すと、俺は残骸になったリビングアーマーを一瞥してからあの巨大宝石があった場所へと近づいてく。

 戦闘不能状態まで追い込んではいたが、奴らとロナを一緒のままというのは心苦しかった。だが危険度はこちらが上と考えざるを得ない。


 巨大宝石の発光は明滅へと変わり、そして振動が広がっていく。

 周囲の壁に亀裂が入り、ガラガラと崩れていくので遺跡全体が崩落しかかっているかと思うとあの宝石の一部だけで起きている現象だった。


 もしかして第二守護者とかは勘弁だぞ。


 ひびが広がり、あの赤身を帯びた宝石がただの宝石ではなく、大きな結晶体であることが分かってきた。

 だが一体何だというのだ?


 胸の縁結びのお守りが熱く燃え盛るようだ。

 ロナが野盗モドキたちを引き摺って行く中、彼女にもあの輝きは見えていた。


 俺の右手が触れたとたん、あの巨大宝石? 結晶体? にひびが入り砂のようにさーっと大気に溶けていく。


 財宝の類ではないだろうという予想はあったが、何も予測できない事態の連続だ。

 やがてその結晶体の中から……白く輝く繭のようなものが現れる。


 恐る恐る触れてみると、何かが俺の頭に入り込んでくる!?

 思考を読まれているような感覚??


 なんだ!? 何が!?

 ふと思い出す、葵衣の笑顔と怒った顔。


 胸が小さいとからかった後にふるぼっこにされたことをなぜか思い出す。胸の奥にしまった名状しがたい感情が押し込められた小箱に誰かがそっと触れたような、そんな気がしたんだ。


 白い発光が収まると、そこには……


 一糸まとわぬ 輝くような美少女が膝を抱えながら丸まっている。


 光のように繊細で美しいプラチナブロンドの髪に透き通るほどに白い肌。

 見えそうで見えない、おっぱい。


 その思考を読まれたのかと焦るほどに、その子はパチリと目を開け俺の前にゆっくりと降り立った。

 そうです、はい。ちょうど髪がおっぱい隠してます。


 一瞬だが、青みがかったエメラルドグリーンの瞳に・・・奇妙な揺らぎが見えた気がした。


「生体認証確認。あなたをマスターとして認識しました」



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