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君と輪廻の結び方  無適正者と鬼姫の異界捜記  作者: 鈴片ひかり
第二章 濫觴
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11 ドキドキ?初依頼

 昨日購入した革鎧を霊糸の衣に吸収させ身に着けてみると、なんだかそれなりの冒険者になったような気分になってくるから不思議だ。

 女将さんも見違えたじゃないかと喜んでくれたが、地道にこつこつがんばるんだよと念を押される。


 ロナと冒険者ギルド前のベンチで待ち合わせすると、なんだか数人に囲まれ嫌そうな顔で追い払っているようだ。

 俺を見つけたロナはぱっと笑顔になって駆け寄ってきた。

「レイジ、おはよ! さっそく良さそうな依頼見つけておいたからパーティー登録しにいこうか」

「おはようロナ。手続きありがとな、あとでやり方教えて」


「そうだった。わたしが先にやっちゃったら覚えられないもんね、ごめ!」

「助かったよ。ありがとな」


 その時だった、背中に嫌な視線が突き刺さっているのを感じる。

 さきほどロナに纏わりついていた男たちが俺に明らかな嫉妬や嫌悪、憎悪の感情を露骨にぶつけていた。


 こういうのは気づかないふりをするに限る。

 ロナと俺が目指したのは、グルノアの街の第二城壁近くにある遺跡だった。


「遺跡ってのはね、放っておくと魔物が住み着くから定期的に退治しておかないといけないの。しかも小麦畑が近くにあるんでグルノア領主からの年単位契約依頼なんだって」

「なるほどな。んでどういう魔物がいるんだ?」

「小麦畑を荒らすモグラ型魔物のモゲモゲって初心者でも倒しやすい魔物がいるんだけど、そいつらがちょっと成長すると二足歩行のモゲランになるの」

「モゲ……ラン」


 ロナが手でこんな感じと必死に教えてくれるが、どうにも不思議な踊りに見えてしまうために吹き出しそうになるのを堪えるのに必死だった。

 時間にして2時間ほど離れたグルノアの外れに位置する遺跡は、古く朽ち果て柱や壁は傷み放題。

 日本の考古学者が見たら卒倒しそうな荒れ具合。


 ロナと二人で様子を探っていると、やはりモゲランがささっと柱に隠れているのが見える。

「やっぱりいるね、モゲランは倒した後に尻尾の棘を切り取って持ち帰るの」

「了解だ、では先輩どうぞ」


 ロナは自分で調整し金属版で補強したレザーアーマーだが胸の谷間が……えろい! かーーにばる!

 左手には小型のカイトシールド、右手にはお気に入りのブロードソードが握られている。


 冒険者の間では折れやすいロングソードより、幅が広く多少手荒に扱ってもいい丈夫なブロードソード推しらしいがロナに言わせれば腕のなさを棚上げして偉そうだと憤慨している。


 モゲランは手に木の棒を持ち、住処を荒らされたと威嚇し襲い掛かってくる。ちゃんと目は見えているようで予想以上に足が速い。


 ロナは焦らず相手の一撃を盾で受け流してから、着実にモゲランを斬り倒していた。

 こういう一見地味だが堅実な動作こそ、最も修練の影響が出るものだ。

 改めてロナが堅実な修業をしてきたことが分かる。


「レイジ、二匹そっちに行ったよ!」

 当然把握している。

 柱の陰から飛び出した二匹は、俺に向かって真正面から突進してくるが、通路は広くないため避けるスペースがあまりない。


 俺は遺跡の破片を拾うと、若干の気を込めて左側のモゲランに投げつける。

「モゲッ!!」

 本当にモゲって言うのか!!と少し感動してしまった。

 鼻づらに直撃を喰らい昏倒したモゲランは放置して、こん棒を振り上げ飛び掛かったほうの懐に飛び込むと抜き打ちに首を切り落とす。


 頭部を綺麗に切り飛ばされたモゲランは力なく転がり、昏倒している奴の脳幹部を切り裂いてとどめを刺す。


「ねえ、その小剣ってそんなに切れ味すごかったの?」

「まあままかな?」


 正直、そこまで切れ味は良いほうではない。

 ロナの店から買ったために多少下駄を履かせてごまかしておいた。


 俺は買っておいたボロ布で刃を丁寧に拭うと鞘に納め、短剣で尻尾の棘を切り取ろうとする。

「先輩、一応手本を見せてくれるとうれしいな」

「えっとうん、そうね」


 明らかに俺の剣技に動揺しているのが伝わったが、嫉妬や不信感ではなく動きの分析を彼女なりにしているということなのだろう。

「やっぱり、根本的に剣を扱う姿勢が違うのよね。わたしたちはぶっ叩いて多少斬れればOKみたいなとこあるけど、レイジの剣はまさに斬るのね」


「剣だからな」


「そう言い切れるのがすごいわ」


 こうして遺跡上層部でモゲランを10匹ほど狩ったところで、一度外周路に出てから休憩をすることにした。見晴らしも良いし警戒しやすい地形だ。

 ロナの堅実な性格が伝わり安堵できる。

 水筒の水を飲み干しながら、ロナはじーっと俺を見つめてくる。


「レイジって本当に強いね。底が見えない強さって初めてかもしれない」

「俺はロナの堅実で周囲への配慮が行き届いた行動こそ冒険者の鏡だと思ってかなり勉強させてもらってるんだぜ?」

「えええ!?で、でもうれしいかなぁ、あはははは」


 早めの昼食を取り、午後の狩りで遺跡上層部を一回りしたら帰還しようとロナが提案してきた。

「ロナの提案だからきっとちゃんとした理由があるとは思うんだけど、下層の探索とかモゲラン退治はいいの?」

「下層はだめ!」


 いつもは穏やかな彼女の声がこわばっている。

「えっと、ごめん。あそこは上層は安全なんだけど下層には立ち入り禁止区域があってね、前にSランク冒険者が戻ってこなかったらしいの」

「Sランク冒険者が……」

「うん、ギルドとしても調査隊を何度か送ったんだけどある部屋に入ったとたん激しい戦闘音が聞こえてから、誰一人戻らなかったって」


「得体のしれない何かが封印でもされてるのかね」

「学者がたくさん調査に来たみたいだけど、古代の悪魔だって人もいれば大がかりな罠だろうという人もいてもうバラバラ」


「安心してくれ。俺は目的のためならリスクは背負うが、どうでもいいことに首を突っ込んで命を無駄にするような真似はしない」


 遺跡上層部にいたモゲランもトータル15匹を倒したところでついに品切れといった様子になってきた。

 なんだか気の毒な気にもなってきたが、こちらとしても仕事なんでね。


 尻尾の棘をまとめた袋を俺のリュックへとしまい込むと、ロナが自分のブロードソードの刃を見ながら奇妙な唸りを上げていた。

「レイジみたいにうまく切れないかと思ってがんばってみたけど、ほら刃こぼれしちゃってるの。ねえ、そっちの小剣見せて」

「いいぜ」


 鞘ごと渡す、という行為は相手を信用しているからこそできることであり、俺は鞘ごとロナへと手渡した。

 すらりと抜いて刃の状態を見てみたロナは、唖然として俺を渋い目でじっとり見つめてくる。


「なんで刃こぼれ一つないのよ。あんなにざっくり斬ってるのに?」

「そうだな、腕の差だな」

「むきー! 絶対に反論できないから悔しい! むぅ後で剣の修行に付き合ってもらうからね!」


 こういう前向きで元気な子とのやりとりは楽しい。つい、俺のおかれた状況を忘れてしまいそうになる。

 軽くからかいながらロナと楽しく冒険を終えようとしていた矢先。


 俺の心にわずかな隙が出来ていた。

 それは偶然だったのか、それとも周到に準備していたからなのか。


 小剣を色んな角度で眺め、あれこれ呟いていたロナを楽しく眺めていた時だった。

 彼女の周囲に眩い何かが浮かんだと同時にその光がロープとなってロナを縛り上げてしまう。放り出された小剣が遺跡に響くような高い音を立てて転がった。


 咄嗟に反応した俺に向けて矢が数本と投げナイフのようなものが投擲される。

 腕で払いのけながら、後方へ飛び下がったときにもう遅かった。


 ロープで縛られたロナの首元に短剣が付きつけられており、俺に向けても矢を構えた冒険者風の男が二人と背後から剣を突き付けた男が数名。


「やっぱりハマー! あんたらだったのね!!」

 舌なめずりをしながら現れたのは、そうだ・・・・冒険者ギルド前でロナに付きまとっていたガラの悪そうな連中だ。


「連れないねえロナ、あれだけ俺たちのパーティーに来いって誘ってやったのによぉ、こんなクソガキと乳繰り合いそうな雰囲気だったじゃねえか」

 そいつの所業は顔つきに出る。とは良く言ったもので、容姿の良し悪しではなく護岸にこびりついたフジツボのような醜悪な歪みが口元や表情に現れている。


 縛られながらもロナは負けていなかった。

「はぁ?あんたらはわたしよりずーーーっと弱いじゃないのよ!!レイジはものすごく強いんだから」


「リーダーよぉもう我慢できねえからここで犯しちまおうぜ!」

「おい!契約はどうなってる! そんな小娘相手する前にちゃんと約束を果たしてもらうぞ」


 奥の部屋から現れたのは仕立ての良いローブを纏い禿げ頭の上に奇妙な帽子をかぶった50代前半ほどの太った男だった。

「お前ら、依頼主からのオーダーだ。早く目的地に行くぞ、ロナの奴からは目を離すんじゃねえ! そしてそこのクソガキ、分かってるだろうが妙な真似をしたらロナの顔をずたずたに引き裂くから覚えておけ」


 やりかねない。

 こいつらならやりかねない。本能がそう警告している。湧き上がる怒りを押さえつけ、どう救出するかを考えていると……


「お前にも大事な用があんだよ、ついてこい! だが逃げ出してもロナがどうなるか想像はつくよな?」

 5人のはぐれ者と学者風の男。


 ロナを完全に拘束されてしまっているため、手の出しようがない。


「レイジ! 私はいいから早く逃げて!!」「うるせえ!」パンっと乾いた音が遺跡の下り階段にこだまする。

野郎! ロナに手を出しやがったな……

「いいかロナ、勘違いすんなよ? 俺たちはいつでもてめえらを殺せるんだぜ?分かってるよな、なぜ遺跡下層に来てるかよ」


 遺跡の下層ってまさか!?


「あんたら本当にバカじゃないの!? あそこに関わって生きて帰れるわけないじゃない!」

「ああ、普通にトライしたらそうなるだろうが、そこの学者先生がよ、いいプランを持ってきてくれてなぁ」


 ぎゃはははは!!


 もはや野盗と変わらないなこいつらは。

 少しでも遅れるとすぐさま剣で突っつかれ、既に首元には血が滲むような切り傷が数か所できていた。


 ロナが冒険者ギルドに訴える! お前たちは終わりだ! と怒鳴るが奴らはからかいロナの尻を触り神経を逆なでさせていく。

 一方学者らしき男は手にしたメモ帳をめくりながら下層の廊下をきょろきょろと眺めていた。


 下層は上層とは違い、雰囲気がぴりぴりしているように感じた。

 

「あんたたち頭にウジ虫でもわいてるの!? ギルドが作った封印まで破って!」

「うるせえんだよ、これから俺たちは大金持ちになるんだからな」


 ロナの背中を蹴り飛ばし、悪態をついている。

あの野郎! ロナの痛み、数百倍にして返してやるからな。

 最後の階段を降りると彼らが破っておいた封印らしき鎖の残骸が転がり、その奥にある壁には奇妙な壁画が描かれている。


 大勢の人間が奇妙な物体を祭り上げている?


 奴らの視線が学者先生に集まると、のそのそ壁画前で壁を触り始めている。

 ロナは何が起こるか恐怖で震えながらも、『ニゲテ』と口パクで俺に伝えてくるのだ。


 なんて女だ。自分がどんなめに遭うか、分かっているのにこの状況で俺を救おうとしてるロナの姿が気高き王女のように思えてきた。


 カチリ……その音は俺たちの運命を大きく揺さぶるものになるのだろう。

 野盗モドキたちは歓声を上げているが、学者に静かにしろと窘められふてくされる始末だ。


「ここからは未知の領域と言っても良い。くれぐれも周囲の壁をうかつに触るな! そして流血も厳禁じゃ、東にあるダンジョンでは血に反応する罠もあるようだからな」

 血に反応するという言葉が、野党モドキたちの顔色を変える。


 ここは死に直結する場所だということが、冒険者くずれでもようやく認識できたということだ。


「いくぞ」

 ハマーが顎で指示するとロナは引き摺られるように連れていかれ、俺には何度も剣が突き立てられる。


 正直まったく助ける隙が見られない。

 あるとすれば、この奥にあるナニカが姿を現した時なのだろう。


 200m以上の廊下をゆっくり下りながら辿り着いたのは大部屋の前にある小部屋とも言える場所だ。

 ここに以前来た連中が置いていった食料などが腐り干からびたまま放置されている。


 学者の指示で落ちている物に手をつけるなと厳命されていたため、さすがに荷物をあさるバカはいないらしい。


「よし、これだ……こうすれば必ず」


「学者先生よぉ、早いこと頼むぜ。ダニーの奴は前からこの小娘を犯してえって口癖だったから限界だってよ」

「兄貴、早く頼むぜ!」


「きもい! 近寄らないで!!」


「静かにしろと言っているのが分からないのか! ここの重要性が分からぬ愚か者共め、もし目当ての物が手に入れば見目麗しい奴隷をしこたま買い集めて肉欲におぼれた生活も思いのままなのだぞ!?」

「そいつはぁ本当ですかい?」

「その小さな脳みそで理解できたなら、おとなしくそいつらを見張っておれ!」


 学者は噴き出る冷や汗を拭いながら、正面扉を調べ始める。石造りの重厚な扉としか思えないが年月が経っているため劣化も激しいように思える。


「ここだ、ここに!」

 学者が肩掛けカバンから取り出した小さな水晶玉のようなものを扉の窪みに無理やり押し込めると、小部屋の入口近くに隠れハマーたちにも下がるように伝える。

「ナルバ!」

 短い詠唱のような、キーワードのような言葉に反応し扉に設置した水晶玉がパンッと乾いた音を発し爆発した。


 軽く巻き起こる土煙。

 学者は慎重に皆へ暴れないよう指示をしながら扉に近づく。


「おお、やはりうまくいった! これで内側からも扉を開けられるぞ!」


「学者先生よ、早く説明してくれ」


 ドヤ顔というより、邪悪なカエルのような顔で俺たちに視線を向ける学者崩れはこう言い放った。

「クソガキ、お前にはこの部屋に入り奥で封印された巨大な宝石を持ち帰ってもらう。もし持ち帰れたら慈悲としてその女共々生かして返そう」

 ハマーが何か言いかけたが、学者が制す。


 剣で背中を突かれ前へ押し出された俺に学者は奴隷でも扱うような冷酷さで言い放つのだ。


「よいか? 恐らく部屋に踏み入れた時点で中の何かが、罠かもしれぬし魔物かもしれぬ脅威が発動するだろう。だが気にすることはない、素早く取って素早く戻ればいいのだ」


 ひたすらに無言だった俺が睨みつけると学者はびくっと後ずさる。

 そしてハマーが俺を容赦なく殴りつけるのだった。


「分かってんかクソガキ!? お前がやらなきゃロナを中に放り込んだっていいんだぜ?」

「俺がやろう」


 蹴り飛ばされながら立ち上がる俺を見ると、学者がハマーに文句を言っている。

「これから走り抜けるクソガキを殴ってどうする! だからバカは嫌いなのだ!」


「ちっうるせえなこいつ、早くやっちまってくれよ」


 ロナは小部屋の柱にロープで結び付けられ身動きが取れなくなってしまっていた。

 丁度部屋の中央にあった二つの柱の一つだ。


「レイジ! 今なら間に合うから逃げて!」

「大丈夫だ、俺に任せておけ」


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