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君と輪廻の結び方  無適正者と鬼姫の異界捜記  作者: 鈴片ひかり
第二章 濫觴
11/49

10 アシナ武具店

「はい???」

「えっと、その猫の腰掛っていう宿屋の女将さんからアシナの爺様がやってる店で武器を見繕ってもらえって紹介してもらったんだよ」


 きょどっているのは決しておっぱいのせいではない。

 決して、この娘の肉感的な魅力に気圧されてしまい……葵衣のAカップとは違い明らかにE以上! の至宝に目が離せないわけではない。


「へぇ、その視線が気になるけど女将さんの紹介ならまあ許してあげる」

 なんだと!? 視線はさりげなく不自然さをださないよう、細心の注意を払っていたのに……こいつでかいな……

 いやできるな!


「あのアシナのお爺さんって人は不在だったのか?」

「爺さん……そうかあんたも女将さんも知らなかったんだね」

「まさか」


 巨乳娘は店内を見回しながら視線を落とすと悲し気な瞳で俺を見つめてきた。


「5枚だってさ」

「ん?」


「厚切りステーキ朝から5枚食ったら腹痛くなったって寝込んでるよ」

「生きてんのかよ!それに食いすぎだ!」


「あははは!わたしはアシナの爺の孫娘でロナよ、んで武器探してんの?」


 ロナか、気さくで話やすい子だ。

 葵衣は意外に人見知りをするが、ロナは漂う雰囲気に拒絶的な要素がなくいわゆる非モテにも優しく接してくれる懐とおっぱいのでかい女性のようだ。


「変なことを聞くようだが、カタナ って武器は置いてないか?」

「かたな? なにそれ?」


 やはり当然の反応だろう。

「ニホントウ、ウチガタナ、タチ、ダンビラ、なんて名前も聞いたことないよな?」


「う~ん、わたしはないけど爺様が起きてきたら聞いてみるよ。でもどういう剣なの? ねえねえ気になる!」


 こ、好奇心と一緒に押し付けられる、お、おっぱいが腕に・・・・


「こ、こうさ、片刃で反りがあるのもあれば、ないのもある。刀身、身幅、なんかはこういう感じで」

 と、差し出してくれた藁紙にささっと描いて見せる。


 まあね、中二病を経験した連中なら当然身についているであろう、刀のスケッチは意外と難しいが練習してしまう病を克服しているのでぬかりはない。


「ん~?意外と細いのね、柄は両手で握るタイプか、わたしが知る範囲じゃさすがにないわね」

「いやすまなかった、じゃあ小剣サイズで片刃のものがあれば見せてもらえないかな」


「片刃かぁ、あんたは珍しい黒髪をしてるぐらいだから知らないかもしれないけど、片刃の剣ってね、リシュメア王国や隣国のヴァルジェリス帝国周辺では弱虫が使うって価値観が定着しちゃっててね」


「弱虫が使う? 実用性のある武器に弱虫も勇敢もないだろうに」


「へぇ良いこと言うじゃない。とりあえず爺様が地下に隠してる武器庫にはここ以上の在庫が眠ってるからね、昼になったらまた腹減って起きてくるだろうから少し待ってなよ」


 ロナはがさつそうに見えて気の利く娘だった。お茶とお気に入りのお菓子を持ってニコニコ顔で会話を振ってくる。

 胸の縁結びが今までにないくらい熱くなってるのはきっとこの子が良い子だからだろうか?。


「行方不明の幼馴染を探すため……ギルドに情報収集依頼をってまじでそんな奴いたんだ」


 聞き上手で話上手のロナには、俺の境遇をごまかしつつも修行を一緒にした中ということで剣の腕に興味を持ったようだ。


「ねえうちの裏手にちょっとした広場があって、武器の試し切りとかに使ってるんだけどあんたの腕、見せてくれない?」


 カウンターの奥から木剣を取り出したロナは、軽く揉んでやるわよといった顔で裏口から広場というより中庭へと誘っている。


「意図していることは分かったが、両手持ちでこの鍔がない棒きれみたいなのでいいぞ」

「あんた変わってるね、えっとたしか作りかけの奴がたしか……こんなのでいい?」


 ほう、ちょうど先端が丸い木刀のような形と太さのものがある。

 下手な剣よりこっちのが使い心地良さそうだな。特に意味はないが洞爺湖と彫ってみたくなる。


 ロナは俺が木刀の握りを確認している様を見ながら、自分の得意とする木製の盾と片手剣を想定した木剣を取り出した。


「わたしはこういうスタイルなんだけど、あんたって名前なんだっけ?」

「レイジだ」

「レイジ、レイジね、両手持ちのスタイルでいいの?」


 中庭の中央、広さは剣道の試合で使うサークルより一回り大きいレベル。石ころやでこぼこも少なく動きやすそうな地形。


「構わないぞ、ではよろしくお願いします」

 俺が一礼したのに対し、ひょこっと頭を下げるロナがかわいい。


 左手に持っていた木刀を晴眼に構える俺のスタイルに、ロナが明らかに動揺を見せている。

 盾を構え、木剣でいつでも斬りかかれる状態であるから彼女の実力を甘く見ることはできない。


 すっと一歩、滑るように距離を詰めるとびくっと反応し盾が前に突き出る。

 と、なればやはりこの手は有効かもしれん。


 鶺鴒の尾の構え。


 鶺鴒の尾がピクピク動く様を評して名付けられたもので、斬撃の機会を試みる北辰一刀流の剣技の一つである。


 ピクピクっと剣先が揺れた瞬間、ロナの突きが鋭く俺の胸元に繰り出された。

 だがその一瞬の挙動でそれがフェイントであったことを悟ったロナがしまったという表情を浮かべた瞬間、横にするりと足さばきで移動した俺の一撃で剣を切り落とされる。


「ぐっ!」

 剣がへし折られたと飛び下がった彼女の動きに合わせて飛び込んだ俺の木刀が、ロナの首に押し当てられていた。

「ま、まいった!」


 すっと離れた後、ロナが盾を外したところまでを確認し俺は木刀を収め一礼する。


「うそ……へし折られたと思ったのに、斬られてるの!? え? 木剣でしょ? 何の魔法効果もかかってないんだよ!?」


 ロナの実力は想定した以上だと思う。

 あの初見で鶺鴒の尾をフェイントだと気付けるのは相当なセンスと観察眼を必要とするだろう。


「それに何なのこの切断面! 切れ味の良い剣だってここまで見事に切れないわよ!」


 つい、気を込めてしまったことが原因だったろうが久しぶりに木刀を触れてうれしかったんだよ。


「偶然だろ?」

「ん~、何か怪しい~」


「ロナ、お前の負けじゃ完敗じゃよ」

 奥からのそっと現れたのはひょろひょろ爺さんで禿げた頭に白い顎髭。杖をついてはいるが目の奥に秘めた光が俺をじっと捉えて離さない。


「さきほどの剣技、見せてもらったぞい。初めて見る動きだがお主の冒険者ランクとレベルはいくつじゃ?」


「あなたがアシナさんですか?」うんむと頷くので仕方なくあのギルド証を見せることにする。

 ・・・・・

「無適正でレベルが4? ありえないってば!」

「ロナが驚くのも無理はなかろう。これでも孫娘は乳尻だけでなくレベルもそこそこ高いのだぞ? 20だったか?」

「21よ! なんでレベル4の人に私が負けるの? いえ、100回やっても負けるわね、手も足も出ずに。悔しいけどそれぐらいの実力差に感じたわ」


 爺さんがロナを宥めつつとりあえず俺が探している刀について話を聞いてみることにする。


「知らんのうそのような剣など、見たこともないわ」

「やっぱりそうか、いやいいんだ手間かけさせて悪かったな」


「これ待たんかい、わしがわからんかったらこの街で知ってる奴はいないと言ってもいいぞ」

 立ち止まった俺に爺さんが放った言葉はもっともだと思う。


 これほどの生き字引が見たことも聞いたこともないというのはやはり考慮すべき事項だろう。


「たしかに、じゃあ片刃の剣を探してるんだけど、手ごろなのないかな」

「片刃のう……ロナよ、武器庫の三番目の棚に布でくるんであるのがあるから持ってきてくれんか」

「いいよ~」


 フットワークが軽いロナはすたこらと走り去っていく。

 ガチャガチャとあれこれロナが文句をぶーたれている声が聞こえてくるが、爺さんは俺の剣の腕にかなり興味を持ったようだ。


「強いと言われる剣の流派や技は無数にあるが、お主の剣技はちと常軌を逸しておるな。あれほど精巧無比で豪快な剣を見たことがない」

「褒められてうれしいが、俺の剣は刀という武器があって本領を発揮できるからな」


 アシナに促され中庭の椅子に腰を下ろすと、俺の事情をあれこれと聞いている。

 詮索されるとボロが出るからほどほどにしておきたいんだけどな。


「もうちゃんと整理整頓しとけって言ってるじゃない! 放っておくといらないゴミを拾ってきてさ!ゴミ屋敷になっちゃうよ!」

「何を言うかこのおっぱい娘が! わしのゴミをガラクタと一生にするでないぞ!」

「ゴミって認めてんじゃん! っておっぱい娘じゃねえわエロ爺!」


 仲が良いな。俺の祖父は父方も母方も孫に対して興味がなく実家に連れられていっても妹と一緒にこの部屋から出るなと怒鳴りつけられていたのでこういう爺さんには好感が持ててしまう。


「レイジ、こんなのしかないけど」

 ロナが差し出してくれた布にくるまれた剣をテーブルにそっと置くと、ゆっくり布を解いていく。


「あちゃ、これって女性用に作った護身用の小剣じゃない?だから片刃なのね?」

 ロナは残念がっているが、握りは拳二つ分 ―― 反りはないが片刃で重心も悪くない。刃渡りは目測60cmほど、大脇差に相当する長さだが西洋式ロングソードよりも相性は段違いに良さそうだ。


 俺が軽く素振りをすると、それだけでロナはおお!と声をあげる。

「うむぅこれは見事だわ」

「でしょ?レイジが持つだけで剣が喜んでるのが分かるもん!」


「こいつを売ってくれないかってあまり金がないから安くしてもらえるとうれしいんだけど」

「仕入れ値はたしか、うむそうじゃ貴族崩れのお嬢さんが売りにだしていった品で、ええいめんどくさい2000レーネでええわい」


「2000レーネ(2万円か、なんとかなる金額だ!)分かったそれで頼む」

 アシナはベテランらしく柄や鞘の具合、留め金などを確認し不具合がないことを一通りチェックするまで待てというので、ロナと軽く剣を合わせながら待つことにする。


「いたぁ~また負けた~! 正面から打ち合ったらと思ったけど、無理勝ち目なし」

 立ち上がったヒップラインもまためっちゃプロポーションいいな。


「ロナは盾を持つスタイルを極めたいのか?」

「なんとなく昔から使ってるってだけなのよ、でもその剣なら片手で持てるから盾持ったら最強じゃない?」


「それがそうでもないし、盾を持たない戦い方もあるんだよ」


「冒険者たちは死にたくない気持ちが優先するから、つい盾持ちが増えちゃうみたいなんだ」

「気持ちは分からなくないよ」

「ねえ、明日暇?よかったら一緒に依頼やってみない?」

「俺さ、実は依頼受けたことなくって初めてでもよければ一緒に行ってくれるとうれしい」

「やった!!」


 ぴょんっと喜びの仕草を見せる彼女の笑顔が波立っていた心を落ち着かせてくれる。まあ女の子からお誘いを受けるというのは、うれしいものです・・・・


「ほい、できたぞい」


 両手で小剣を受け取ると、静かに小剣を抜きその具合を確かめる。

 刀や脇差には及ばないが、かなり立派な剣であることは言うまでもない。


 その後、明日の準備のために冒険者必需品セットやロナのおすすめの防具店で動きやすい落ち着いた色合いの革鎧を仕入れて身に着けておいた。

 リュックタイプのカバンを手に入れたことと、やはり腰に剣があるというのは落ち着くものだ。





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