最終話 こんな僕の生きる理由
心臓がとまるかと思った。
その声はもう聞きたくなかった。
思い出してしまうから。
あの日、人を殺したことを。
学校での視線を
拒絶を
「諏訪……?」
「あれから引っ越したって聞いて寂しかったよ」
その目はあの時と同じだった。
学校の、それも教室のど真ん中で、僕が人殺しであることを言ったあの時と同じだった。
背中を嫌な汗が流れていくのを感じた。
「四季くん、この人は?」
「えっ、お前彼女とかいんの?」
「いや、音海は彼女なんかじゃない。友達だ」
ダメだ。やめてくれ。
「あっそ。けどびっくりしたわ。お前に友達ができるなんて」
「四季くんにも友達くらいできます!」
「……もしかして知らないのか?」
「やめてくれ」
「まあ、隠すよな。あんなことがあったなんて知られたらまずいもんな」
「お願いだ」
「けど、それって本当の友達って言えるのかなあ?」
ダメだ。それじゃ意味がない。ここまで来た意味がない。
ここまで逃げてきた意味がない。
隠してきたんだ。気づかれないようにしてきたんだ。
「四季くん?」
「音海さんだっけ? こいつはさ、」
やめてくれ。お願いだ。
声は出なかった。
嫌だ。もうあんな気持ちは嫌なんだ。
「人殺しなんだよ」
「人、殺し?」
「人殺しだなんて、冗談でも酷すぎるよ!」
「冗談なんて言ってないって、なあ四季?」
答えられない。
否定なんてできないから。
事実だから。
それはまぎれもない事実で
変えられない過去だから。
「四季くん?」
音海がこっちを向いたのがわかった。けどそれを見ることができない。
声音からは期待を感じた。否定して欲しい。そんな期待が。
けど僕には出来ないんだ。
何かが胸の中で暴れだした。
怖い。
恐い。
また拒絶される。
また否定される。
これまでの日々が黒く塗りつぶされていく。
そう思うといつの間にか逃げていた。
あの場からも、視線からも、拒絶も何もかもから逃げ出した。
逃げて逃げ切れるようなものなんかじゃないってわかってるはずなのに、それでも逃げずにはいられなかった。
なんだ、あの時から何も変わってないじゃないか。
音海を助けれてたと思い込んで、こんな自分でも人の役にたてると考えてあの日からずっと目をそらしている。
誰かの力になれたのだからきっと自分はいても良いのだと言い聞かせていた。
誰かと話して、誰かにいてもらおうと頑張って、自分の存在理由を他人任せにして
誰だっただろうか、人の評価を他人に任せるなと言ったのは。
言った本人が自分の評価を自分で持てないなんてなんともまあよくあんな事を言えたものだ。
自分のことなんか棚にあげて人のことばっかり言って
救いようのない人間だった。
「四季くん!」
その声は車のクラクションにかきけされた。
鈍い音の後、何かが落ちる音がした。
「何で、だよ……」
何でこんなことになるんだよ……
悲鳴が聞こえた。
叫び声が聞こえた。
救急車のサイレンが聞こえると目の前で止まり動かなくなった音海を担架にのせてどこかへ連れていった。
僕はそれを眺めることしかできなかった。
○●○
どうやって来たのかは思い出せない。
でも、使命感というか、そういう何かが自分を動かしていた。
そういう何かでしか自分を動かせなかった。
なんとか着いた病院では手術室と思われる部屋の前には女性が一人座っていた。音海の母親……だと思う。
「四季さん。ですか?」
「はい」
それしか答えられない。
何も考えられない。なんで名前を知っているかも聞く気力が無い。
顔を見れず目をそらす。
音海の母親もそれ以上は何も言ってこず、手術が終わるのをずっと待っていた。
言わなければと、音海の母親に事故について話したが何も言ってこなかった。何も言わないでくれた。
その優しさが痛かった。
何時間経っただろうか手術室の扉が開き医者だと思われる人が出てきた。
「手術は無事成功です。命に別状はありません。しばらく入院してもらって様子を見ることになると思います」
駆け寄ると、マスクをとり笑顔を見せて優しい声音でそう言った。
その言葉に力が抜けて立っていられず座ってしまう。
それからはあまり覚えていない。
いつの間にか自分の家にいてベッドから起き上がるとデジタル時計を見る。
全て夢だったのではないかと淡い期待を持つも、デジタル時計は当たり前に今日を事故の日の次の日を示していた。
体の節々が痛くて、何もしたくない。
掛け布団をかぶり、二度寝に入ろうとするも目は完全に覚めており中々眠気は来ない。
観念してベッドから出ると外行き用の服に着替え外に出る。
近くのスーパーへ行くと果物コーナーからりんごやら何やら適当に入れるとレジに持っていく。
こんな平日に外に出ている高校生くらいの男性に遠慮なく不躾な目線を送る店員からレジ袋を受けとると病院へ行く。
病院はあまり混んでおらず、受付に行き音海について聞くと病室の部屋番号を教えてもらえた。
部屋につきドアの前で立ち止まった。
深呼吸をし、思ったより重いドアをスライドさせ部屋に入る。
部屋はドア側と窓側を仕切るカーテンが閉められており、ここからだと様子がわからない。
「音海……」
とりあえず名前を呼ぶも返事はない。
一言断っておいてカーテンを開けるとベッドの上には眠っている音海がいた。
あどけなく可愛らしい寝顔を見ると胸が締め付けられていくのを感じた。
この空間に耐えきれず果物を近くのテーブルに置き、帰ろうとするとテーブルの端にメモ帳とボールペンを見つけた。
メモを残すと病室を出た。
○●○
「四季さん」
そのまま帰る気も出ず屋上に行こうと歩いていると呼びかけられ振り向くと音海の母親がいた。
「お見舞い来てくれたんですか?」
「はい。来るべきでしたし」
「あまり気に病まないでくださいね」
その言葉には何も答えられず目をそらすと音海母はそれ以上何か言う事はなく音海の病室に向かった。
それから階段をひたすら上り、屋上につくと事故防止のための金網にもたれかかる。
空は晴れ晴れとしており見上げると少し目が痛かった。
あの日、初めて教室で声をかけられたことを思い出す。
『人は何で生きるんだろう』
その問に『音海は幸せになるために』って答えたんだっけ。
だったらさ、
「幸せになるための手段が生きることなら、死んで幸せになれるのなら自殺するのも間違いじゃないんだろうな」
「四季くん!」
急な声に驚くと同時に胸に何かが飛び込んできた。
「待ってよ! 幸せになるために自殺するなんて間違ってる! そんなの幸せのためなんかじゃない。死ぬのは幸せなんかじゃない! 不幸から逃げてるだけだよ」
泣きそうな顔をして必死に服を引っ張られた。
「不幸から逃げるのは悪いことじゃないし、きっと誰もがやってる事だよ。だけど死ぬのはダメだよ! 不幸から逃げるのは幸せになるためなんだよ。それなのに不幸から逃げて終わりだなんて……そんなの…………そんなの間違ってるよ!」
胸に顔を埋めて体温が伝わってくるのを感じた。
「そんなの今までの人生に意味が無い! これまで色んな事を堪えてきたのにそれが最後じゃ何も報われてない! 誰も幸せじゃない! 私も湊くんも皆幸せじゃないよ! 嫌だよ……私は幸せになりたい。湊くんにも幸せになって欲しい」
温かかった。温かくて優しかった。
胸を中心に何かが体中に広がって包んでくれるような感覚だった。
「音海……」
「絶対離さないから」
「いや、ちょっと話を聞いてくれ」
いつの間にか涙がこぼれてぐちゃぐちゃになった顔をあげ、少し怒って、悲しんで、色んな感情が混ざった顔を向けられた。
「……別に飛び降りとかそんなの考えてた訳じゃなくて……大丈夫だから」
「……え? け、けどメモにあったごめんって……」
「あれは、今日会えなかったらの保険で……」
きょとんとした顔でこっちを見上げる顔に何かが込み上げてくるような気がした。
「屋上に来たのも音海が寝てたから時間置いてから謝りに行こうと……」
「えっ、あ、ごめん私勘違いして……」
顔を染めて離れようとする音海を止めて抱きしめた。
「し、四季くん!?」
「ごめん、昨日は本当にごめん……っ、無事でよかった……」
込み上げてくるものは抑えることもできず、目からあふれでた。
止める方法なんてわからず流れていく涙は頬をつたい落ちていく。
「大丈夫。大丈夫だよ四季くん」
手が背中に回されるのを感じた。
感情の奔流は体の中で暴れまわり、それがおさまるまでずっと泣いていた。
○●○
しばらくすると涙もおさまり、二人そろって金網を背もたれにして何をするでもなく強いて言うならぼーっとしていた。
「くしゅん」
可愛らしいくしゃみの音に少し恥ずかしそうに目を伏せる音海を見て少し笑ってしまう。
「あっ、今笑った」
「笑ってない笑ってない。寒いし中に入るか」
「ううん、大丈夫」
そう言うと音海は膝の上に座ると僕の上着をはおり、上着を二人で着ているような状態になる。
「こうすれば暖かいから」
自慢気にこっちを見ると、思った以上に顔が近かったのか恥ずかしそうに顔の向きを戻した。
自分の頬も熱くなるのを感じた。
それからまた二人とも黙ってしまう。
けれど、それほど気まずい雰囲気ではなく、心地よい時間だった。
「音海のそばにいてもいいかな」
自然に出てきた言葉に音海はこっちを向いた。
「私も四季くんと一緒にいたい。一緒がいい」
「……そっか」
「そうだよ」
顔を上着に埋めながら言うそんな姿が可愛かった。
可愛すぎるそんな一場面に我慢できず右手で頭を撫でた。
そんな態度を不服に思ったのか、仕返しとばかりに音海は言った。
「人は何で生きるんだろう」
多分、僕が初めて音海に話しかけられたきっかけの言葉をあの時と同じように言ったんだろう。
あの時は無意識に出た言葉だったので似ているかはわからないがにやにやしながらこっちを見てくるあたり似ている自信はあるのかもしれない。
人が生きる理由か……。
僕は何故生きているのか。
人が生きるのは
今がどれだけ辛くても、何をしても誰に認められなくてもそれでもそんな世界で生きる理由は、
誰かに必要とされる夢を追いかけているから
あと、一人は寂しいから。
世界中の人に嫌われてもそれでもほんの少しの人に必要とされて
自分もその人達を必要として
楽しい時も悲しい時も嬉しい時も寂しい時も死にたいと思った時も色んなものをわけあって
押し付けあって
結局は楽しかったと懐かしめる日常が欲しくて
諦めることなんてもったいなくて
だから人は生きられる。
それが僕の生きる理由。
「また明日と言える人が欲しいから。そんな人がいてくれるから」
満足できる答えだったのかこっちを見る音海は笑顔だった。
「月が綺麗だな」
「月なんて見えないよ?」
不思議そうにこちらを見る音海に少し苦笑する。
やっぱり通じないか。まあ、通じなくてよかった。こういうのははっきり言いたいから。
「音海、好きだ」
音海は驚いたような顔から一気に顔を赤く染めると急いで顔の向きを戻した。
「私も……大好きだよ」
耳まで真っ赤にしながら、そう言う姿がもっと心を引っ張って離さない。
あの日から何もかもが輝いているように見えて、いつまでもこの時間が続いて欲しい。
でも、せっかく二人でいられるならもっと色んな所に行って、色んなことをしていたい。
「怖かったんだ」
ぽろりと口からこぼれでた言葉は止まらない。
「音海に拒絶されるのが、音海に嫌われるのが、音海に人殺しだってバレて避けられるのが怖かった」
「嫌いになんてならないよ。だって私は……」
音海は顔の向きをこちらに向けた。
その瞬間、柔らかいものに触れた気がして、それが唇だとわかれば顔が熱くなっていくのがわかった。
音海も恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして顔の向きを元に戻す。
「私は四季くんが好きだから……」
ああ、本当に可愛い。
可愛くて可愛くて、涙が出そうだった。
世界は歪み、頬を何かがつたっていく。
僕は人殺しだ。
その事実は絶対に変わらない。
変えることなんて不可能だ。
これはまぎれもない事実で
変えられない過去で
それでも受け止めなきゃいけない真実だから。
でもそれを知っても好きになってくれた人がいるのだから背負っていける。
見上げれば青い空が広がっていた。
手を伸ばしてもその空には届かない。
伸ばした手に少し小さな手が重なった。
届かなくたっていい。そもそもそんな目標は実現不可能で、あるだけで重すぎて、押し潰されてしまう。
この手に届けばそれでいい。
恥ずかしくて言わなかったが、それも僕の生きる理由なのだろう。
その手は温かくて、そのぬくもりが体全体を包み込んでいき、優しい感覚に守られているような、そんな感じがした。
『こんな僕でも生きていていいですか?』完結です!
読んでくださった方々、本当にありがとうございました!
あれですね、こういうのって最初の方に比べると最後の方は文章力とかあがってきて前のと比べるとめちゃ良くなってる! っていうのが普通な気がするんですが……。個人的な意見を言わせてもらえればぶっちゃけ一番最初の文章力の方が良かったような……。それに読み返せばキャラもブレッブレで何これ同じ作品? だとか、この話面白いかな? 個人的にはいい気がするんだけど。とか、何で一人称を僕にしたんだ!とか、そんな事を考えてしまいます。
というか書き直したい。隙見てこっそり書き直して別のサイトにでも投稿を──。まあ、そこのところは後々考えるとして
初めての完結作品で、何を言えばいいのかわかりませんが、この作品に対する自分の意見を一つ。いや、意見と言うよりは思いかな?
この作品では結局のところあんまり変わってないんです。
音海はまだいじめられる可能性なんていくらでもあるし、四季は音海以外にはきっと人間恐怖症の症状が出るでしょう。
幸せの定義や生きる理由だって生きていくうちに変わっていく。
それでもほんの少しの変化で見える景色は変わりました。
人間、急激な変化なんてできないものです。
前回赤点ギリギリ少年が学年トップを取ったり、日頃家庭学習0時間が明日から一日12時間勉強するなんてできるはずもない(後者は経験談)
あーー、何が言いたいのかちょっとまとまらない感じになってきたのでおもいっきり軌道修正します。不自然ですみません。
結論、急激に変わることなんてできないんだから生きていくうちに変わりつつある自分の幸せのために日々ほんの少しずつ変わっていく事できっと見える世界も変わってくれる。
少なくとも彼らはそうやって生きていってくれると思ってるんです。
どうしよう、ちょっと続編というか、短編みたいなの書きたくなってきたな……
まあ、そこのところも後々考えるとして
さっきの意見なんかも勝手な自分の考えなので不快に思ったのなら無視していただいて大丈夫です。物語の受け取り方は読者の特権だと思うので。
そんな訳で自分の意見なんてもういいや!(なげやり)
という事で!そこっ!どういう事で?とか聞かない!
とにかく、ここまで読んでくださった方々、改めてありがとうございました!
多分今年は何もできないだろうし、もしかしたら書くのはもう終わっちゃうかもしれませんが、いつかもう一度書けたらな。次は全く違うジャンルを書いてみたいな。なんて考えつつ後書きを終わらせていただきます。
読者の皆様、これを最後まで書けたのはあなた方がいてくれたおかげです。ブックマークが一個つく度に喜んで、一個減る度に落ち込んで、けどpv数とかが増えてたら次も頑張ろうなんて思えて
本当はこういうので一喜一憂するのはあまりよろしい事では無かったのかもしれませんが読んでくれる人がいて本当に嬉しかったです。
最後に改めて、本当にありがとうございました!
warning!warning!
筆者は初めての完結作品でテンションがハイになってるので口調おかしかったりしますがそこのところは見逃してくれると幸いです。




