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第27話 二人だけの打ち上げ

 学校祭の熱というのは終わった直後に消えるようなものではなく、その後の打ち上げやら何やらがオプションとしてついてくるようで学校祭最終日の放課後ではその話ばかりが聞こえてくる。


 まあ、お察しの通りだが、僕はそれに誘われるようなことはない。

 誘われても行く気が無いから気にしないと言えば気にしないのだが、打ち上げというのには参加したことが無いのでやってみたいという気持ちはある。

 だが、そもそもこのクラスに友人と呼べるような人は音海くらいだし、その音海も打ち上げに誘われるような様子は無い。


 なら行っても仕方ないかと結論づけると、未だに冷めない教室から出て昇降口に向かう。

 今日の部活は無しだ。一競技しか参加していないとは言えさすがに疲れた。


 それに体育祭後にある部活なんて運動部くらいだろう。

 そもそも日頃から運動していない奴が張り切って競技に出たら結果は自ずとわかるだろう。

 明日が学校祭の振替休日でよかった。筋肉痛のまま学校に行くのはできない訳ではないが、しなくていいに越したことはない。


「四季くん。今日部活無いの?」

「ああ、今日はちょっと疲れたからな。言い忘れてたな。ごめん」

「ううん、それはいいんだけど……えっと、もしよかったら今日どこか行かない?」


 音海も祭りの熱が抜けきっていないのか、頬をわずかに赤くしながら聞いてきた。

 ちょうどいいかもしれない。これ以上はもう堪えられないから。

 あることを決心して音海を見ると、少し不安そうな顔をしてこちらを見ていた。


「そうだな」

「よかった。じゃあ行こっか」


 そう言うと音海はさっさとお店を決めてしまうとそのまま駐輪場の方へ歩いていってしまった。


○●○


 音海が決めたお店はショッピングモールの一階にある洋食店で、落ち着いた雰囲気のあるところだった。

 適当に注文し、ドリンクを入れて席につ句読点音海がわざとらしくごほんと咳払いしてこちらを見た。


「えっと、それじゃあ私たち二人だけの打ち上げって事で、かんぱい!」


 つき出されたグラスにかんぱい。と少し控えめに言って軽く当てる。

 こういうのは当てない方が良いと聞いたことがあるけど、まあ、気にする人はここにはいないから別にいいか。

 あ、そういえばまだ言えてなかったな。


「応援ありがとな」

「どういたしまして。四季くん意外と足速いんだね」

「運動してなくても意外と走れるものだな」


 話はそんな事から入っていって、そのままいつもの、部活の時みたいに色んな会話へと飛躍していく。


 笑う度に鼓動が早くなった。


 照れる度にこっちも恥ずかしくなってお互いに見れなくなった。


 ちょっとしたことをからかって、次は何の話をするかなんて考える間もなく次々と話題が出てきては変に語りあって、呆れられて


 そんな時間がいつまでも続けば良いのに。


 だけど、これ以上続いてしまうと決心が鈍ってしまいそうで


「それじゃあ、そろそろ帰るか」

「うん……そうだね」


 少し残念そうな、悲しい表情に気づかないふりをしてレジに行くとお金を払い店を出る。


 自分が誘ったのだから自分が払うと言い出す音海に気にするなの一点張りを続けていればすでにショッピングモールを出ていて、駐輪場についていた。


 帰る方向はここから別々だ。

 楽しかった。

 これまでの人生、と言ってもまだ十数年しか生きてないけれど、一番楽しいと断言できる時間だった。


「なあ、音海」


 明かりは少し遠く、けれど音海の顔はほんの少しの光でも見えていた。


 最初のころは色々と事情があって、少し距離を置かれて、表情もどこか固かった。

 けど、話すようになっていくと優しくて、不意討ちをしてきて、でも迷惑はかけないようにと振る舞って、それでも自分の言いたいことを言ってくれて。


「どうしたの?」


 振り返る仕草さえ可愛くて、また、心臓の音が聞こえてくる。


「僕がずっと保留にしてた何でも言うことを聞かせられる権利使ってもいいか?」

「あっ、覚えてたんだ」


 少し唇をとがらせて、面白そうに言う姿さえも可愛くて。

 多分この感情は──

 だから


「音海、もう僕と関わるのをやめてくれ」


 だからこそ、この関係を一切消さなければならない。


「え……」


 何を言われたのかわからない様子で音海は戸惑っていた。


「どう……して? 私何か嫌なことしちゃったかな……」


 あははと力なく笑いながら何とか紡いでこぼしたような言葉に淡々と答える。


「そんな事ない」


 そんな事ある訳ない。


「じゃあ、もしかして四季くんにずっと無理させてたのかな。私の事嫌いだった?」

「違う」


 嫌いなはずない。

 この気持ちは、多分恋というものなんだから。


「じゃ、じゃあ何で……」

「音海に傷ついて欲しくないから」


 僕の過去、人殺しのせいで音海まで巻き込むのは嫌だから。



 ……違う。



 それに音海が言った時とは違う。そもそも音海と僕には徹底的な違いがあるんだ。

 音海は被害者で僕は加害者だ。

 根本的に違うのだ。



 そうじゃないだろ。



 ずっと関わってきた事を後悔してほしくな──。


 違うって言ってるだろうが!


 音海に傷ついて欲しくない?

 後悔して欲しくない?

 自分が関わらないでと言われた時、僕がどれだけ傷ついたのか、忘れた訳じゃないだろう?

 何をほざいてるのだろう、僕は。


 僕はただ音海に拒絶されるのが怖いだけなのだ。


 それを音海のためと言い訳して


 自分に向き合わないで


 ただただ、自分が傷つくのを怖がっている。


 これ以上関われば僕が人殺しだと知られるかもしれない。

 拒絶されたらこれまでの思い出が全て黒く染まってしまう。


 だからこれはエゴなのだ。

 僕はどうしようもないエゴイストで、どこまでも臆病者だった。


 けど、もうここで終わらせよう。

 そうすれば僕は傷つかない。

 なのに……


「あれ? 四季じゃん?」


 決断は遅かったようで、現実はそんな僕のわがままを許さなかった。


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