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第23話 医療

今回も短めです。

「医療って何であるんだろうな?」


 放課後の部室、いつものようでいて、夏休みの前とは少し違う部室、もっと詳しく言えば音海との物理的距離がいつもより縮まっている部室で、ふと思ったことを口から溢した。


「え? 人を助けるためじゃないの?」

「人を助けるって言っても命を助けるのだけが仕事じゃないだろ? 外国には安楽死とかあるんだから」

「まあ、そうだね」

「だとしたら医療って人が我慢しなくて済むためにいるんじゃないかって思うんだ」

「我慢しないため?」


 不思議そうに首を傾げた姿は少し子供っぽかった。


「いつかのゲームの話とか、最近だとイヤホン難聴とか、そんな色んな娯楽には健康的な害が結構見つけられてる気がするんだけど、そのせいで自由に楽しめないっていうのはもったいないと思わないか?」

「私は特に思わないよ? ゲームとかもあんまりしないし、テレビだって特に見ないから」

「テレビ見ないのか? ドラマとかも?」


 それは少し意外だった。今の時代テレビをあまり見ないというのはあまり想像できない。

 それに自称活字が好きじゃない音海がドラマを見ないというのが意外だった。テレビを見ないということは映画も見ないんだろうか?


「昔は見てたけど、最近は無いよ。昔見てたのも今思うと友達と話あわせる為な気がするから」


 あ、これはやってしまっただろうか。

 地雷を踏み抜いた気がしたが、音海は特に気にしたような様子はなかった。


「それで医療の在り方だっけ?」


 気まずそうにしていた僕に気づいてか、否か、話を戻してくれた。


「あ、ああ。まあ、確かに人の命を救うっていうのはすごく大切な事だし、すごい事だと思うんだけど、やっぱりそれもさっき僕が言ったものと同じだと思うんだ」

「同じ?」

「だって命を救うっていうのは、こういう言い方はあんまりしたくないんだけど、結局のところ死ぬのを先送りにしてるだけだろ?」


 正確な定義とかはあんまり知らないけど、危険な病気を治したり、事故で危ない状態の人を手術とかで治すのは人生全体で見てみれば延命治療のように見えてしまう。

 結局生き物は死ぬんだから。


「確かにそうかもしれないね」

「だから、命を救う処置っていうのはその人が人生でしたいことをする時間稼ぎなんだ。きっとしたいことの中には音楽、小説、叶えたい夢とか、色んな物があるだろ? だったらやっぱり医療っていうのは人が我慢しないで済むようにあると思うんだ」

「うーん、どういうこと?」


 許容値をオーバーしたのかよくわからなかったらしい。


「どこら辺がわからないんだ?」

「例えば、ずっと病気で入院してる人がいるとするね。その人の病気が治ったらその人は何を我慢しないで済むの?」

「その人はずっと入院するのを我慢しないで済むし、命の危険があったんなら限られた寿命の中で生きる我慢をしなくて済む」

「なるほど」


 なんとか理解したようであかべこのように頷いている。……本当に理解してるのか?


「今さらなんだけど何で四季くんは医療について話出したの? 医師になりたいの?」

「いや、特になりたくないし、僕の成績じゃ医学部に行けない」


 それに僕には誰かの命を救いたいなんて願いも無いし、医師に憧れるような出来事も無い。

 それ以上に医師という仕事はあまり楽しそうじゃないのだ。

 もちろん、誰かのために何かできることが好きな人がいるかもしれないし、仕事についてみないとわからない楽しさというのも存在しているかもしれないが、今の僕にはやりたいことというのがもうあるのだ。

 才能にも環境にも恵まれてる訳ではない僕が他の何かと並列して叶えられるような夢なんて存在しないのだから今自分がしたいことをやっていきたいのだ。


「医療が気になったのは昨日の夜、テレビ見てたらイヤホンの使用は1日2時間が目安、みたいなのを見たんだ。我慢して長生きするよりも、楽しく生きる方が良いだろ?」

「だけどそれって長生きする為じゃなくて耳が悪くなって将来不便になるのを避ける為じゃないの?」


 ふむ、確かにそれもあるか。

「けど、似たような物じゃないか? 確かに大人になって不便になるのは嫌だけど、だからってわからない未来のこと考えて今を我慢したって面白くないだろ?」

「だから医療は『人が我慢しないで済む為の物』ってこと?」

「そうなるな。だから寿命を伸ばすのも大切だけど、本当に大切なのは楽しんで生きられる期間を伸ばすことだってことだ」


 極論、僕は楽しくない人生に価値を見いだせないのだ。

 そういう意味なら全くつまらない100年を生きるより最高に楽しい10分を生きる方が良いということになる。

 まあ、寿命10分なんて人生はあまり送りたいとは言えないものだけど。


「そういうの教科書に載ってなかったっけ?」

「……え?」


 え? こんな考え方教科書に載ってるのか?


「保健の教科書に載ってた気がするよ」

「何か負けた気分だ」


 小説を書きたいと思った頃から何度か思ったことがあるが、自分の考えていたネタとか、自分の考えと似たような物を小説とか漫画で見つけるとすごくやるせないというか、切ない気分になる。


「あはは……。けど、なんとなく理解できた気がする」

「まあ、今日はこんなとこか」

「そうだね」


 窓から射し込む光はもう秋だからだろうか赤く僕たちを照らしていた。

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