表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/28

第2話 生きる理由

 学校は好きじゃなかった。


 勉強もそれほどできるわけでもなく、運動にいたっても平凡。中学校では部活に入ることもなく、やりたいことが見つからずただただ不毛な中学校生活を過ごしていた。


 小さい頃から趣味も読書くらいしかなく、元々が社交性に欠けているような自分に友達が少ないのも不思議なことじゃなかった。


 別にそれは特に悲しむようなことにも思わなかった。


 まあ、そんな訳で学校は好きじゃなかった。


 ただ、行かなければいけないという使命感、という程大それたものでも無いけれどそんな感情だけが僕を学校に通わせていた。


 けど今は学校が嫌いだ。


 いや、学校だけじゃない。


 人がいる場所が嫌いになった。


 人の体温が嫌いになった。


 人の肌の感触が嫌いになった。


 触られるのも触るのにも嫌悪感を感じるようになった。


 少し肩があたっただけで吐き気が込み上げてきた。


 視線を感じると体が震えるようになった。


 それでも学校に行っているのは他と違うのが嫌だからなんだと思う。


 高校を卒業していないのは普通じゃない。そういう風に後ろ指を指されるのが怖くて今も学校に通っているのだろう。


 それと一番大きいのは自分が普通だと思いたかったからだと思う。


 他の人とあまり変わらない普通の高校一年生だと自分に言い聞かせたかった。


 そう思い込まないと何もできないような気がしたから。


 学校につくと、駐輪場に自転車をとめ、昇降口に行く。


 まだ補習には早いからあまり人はいない。まあ、だからこの時間帯に苦手な早起きまでして来ているのだ。


 職員室に適当な挨拶をしながら入り、クラスの鍵を取り、鍵を持っていったものは名前を書くようにと付箋が貼られた名簿に名前を書くと、教室のドアを開けてから職員室に鍵を戻し窓際から二番目の列の一番後ろの席に座る。


 鞄から文庫本を取り出すと頬杖をつきながら本を読む。


 読み進めていくと一人また一人と教室に入ってくる足音が聞こえてくる。


 読み進めると言ってもあまり内容は頭に入ってこない。ただただ文字を目で追っているだけで文字列は物語を展開できずに頭の中で音を出して消えていくだけ。


 それで良い。本にそれ以上のことをもう期待していない。


 ただ何も考えないようにいられる時間が欲しいだけだ。


 何かをしていないと色んなことを考えてしまうから。


 だから文字を読んで意味を噛み砕く前にまた次へとそれを繰り返していく。


 そんな風にしていればいつの間にか補習は始まって嫌でも勉強しなければいけない空気に変わっていった。


 そんな風に日々は続いていく。


 そんな日々を通していつも思うのだ。


 日常はこんなにもつまらなく、平凡で、自分の場合は皆の平凡が苦痛にさえなる人生で


 僕は何で生きてるんだろう。


 人は何で生きるんだろう。



「人は幸せになるために生きてるんじゃないかな」



 突然の声に息が詰まった。


 声のした方へ目を向けると中庭を背に、少女が頬杖をつきながらにっこりと笑ってこっちを見ていた。髪の毛は陽の光を浴びて艶やかに光っており、くりっとした黒色の目はまるで宝石のようだった。


 きれいというよりは可愛いと言った方がイメージに合う女子高生だった。


 一瞬、ほんの一瞬だったが世界が色づいた。


 空が青く輝いて、教室に暖かい光が入り込んだような気がした。


 他の人に聞こえないように声をひそめながら彼女は続けた。


「生きるのは目的じゃなくて手段なんだよ。楽しくなるための、幸せになるための手段なんだと私は思うな」


 けれど色づいたのはほんの一瞬で瞬きする間に灰色へと帰還した。


 何かの見間違いだろうか、それか自分の願望だったのだろう。


 今の世界は結局灰色のままだった。


『人は幸せになるために生きてるんじゃないかな』


 色んな人が言ってそうな言葉。


 そういう番組なら簡単に使われてそうな、実際同じようなフレーズは聞いたことが沢山あるような気がする。


 ありふれた言葉。


 それほど特別だとも思えない言葉。


 使い古されたような言葉だった。


 けれどその言葉が気になって、補習中ずっとそれを考えていたからだろうか。


「おーい、四季」


「え?」


「集中しろ」


「痛っ」


 先生に頭を軽く叩かれた。


 それを周りから見られ、笑われた。


 視線が痛かった。


 恥ずかしい以前に気分が悪くなった。


 吐き気がする。頭痛もだ。


 なんだ、やっぱり僕の世界に色なんて存在しないんだ。


 けれど、その日はずっと彼女の言葉が頭を離れず、授業中も上の空状態だった。


 幸せになるために生きている……か。


 それなら僕はどうなんだろう。


 人を殺して、人の人生を奪っておきながら自分は生きてて楽しいだろうか。幸せだろうか。


 苦しい……。


 人で溢れかえってるこの世の中は気分が悪い。


 それ以前に人を殺したという記憶がいつも自分を縛っている。


 それは当然なのかもしれない。人を殺して何にも考えずに生きていけるような人はきっと存在しない。


 それほどに人は重いのだ。


 幸せになるために生きている。


 だったら幸せになれない、日々が苦しくて何もやりたいことも見つからないそんな人生しか想像できない自分は……


 幸せというものをもし辛くないもの、苦しくないものと仮定したなら


 幸せになるために自殺するというのも間違いなんかじゃないのかもしれない。


 放課後、一応部活に入っているけれど行く気にもなれず、行っても特にやることも、やらなければいけないことも無いので家に帰ると、あることに気づいた。


 というか気づくのが遅すぎた。


 彼女のあの答えは僕の問に対してであり、


 また、僕の問とは人は何故生きるのだろうというものであり


 男子高校生が独り言で呟こうものなら一年中それでいじられるようなレベルの恥ずかし疑問文だが


 それを独り言で漏らしてしまった訳だ。


 それも情報伝達能力に長けている女子高生という生き物に……


 はぁ、気持ち悪いな僕……


 その日は何もする気が起きず、課題も適当に済ませると早めに布団に転がり眠った。

どうやら私は後書きとか前書きとか、さらにはサブタイトルすら書くのは苦手らしい。

そんな作者ですがよければこれからも読んでください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ