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第10話 性別

 今日も学校生活では特別なことは無く、強いて言えば生徒総会なるものがあって、あらかじめ集めておいた生徒の希望の実現できるかどうかやそんなことを発表してた気がする。


 大体の事は自分にはあんまり関係ないのでよく覚えていないが、自動販売機が増えるみたいな事を言っていたのは覚えている。


 前々から考えていたがこの高校にある自動販売機は四つほどあるが飲み物の種類が少ないのだ。

 生徒総会では種類が増えると言っていたので楽しみである。


 そんなどうでもいいことを考えながら歩いていると図書室にいつの間にかついていた。

 部室には誰もいない。

 後から音海も来ることになっている。

 一緒にいるところを見られるのはお互いにあまり良くない。


 音海の事情は知らないが、教室での交流を避けてる時点で関わりがあるのを知られるのは嫌なのだろう。


 僕は視線自体が嫌いだ。


 まあ、それぞれの理由で一緒に行動するのは避けている。

 とりあえず窓際の席につくと文庫本を取り出し開ける。

 昔好きだった作品の一つだがやっぱり面白く感じられない。

 ただ、物語がつまらなく感じる訳ではなく、読書があんまり楽しくなくなった感じだ。

 ため息をつくとドアが開いた。

 視線を向ければ音海がにこにこしながら入ってきた。


「どうかしたか?」

「ううん、どうして?」

「いや、にこにこしてたから」


 「そうかな」と言って音海はドア側の席に座った。

 これは聞いてもいいのだろうかと考えるも、コミュ力0な僕が悩んでも答えなんて出るはずもない。


「何か嫌なことでもあったのか?」

「え?」


 驚いた様子で音海はこちらを向いた。


「な、なんで?」

「そんな気がしたから」


 元々はそんな、観察眼って言うのだろうか?そういうのは全く無かった。


 けどあの日から周りの目が気になって見るようになった。


 友人に期待すればするほど、その期待が裏切られるのがわかるようになった。


 隠し事が苦手な人はなんとなくわかる。


 ……自信はそんなに無いが。


「無理に聞く気もないけど、愚痴とかそういうのとかは聞くから。それに、頼られないと友達として自信ないから……」


 途中から何を言いたいのかよくわからなくなってきた。


 何言おうとしたんだっけ? もうよくわからん。


「えっと、うん。ありがとう」


 安心したような声音でそう言うと音海はにこにこではなく、いつもの笑みに戻っていた。


 少し安心して文庫本を閉じる。


 そして、沈黙。



 …………



 どうしよう。会話が続かない。

 けど、いつもは音海から話をふってもらってるし、今日くらいは僕の方からふった方がいいかもしれない。


 話題って何選べばいいんだ?


 今日の話題でいいのは生徒総会だろうか?

 けど自動販売機の話なんて楽しくないだろうし、他に何が……


「そ、そういえば女子は男子と同じようにズボンはいてもいいとか生徒総会で決まってたな」

「そういえばそうだね」

「だったら男子も女子みたいにスカートはいてもいいのだろうか?」



 ……………………



「四季くん」

「違うぞ」

「今日の議題は性別の壁にしよう」

「誤解の解き方とかにしないか?」

「私は女装とかそういうのを悪く言うつもりはないよ!」

「やっぱり勘違いしてるじゃないか」


 音海は本当に楽しそうにこっちを見た。


「大丈夫、人の趣味は人それぞれだから!」


 ああ、もうこれは止まらないだろうな。

 音海との関係が短い僕でもそれがわかるくらい音海はやる気に満ち溢れていた。

 何のやる気か不安しか無いが。


「そういえば議題とか言ってたけど何の事だ?」

「四季くんって人と話すの苦手でしょ」


 突然の指摘に否定できずうなずく。


「だから部室でもたまに居心地悪そうにしてるでしょ。それだと私もちょっと居心地悪くなるから最初から話題を決めておこうと思って」

「なるほど」


 つまりコミュ障の僕でも話しやすくしようという気遣いなのだろう。


「それで今回の議題は性別の壁ね」

「一応言っておくが僕に女装趣味は無いぞ」

「…………わかってるよ?」


 ああ、わかってないなこれ。


「けど、性別の壁って言っても何を話すんだ?」

「前みたいな理論的なのを期待してます」

「ああいうの嫌いじゃないのか?」


 この前はロマンやら言ってた気がするのだが。


「話題によりけりだよ」

「そういうものか」


 けれど急に性別の壁と言われてもなぁ。この前の幸せについての理論、まあ端的に幸福理論とでも呼ぼうか。


 あれについては中学の時に考えてたからすらすら出てきたが、今回はそういう訳でもない。


 というか中学で幸福について考えるって中学時代の僕はなんともつまらない人生を送っていたというか、なんというか重症だな。


「性別の壁か。代表的なものと言えば男尊女卑とかだろうか?」

「え? ゲイとかレズとか、あと何があったっけ?」

「ああ、トランスジェンダーとバイセクシャルか?」


 確か全部の頭文字をとってLGBTとか言ってたっけ? 他にもアセクシュアルとかインターセックスとかクエスチョニングもあったっけ?

 というか何で僕はこんなに詳しいんだ。高校生が興味持つようなものでもない気がするんだが。


「そうそう、transgenderとbisexualだね」

「何で発音よく言い直した」

「そういうのが私は先に出てきたな」


 やっぱり性別問題とかは色々あるから意見が違っても不思議はないか。


「まあ、男尊女卑にいたっては、今では女尊男卑の時代だからな」

「そうかな?」

「レディースデーとかまさにそうだろ」


 けどそれはそれで理由があったんだったか? 覚えてないからいいや。


「レディースデイがあるならメンズデーとかもあればいいのにね」


 しかし、もしかしたら高校生の僕達にはわからない理由があるのかもしれない。

 そういう面で言えば女尊男卑とか言ったらダメなのかもな。気をつけよう。


「それで、音海は同性愛とかに興味があるんだっけ?」

「その言い方は誤解を招くからやめて欲しいな」

「同性愛か」


 実際にそういう人に会った事も無いし、特に興味も関心もないからなんとも言えないけれど、まあそういう事をあんまり知らない立場の人からそういう人達を見ると、つまりは僕視点から見ればどう見えるだろう。


「まあ、生物的に見たらやっぱり嫌悪感とかが出るものなのかな」


 ロリコンとかでも、こう言うのは生々しくて気が引けるのだが、生殖不可能な、例えば幼稚園児とかに性的興奮を覚えるのは病気とかどっかで見たような気もするし。


「そっか……」


 少し悲しそうな顔をした音海がぽろりとそう呟いた。

 僕の意見はまだ終わってないんだが。


「けど、やっぱり生物的にとかそういう堅苦しい理論とか放っておいて、好きになるのは自由なんじゃないか?」

「え?」


 うつむいていた顔をあげ今度は不思議そうな顔をして首をかしげていた。


「好きになるのに理由はいらないって言うだろ? たとえ同性だとか、幼かったりしてもそれでも好きであるっていうのが本当なら別にそういうのもありだと僕は思うよ」


 もちろん同意無しにそういう事をしたり、幼かったら倫理観だとかそういうのもあるから簡単にこう結論づけるのはダメなのかもしれないが、好きという事自体は馬鹿にされていいものじゃないと思う。


 故にロリコンであることは恥じるような事ではないのだ!


 ロリコンじゃないけど!


「だから、好きな人が女子でもいいんじゃないか?」

「……えっ!? 何でそうなるの!?」

「え? だってさっき僕が嫌悪感が先に出るって言ったらちょっと悲しそうにしてたからてっきりそういうことなのかと」

「ち、違うよ! 私はそういうのも間違ってないと思ってたから意見が割れたと思って……だから違うよ! 本当に違うから!」


 わたわたと身振り手振りを交えながら抗議する姿が面白くて思わず吹き出してしまう。


「あ、今笑った!」

「ごめん、耐えれなかった」


 不服そうに頬を膨らましてこっちを見てる音海は、少し考える顔になると今度はいたずらを思いついた顔になった。


「僕は女装に興味は無いぞ」

「先手をうたれた!」


 ガックリとうなだれている姿に今度はばれないように小さく笑う。

 人と話してこれだけ楽しいのはいつ以来だろうか。


「けど、本当に興味あったら私が制服貸してあげるから遠慮なく言っていいよ」

「遠慮しとく。というかそういうのは男子に言うなよ」


 女子の制服というのをそう気軽に男子に渡すのは、危険だろ。


「大丈夫、四季くんにしかそういうのは言わないから」

「なっ!?」


 そういうのも軽々しく言わないで欲しい。

 急に無言になったのを不思議に思ったのかこちらを見てる音海に、どう対処しようかと熱くなった頭で考えているとタイミングよく下校を呼びかける放送が入った。


「じゃ、じゃあ、そろそろ帰るか」

「そうだね」


 できるだけ平静を装ってそう言うと、幸い音海は動揺している僕に気づいていないようで、そのままからかわれる事もなくいつもと同じように時間差をつけてそれぞれ帰路についた。


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