二十七幕 討伐隊
ストック無い
最近考えを放棄する者が増えてきたわ、自らの迷いに折り合いをつけず、自暴自棄になる者が。
獣人には結構キツめに設定したから仕方ないとは思うのだけど……そうじゃない者もそれなりに。
逆に答えを見つけた者も少しずつ増えてきているわ、良くも悪くも見つけた答えの道を歩んでるみたいだけど、何故か私に傅く者が大半なのは何故かしら?
まぁ何でもいい、この調子で答えを見つける者が増えていって欲しいわ。
それはそうと自暴自棄になった者だけど、彼らの支配権は答えを見つけた者たちに渡したわ。
自らを捨てる者にどうして体が必要でしょう、要らないわ、それなら答えを見つけた者たちが、その道を歩むための礎になってもらいましょう。
「そうよね、ソル?」
ソルもまた自らを捨てた者の一人、でもソルの場合は答えを見つけたうえで自らを放棄した、だったら今は幸せなんじゃないかしら?
魔国軍改め魔王軍、前は『悪魔』を魔王として国を作っていたけれど、今は違う、『月』を魔王として惑いに落ちる者を増やそうとしている。
全部答えを見つけた彼らが勝手にやっていることなのだけど、不思議なものよね、私は何もしていないのに組織が組みあがったのだもの。
まぁいいわ、その方が都合がいいもの、放っておきましょう。
さぁ……いつ来るかしら、この時代の『役』連合は。
恐らく正面切って向かって来るのは『導きの星』でしょうね、惑わしに対して導きは相反する、どうあっても『星』の支援なしだったら、他の『役』ですら落ちかねないもの。
「星の導きのままに」だったかしら? 与えられた道と自分で見つけた道では、どっちが正しいのかしらね。
門前払いだった、何故だ!
ルナ先生のことはよく知っている、ジークの魔術練習の時に使っていた変わり種の魔術とかも知っているし、それへの対抗手段だって知っている。
どれだけ説明しても一瞬たりとも耳を貸さない、ええい! 頭の固い奴らだ!
「やってられんわ……」
今は酒場でうなだれている、対面にはアリスも座っているが、同じように机に突っ伏して動かない。
周りにはアリスは見えていないだろう、しかし見えていたとしても何の違和感も持たれないと思う、それくらいにこの酒場には陰鬱は空気が漂っており、今のわしらの気分そっくりだった。
「のうアリスよ、討伐隊なんぞに頼らずに勝手に行ってしまってはダメかのう……」
何度頭をよぎったか分からない提案を口にする、ダメなのは分かってる。
「……ザック」
アリスが突っ伏したまま顔をこちらに向けて、口の前で指をバッテンにする。
多分ここで話すのはマズイよってことと、独り言言ってる危ないお爺ちゃんに見られるよ? ってところだろう。
「いいんじゃよ、どうせ誰も聞いちゃおらん、聞いていたとしても年寄りの戯言と勝手に流すじゃがろうさ」
今回のアタックで一気に老けた気がする、断るならさっさと断ればいいものを……。
「……でも勝手に行くのはダメ」
アリスもわしも勝手に行くことは決してしないだろう、本気で行こうなんて言い出したらわしはアリスを全力で止めるじゃろうさ。
あの日、もし儂とアリスが外に出ようとせず、ルナ先生の言った通り大人しくしていたら……もしあの時皆を連れなかったら……。
悔やんでも悔やみ切れない無限に続く後悔の渦、なぜ主犯の儂らだけが生き残ったのじゃろうな。
気持ちが沈み込むのも日の光が常に遮られているせいだろう、ずっと宵口のような暗さのままだ。
宵口には1日の振り返りを自然とすることが多い、ずっと宵口なのは人生を振り替えれということなのじゃろうか。
「……ザック、時間」
時間の感覚はとうの昔に消えている、そうか、もう寝る時間か。
「なに、少しくらい大丈夫じゃて、いくら飲んでも酔えない酒も……大丈夫じゃ」
「……ダメ」
「大丈夫じゃと言うとるのに」
「……健康、もう若くない」
むぅ……今日はちょっと強情じゃの、仕方ない、大人しく従うとするかの。
「そうじゃな……そうじゃ、もう若くない、若くないんじゃ……」
年老いた、その言葉が重くのし掛かる。
「アリス、戻ろうか」
「……大丈夫?」
……その質問に儂は無言しか返せまい。
「朝起きても爽快感はまるでない、なんとも悲しい世界よの」
魔術研究所で働いていたこともあり、普通に過ごせばお金には絶対困らない、まして老人用の長期契約前提の宿ならなおさらじゃろう。
本当に『法王』様も『女教皇』様も良いいお方じゃ、ここはいい国じゃ。
子供にも過ごしやすい国になるように政策を組んでいらっしゃった、ここほど平和な国はあるまいて。
それが可能なのも法国と帝国が同盟にあるおかげじゃ、本当に『役』とは偉大よの。
「今日じゃったな……」
儂が参加できなかった討伐隊の出発日、皆の希望になれるよう凱旋を行うらしい、見に行く気には慣れないが。
「行きたかったのぉ……」
『役』じゃないから、それだけの理由で参加ができない、どれだけ策を持っていたとしても、『役』の有無が重くのし掛かる。
「はぁ……」
ため息を吐く度に老いる気がする、罪悪感で燃やし続けている心が冷え込みそうになる。
これじゃイカンよの……
「……ザック」
扉からニュウっと上半身だけを出してきたアリスが手招きをしていた。
「なんじゃ? 何かあったかの?」
「……誰かがザックを探してる、精霊が教えてくれた」
アリスは儂が魔術を研究するのに付き合ってくれていたが、アリス自身の精霊の研究も一緒に進めていた、そのお陰でどうにも精霊を束ねるリーダー的存在になることができたらしい。
「儂を? また魔術の質問かの? もう儂は弟子に引き継いだんじゃ、一回断ってくるかの」
熱意と知識を見てみるとするか、弟子で済むなら弟子に横流ししようかね。
「どこじゃ?」
「……(パタパタ)」
アリスの手招きに連れられて儂は宿のロビーに向かった。
「……あの人達」
宿のロビーに着き、アリスに示された者たちを見るに、学者という体ではなかった。
「若いの、なんじゃあやつ達は」
一人は見事な鎧に身を包み、腰に剣を携えた人族、ここらでは珍しい黒髪黒目の騎士といった風体の男。
二人目はいかにも魔女といったローブに三角帽をかぶった、これまたここらでは珍しい翼人族の女。
三人目は何故か踊り子の服装で平然と居る獣人族、腰には少し長めの短剣が一本と、反対側に小さな手投げナイフが三本ぶら下がっている、この者は格好以外は珍しいところはなく、まぁ物好きな女といった印象だ。
「帝国から来たのかの? どうしてわざわざ儂に」
どうみてもその三人は今到着しました、とった感じがしており、それこそ法国着いてから直行してきたように見える。
「不思議」
珍しくアリスがはっきりと驚きを表してた。
「……どうして? あの男の人精霊が見えてるみたい」
なんと! 儂の仲間が居るとは思っていなかった!
「ほう……魔術じゃなくてそっちじゃったか、それなら付き合ってもいいかの」
精霊については儂とアリスしか研究することができず、もしかしたら新たな策が見出だせるかもしれん。
「こうしちゃ居れん! 話を聞いてみようじゃないか」
「……ファイト」
「お主らじゃな、儂を探しとるというのは」
早る気持ちを必死に押さえながら声をかける、女二人はどうでもいい、この男と早く話がしたい。
「? あ、もしかして魔術と精霊術で有名なザックさんですか?」
「ああその通りじゃ」
「良かった~、もしかしたらパレードの方に行ってここには居ないかと思ってましたよ」
「それは運がよかったの、儂は行く気がなかった」
よく見ると同じ宿に住んでいる老人達が一人も居ない、それどころか受付の人も居ない、受付の人は行っちゃ駄目だろうに。
「あぁ、受付の人が居ないからここで待って居ったのか」
さっきからずっとロビーで何してるのかと思っていたが、まさかそういうことだったとは……。
「ええそうなんですよ! 城門の衛兵にここだって聞いたのに、来てみたらcolorsなんですもん! 帰ろうかと考えて居ました」
「ちょっとケン、流石に馴れ馴れしくて失礼ですよ」
魔女風の女が騎士風の男に声をかける、今は機嫌がいい、別にこれくらいなら怒ったりせんよ。
「なに問題ない、それで? 儂を訪ねてきた理由はなんじゃ?」
研究に力を貸してくれるなら大抵のことは承諾しようじゃないか、弟子入りでもじゃ。
「あ、すいません、用件の前に自己紹介させて頂きます、僕は帝国で勇者って呼ばれてる『力』のケンです」
『力』! この男『役』持ちじゃったか!
「こっちの魔女の格好したのが『魔術師』のアドネで、こっちの踊り子が『恋人』、名前は教えてくれないので知りません」
後ろの女二人も『役』持ちじゃったか……ということはこやつ達は今日の討伐隊のメンバーかの?
「これはこれは……『役』持ち様でございましたか、儂はしがない魔術使いのザックと申します」
儂はこの三人のように『役』は持っていない、どれだけ努力しても手にいれることが出来なかった。
ルナ先生のお陰で魔術は法国の誰よりも扱いが上手い自信があったし、それ故に『役』の『魔術師』が得られないかと努力していた。
しかしもう既に『魔術師』は居ったのか……儚い夢じゃったのう。
「いえいえ! しがないなんてとんでもない! ザックさんが魔術の発展において多大な功績を残したのも知っていますし、世界で唯一の成果を挙げた精霊学者じゃないですか! そんなの『役』持ちでも難しいです……世間で言われてるほど『役』は万能じゃないですよ?」
そんなことはないじゃろう、一生をかけるほど『役』に自由がないだけじゃ。
「それで、そんな『役』持ち様が一体儂に何用でございますか?」
もし……もしこの三人がルナ先生の所に行くならば! 儂が研究してきた発表していない成果の全てを明け渡すことも厭いわせん! 非常に残念ではあるが、行けない儂の代わりに儂の研究を生かして欲しい。
「はい実はですね、ザックさんの精霊学を僕に教えて欲しいのです、僕は精霊が見えるのですが、どうにも上手く力を借りることができないんですよ、ザックさんならもしかしたら知っているのではないかと思いまして」
力を借りる?
「ケン様がどのようなことを望んでおられるかは分かりませんが、精霊と共に術を行うのは難しいことではございません、そういう意味でございますか?」
子供の頃の儂でもできたことじゃ、そう難しくはないのだけどのう……
「あ、いえそういうことではなく……精霊の力を自分に移して、自分で制御するって意味ですね、できそうな気はするんですが……どうにも精霊が辛いようで」
なるほどの、そういう意味じゃったか。
「辞めておくことをお勧めしますぞ、それは精霊に負担が大きすぎます、できないことはないのですが、一度してしまえば二度と精霊は元に戻ることはできないでしょう」
「あるんですか!」
「……お主は精霊は大切か?」
二度と元には戻らない、それは非常に残酷なことじゃ、精霊に寿命はない、つまりは永遠姿を変えられない。
「これを見るといい、これがその研究の結果じゃ……」
表向きに発表出来なかった理由、もう二度と行いたくない術の結果得られた成果を儂はポケットから取り出した。
「これは……一体?」
「これはの……」
一拍おいてはっきり告げる
「精霊じゃ」
今年中には書き終わらないかな?




