二幕 色のセカイ
実に中途半端、大体1万5000文字を区切りに書いていたので、3000文字刻みだとどうしても微妙な位置での区切りのなってしまいます。
まぁ5話くらいを一区切りとして考えていただければ幸いです。
辺りは色で満ち溢れている、空は青く雲は白い、草木は緑で茶色も忘れちゃいけない、どこもかしこも色ばかり、風にすら色を感じてしまうくらい刺激的。
外……それは光満ち溢れる色の世界、今まで居た土砂に埋もれた建物とは違うのだ。
対照的、そんな言葉が頭によぎる。
そんな全てのものが色とりどりに存在を主張する外の世界に、今まで色のない空間に居続けた私がいきなり飛び出すとどうなるか。
それは……
「ぁぁ……無理、頭が痛い……何も見たくない、聞きたくない、気持ち悪い……」
酔うのも仕方がないというものだ。
洞窟の先、森に囲まれた不自然な草原の中、私の体は日の下に晒されていた。
髪は銀色でそれなりに長い、顔立ちは幼く背も低い、目も銀色である。
それに加えて着ている服はゴスロリときたものだ、倒れてピクリとも動かない今の私を見て、人形が打ち捨てられていると思われても仕方がない。
そんなこんな考えている内に気持ち悪さも引いてきた、ありがとうレイヴ、貴方がコッソリ私に回復の魔術を使ったおかげでだいぶ楽になったわ。
別にコソコソせずに堂々としていればいいのに、そんなところも好きよレイヴ。
「……外だ」
仰向けに態勢を変え、もう一度空を見上げる。
どこまでも青く、雲は白い、風の無色さえも色を感じられる。
肌に当たる優しい風に包まれて、自然の音に耳を澄ませる。
先ほどのような気持ち悪さから目を閉じるのではなく、ゆっくり噛み締めながら目を閉じる。
木々が揺られる小さな音、風の指揮に従って一つとして同じ音を奏でぬオーケストラが開催される。
あぁ美しきかな、何もかもが心地よい……
太陽のぬくもり、こんなに暖かなぬくもりだったことをすっかり忘れていた、私は何と無為に眠っていたのだろうか。
遠くより聞こえる声、近づく足音、それらも新たにオーケストラに加わってくる。
生で聞く演奏ほど心に響くものは無い、なんという迫力なのかしら……
……ん?
足音? 声?
「……動かない方が得策かしら?」
オーケストラに加わった闖入者は、どんどんこちらに近づいてきているようだ。
「大丈夫……大丈夫、目を開けて黙ってれば近づいても興味をなくすでしょう。」
言い聞かせるようにつぶやく、不安
あぁ……擬死行動を起こした動物はこんな気持ちなのかしら、せめて何かが来る方向を向いて倒れればよかったわ。
仰向けのまま接近してくる謎の生命体に意識を向ける。
阿阿……複数いるじゃないの、足音が軽く隠そうともしていない。
怖いもの見たさで迷い込んだ人間の子供なら救いはある、でもこの感じは……
「オイ、誰カ倒レテッゾ」
もう分かったわ、ありがとうございましたお帰りくださいお願いします。
私の存在に気がついたアレの集団は、何の警戒も無しに駆け寄ってくる。
そんなのだから貴方達の種族は簡単に狩られるのよ……不思議を暴かずにはいられないのは愚か者の特性なのかしら?
決して低能だとは思わない、でも考えが浅はかであるとこは間違いない。
バカと愚か者は違うのだ。
「コイツァ……人族ノガキカ?」
遂に私に到達した愚か者集団、瞳を覗き込むその姿は異様であった。
背丈は成人女性の半分くらい、肌は個体によって異なる性質を持つが、共通して体は人の形に近い、線も細く生物としての異様さが強調されたその姿を持つものは……
……やっぱりゴブリン族だったわね
ゴブリン族は数が多い、その上キメラの様に親の遺伝子によって能力、姿が変わるのだ。
今見えているゴブリンは猪頭に茶色の体毛、体は人型であるために小さな猪男といった様な姿をしている。
私の記憶ではゴブリン族に捕まった女性は酷い目に会うはずだ
大丈夫……大丈夫……じっとしていれば問題ないはず
「オイ! 生キテッカ?」
ペチペチ顔を叩いてくる、鬱陶しい
「隊長~コイツ目ガ開イテマスゼ、ソレニ冷テェ……息シテマスカイ?」
「息シテナイナ……可哀想ニ」
「ドウスル? 埋メトクカ?」
「ドウッスカネ? ソモソモコイツノ種族ガ分カンネェッス」
「ア? 人族ジャネェノカ?」
「イヤー……ソイツァ多分アンデットジャナイッスカネ? ダッタラ埋メチャ駄目ッス」
「違イマスヨ、コノ子はゴーレムデスヨ」
口々にゴブリン達が話し出す、私の正体をその場で考え出していた。
私に体温はない、呼吸もない、それでも確かに生きている。
アンデットでもゴーレムでもない、でも一目では分からないくらいに人間に近い。
生物かどうかも分からないような存在、それが私。
延々と輝く光の下、銀の紙を振り払い、ゴブリン達の目の前で立ち上がる。
「貴方たち、賑やかで楽しそうね」
物言わぬ死体? から声がかけられ、私から飛び退くゴブリン達。
さっきまでの賑やかさが嘘のように静まり、武器を構えて警戒している。
やっぱりバカじゃないわね、さっきまでの間抜けな隊長さんが凛々しく見えるわ。
「はじめましてゴブリンさん、私は死体でもアンデットでもゴーレムでもなくて人形よ」
そう、私は人形。
私に呼吸は必要ない、だって人形だもの
私に体温は存在しない、だって人形だもの
筋肉の衰えだってないし食事も必要ない。
私に必要なのは魔力だけよ。
……その分楽しみも少ないのだけどね。
「そんなに警戒しないで頂戴、何かするつもりはないわよ」
とりあえずは警戒を解いてもらわないと話し合いができない、外に出たばっかりだから情報が欲しいのよ。
「オイ! オ前ハドウシテココニ居ル! 何シニ来タ!」
おおう警戒心バリバリ……仕方ないことだけどね
「たまたま歩いてたら行き着いただけよ、不快なら出てくわ……出口はどこかしら?」
「……」
「……」
両者見つめ会ったまま動かない。
きっと色々考えてるのでしょう、時間はあるもの、待つわ
「オ前……仲間ハ居ルカ? 宿ハ?」
「仲間ならレイヴが居るわ、私と同じ人形よ。宿はないわよ、目的地すらないのだから」
最初の目標だった外に出るは達成されている、そして次の目標がない。
「……マァイイ、敵対シナイナラ集落ニ受ケ入レヨウ、ドウスルカ?」
巡り合わせや結果のことを人は運命と呼ぶ、気の向くまま運命に導かれるままに浮浪するのも悪くないかしら、ここで出会ったのも何かの縁、記憶の中のゴブリン族なら絶対に付いて行かないけど、このゴブリン達はまだ知性的だ。
「敵対する気はないわ、行く当てもないし……ご一緒してもいいかしら?」
レイヴも何も言わないし大丈夫でしょう、駄目なら逃げればいいのだから。
「もちろん変なことをしない限りね、手を出すなら勝手に逃げさせてもらうからね」
一応釘は指しておこう、大丈夫だとは思うけどね。
その忠告を聞いたゴブリン達は、ただ苦笑いを浮かべるだけだった。
昔からそうであったが本当に不思議な光景である、どうして森の隣に地割れが走る荒野があるのだろうか。
青々とした色から一変して粗野な黄土色に変わる境界線は何とも言いがたい。
「どうして森を抜けたのかしら? 貴方達の集落は森じゃないの?」
森の方が食料も材木の確保も楽のはず、他にも利点が多いのに何でわざわざ過酷な環境を選んでいるのかしら。
疑問を投げ掛けるもゴブリン達からの返事はない、あえて言うなら「なに言ってるんだコイツ」といった怪訝な目が答えと言えるだろうか。
別に問題はないでしょうに、何故そんな目で見られるのかしら?
「ココダ、コノ中ダ」
荒野に入ってからすぐに見えた地割れの先、大陸を別つかのような大きな大峡谷に近づいた時に声が掛かった。
ここって峡谷かしら?どうしてこんな面倒な場所に集落を作るのかしら……そしてどうやって入るのかしら?
そういえばハイファンタジーに分類しているのですが、あんまりハイファンタジーって感じがしないんですよね、ジャンルって途中で変えれたかな……今のところは変える気無いけどね