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海のマーメイディアン  作者: 雅 彦
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01


 青、海の青と空の青。 どこまでも遠く、遥か彼方まで青い世界が続き、水平線でようやく交わる。

 太陽の活動が強まり、南北の極にある氷が溶け始めると、海水面が上昇して過去の大都市や平野は海の中に姿を消した。

 太陽系の通り道にもガス雲があり、オールトの雲と呼ばれる大小の氷を系外の星が掻き乱して内周に運び、地球に降り止まない雨をもたらした。

 現在でも見えない程小さな氷の粒から、野球のボール程度の氷塊は宇宙から絶え間なく降り注いでいる。

 それでも地表が水で覆われないのは、太陽の熱や地熱で蒸散して行く量と釣り合いが取れていると言われるが、地球の長い歴史からすると、そんなバランスが保たれている期間の方が短い事が分かる。

 かつて貝塚が築かれた山の中腹、海抜100メートル以上に海水が押し寄せ、人類はその数を減らしていたが、海と共に生きる遺伝子を残していた者達は、再び巡ってきた環境の中で適者生存し、ささやかな繁栄を謳歌していた。


 海

 強い日差しの中、浜辺から離れた場所に小舟が浮かんでいる。

 船とは言っても木造船ですら無いみすぼらしい物で、乾燥させた海藻や竹を編み上げて皿形にした籠のような代物である。

 骨格の浮力で浮いている、とても船とは呼べない大型の籠。その上に粗末な漁具が並び、水着姿の大柄な女性が海を覗きこんでいる。

 次第に視線の先から気泡が浮かび、海から小さな影が浮かび上がって来た。

「ピュイーーーーー!」

 海面に飛び出した少女が、笛のような激しく高い呼吸音を上げながら小舟に手を掛けた。

 短い黒髪を振って水滴をふるい落とし、船の上にいる母に収穫の入った籠を渡そうとする。働くにはまだ幼い、十代前半の子供である。

「ただいま、お母さん」

 素潜りで海中の貝や海草を拾い、籠につめて持ち帰る。

 日が高い間この作業を続けられる者だけが生きて行くのに必要なカロリーを得ることが出来る、地球の温暖期にだけ訪れる海の世界。

 摂氏15度から20℃程度の海水に浸かっていても体温を失わない、厚い脂肪を持った者だけが生きていける人類水棲進化論的な世界。

 だがこの少女の体は、体を守るのに必要な脂肪分を持ちあわせていなかった。

「オカニ、もう上がりなさい、唇が真っ青だよ」

 小舟の上から母が声を掛ける。母の体型は娘と似ておらず、海で生きるのに必要な脂肪を蓄えていた。

 強い日差しにも耐えるメラニン色素の多い皮膚、巨体を支えるための太い腕、足。

「ごめん、わたしじゃ大して貝も取れないし、息も続かないから」

 苦しそうに、収穫が少ない籠を持ち上げ船に載せようとするが、細い腕がガクガクと揺れて中身の少ない籠から貝が落ちそうになる。

「いいんだよ、お前が潜る時は錘も少なくて済むし、引き上げるのも簡単だよ」

 乾かした海草を束ねた紐を使い、錘に使う石を引き上げる母。褐色に焼けた逞しい腕が躍動し、重い石も軽々と船に上げ、日に焼けない体質の娘の手を掴んで引き上げた。

「お前は死んだ父さんと同じで、山の子なんだ。オカの上で走ったり、山の上から授かり物を貰ってくるのは得意だろ? あたしらは駄目さ、膝が痛くて山には登れないし、足元が見えないから歩くのは下手だしねえ」

 カラカラと笑い、大きな腹を揺らしながら邪魔な太鼓腹を左に寄せる。まるでトドかアザラシが波間の小舟に腰掛けているようで、とても歩行に適した体ではない。

「うん、帰ったら山に行って、水と山菜でも取って来るよ」

 水分補給一つを取っても、現代よりも薄い海水を大量に飲んでも腎機能を損傷しない特殊な体質が必要で、貝や海草、僅かに取れる小魚から全ての養分を摂取し、米や麦といった炭水化物を口にせずとも体を動かし、体温を維持できる特殊な体質。既に人類とは呼べないような水棲人類達、それがこの世界の主として君臨していた。


「じゃあ、ちょっと潜ってくるよ。海の神様のお恵みが有りますようにっ」

 オカニが船の上で体を暖めている間に、母が錘と籠を持って海に身を躍らせた。

 重い体重に似合わない軽やかな動きと、慣れた身のこなしで海に滑りこみ、大きな飛沫すら上げずに入水する。

「あ~あ、わたし、どうしてこんな体に産まれたんだろう? すぐ体が冷えるし、父さんみたいな山のヒトじゃないから重い荷物も持てないし」

 低温に震える自分の手を見ながら、日に焼けない肌と細すぎる腕を掴んで、筋肉の無さに愕然とする。

「こんな痩せっぽっちじゃあ、お嫁にも行けない、村を歩いても笑われるだけだし」

 現代では標準的な体型であったとしても、気候変動が凄まじい海の世界で、農耕に適した土地も失い、瞬発力の高い現生人類を活かすために必要な、エネルギー価の高い穀物を日常の糧として量産するのは不可能になっていた。

 山に僅かに生き残った野生動物がいるだけで、塩害で植生も変わってしまい、草食動物である家畜を養うだけの草原も無く、狩りなどすれば簡単に絶滅してしまう野生動物にも、旧人類を養って行くほどの個体数はなかった。


 この世界で生きて行くには、豊かな海からの授かりものを取り出すために、低い水温でも体温を保ち続ける分厚い脂肪。

 その逆で丘の上では汗ばかりかいて水で冷やし続けないと活動できない水冷の体。

 貝と海草だけを食べ、それでも尚太り続けて行く胃腸。

 海に潜って水圧に耐え、呼吸のために慌てて浮かび上がっても減圧にびくともしない循環器。

 数分から十分以上呼吸を止めて素潜りできる心肺機能。

 海水を飲んでも血液を濾し続ける強力な腎臓。 

 それらを全て持つ者だけが生き残り、一つでも欠けたものは死ぬ。それがこの世界での不文律、遺伝子に刻まれた掟であった。

「日に焼けても真っ赤になるだけで、大して黒くなれないし」

 オカニのように体脂肪も持たず、群れの個体とは外見も違い、素潜りの技能にも欠けた個体は群れの中で当然のように迫害される。遺伝子を残してはいけない存在だからだ。

 女のグループからは陰湿な虐めを受け、男達からは嘲笑を受け交配の相手には選ばれない、それは生物としての当然の本能でもあった。

 陸の上では素早く逃げることも可能だが、海の中では人魚同然の者達から体当たりを受けて獲物を落とされたり、様々な嫌がらせを受けるのが日常の個体は、群れからも外れて沖に出て、天敵である海洋生物に怯えながら、何かあっても救いを求められるのは母一人という悪条件の中、細々と日々の糧を得ていた。


「父さん、私も父さんみたいに若いうちに死んじゃうのかな? 山の水を飲んでないと、お腹を壊して長生きできないのかな?」

 太陽に手をかざし、今は亡き父に語りかけてみる。母とは違い、真水がなければ生きて行けなかった山の民、そのハーフであるオカニも、海水を飲み続ければ腎機能が崩壊して命を落とす。

「でも、こんな体で長生きしても仕方ないか、真っ白で痩せっぽっちのモヤシっ子、早く迎えに来て」

 空を見上げると、真昼に見える月以外にも、キラキラと光る鏡のような物が規則的に並び、水平線の彼方まで続いていた。

 夜には小さな明かりになるそれらも、昼間は太陽を反射して海を温め、多すぎる海水を蒸散させる作業を延々と続けていた

「父さんはあれも人間が造ったものだって言ってたけど、学校や教会で話すと、ものすごく怒られるんだよ。あれは太陽の神様の子供たちなんだって」

 山と海の宗教観の違いも迫害の対象で、山の伝承を語っただけで異端者扱いされる。

 父に寝物語に聞かされた伝承を、自分だけが知っている自慢話のように近所の子供に語ったが、教会から何度も罰を受けて以来、山の伝承は父と娘だけの秘密の言葉になった。

「空まで続く塔や海の中の街、空を飛ぶ機械に火を吹く車、全部話しちゃいけないんだよ、こんな話ができるのは、もう母さんだけ」


 数分後、海に伸びた紐が揺れ、小舟の左右に渡してある貝殻が鳴り始めた。潜っている者が上がるときの合図である。

 次第に小舟の周りに気泡が登って来る。潜水者が肺に残った空気を吐き出しながら使い切って、次の呼吸に備える印だ。やがて水底から黒い影が登って一気に海面を突き抜けた。

「ピュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 長い潜水から浮上した母は、独特の吸気音を響かせた。周りで聞こえるカモメやウミネコの声とは違う猛禽類のような高く長い音である。

 手に持った籠には貝と大量の海藻が詰まっていて、重い籠を片腕で軽々と船の上に放り上げた。

「おかえりっ、やっぱり凄いなあ、あたしなんかと全然違う」

 母の手を掴んで引き上げようとするが、両足で踏ん張っても重い体重を引き上げることができず、結局母は手慣れた仕草で体を回し、船の回転と揺れに合わせて寝転がり、船や籠を転覆させる事も無く上手く小舟に乗り上げた。

「ふう、あたしの子供の頃には、もっと沢山採れたんだけどねえ? ほら、オカの上にも桟橋があるだろう? 昔はあそこが浜辺だったんだ。何年も何年も掛けて下がって、今の新しい桟橋のとこまで来たんだよ」

 陸の上に行くほど石造りの建物が並び、下に行くほど粗末な小屋が並ぶ。上流の家庭が高い場所に家を構えているのもあるが、さらに上には文明レベルの違いを感じる高層住宅や石畳があり、下に降りるほど建築技術が下がって行く。

 海の後退とともに水棲人類の個体数が減り、文化、文明も後退しているのが見て取れた。

「みんなは海の神様が怒ってるっていうけど、もっともっと昔は、海の底にある石の城に、山のヒトと同じ痩せたヒトが沢山住んでいて、夜が無くなるほど明るい街があって、真っ直ぐで平らなオカがずっとずっと遠くまで続いていたんだよ」

 母が指し示す方向の外海に、崩れたビルの残骸が水面から突き出していた。

 壁面から木が生えて沢山の鳥が周回し、緑で覆われた小島のようにも見えたが、長い年月を経ても朽ちない材質でできた建物が海底から何本か顔を見せ、人類の栄華盛衰を物語っていた。

「うん、教会で少し習ったよ、背中に乗ったニンゲンが増えすぎて、痒くてたまらなくなったチキュウが、背中を掻いたり、体を震わせたりしたけど、それでも減らないからタイヨウに頼んで熱くしてもらったんだって」

「そうかい? あたしが父さんから聞いた話は、もっと怖い話だったけどねえ? 水の取り合いをして、悪いことばかりしてたニンゲンは、空や海まで燃やしてしまって、みんな海に食べられたんだって」

「でも神父さんはそんなの嘘だって怒ってた」

 水棲人類達の記憶からは、人類の文明はほぼ失われていた。

 建築や造船に対する僅かな知識は、山のヒトと呼ばれる住人達に、ほんの少し受け継がれていたが、生活に不要な数学や物理といった人類の英知は、伝説の彼方に消えていた。

「好きに言わせておけばいいさ、なんでもかんでも神様神様、空に浮かんでる鏡も、月から出てる塔も全部神様が作ったなんて、山の学校に言ったら全部ウソだって分かるよ」

「うん、でも働きもしないで学校に行くなんて嫌だよ」

「いいんだよ、お前は選ばれたんだ、教会の試験も全部満点、山の楽校から「来てください」ってお願いされてるんだ。向こうからお金まで出してくれるんだから、堂々と行けばいいんだよ」

 村の学校で読み書きと計算程度を習い、試験を受けて選抜された者や、寄付金を支払った者は山の学校に通う事になっていた。

 オカニのように成績が良く、生活に不安のある物は現在の奨学金制度のように生活費の補助も行われていた。

「うん、お母さんも山の学校に行ったんだよね?」

「そうだよ、そこで父さんと出会って、お前が産まれたんだ」

 海彦山彦、ロミオトジュリエットのような恋愛。それは稀にオカニのような悲劇の子も産む。

 山にも住めず、海にも暮らせない。どっち付かずで体力にも恵まれない、痩せっぽっちで腕力も脚力もない。


「ねえ、母さん、ヒトがお月様まで行ってたって本当?」

 真昼の空に白く月の影が浮かんでいた。目を凝らせば、月から細い尖塔が突き出ているのが見え、その周囲にはテザーと、地球に送り出されるはずだった物資が浮かんでいる。

 真昼に星が見えるような視力があれば、全てが人類の文明の産物と確認できたが、視力が求められる陸上の狩猟生活と違い、海での漁と水圧は、水棲人類達の視力や聴力に大きな障害をもたらしていた。

 海の生活に適正を持たない者は、水圧により比較的若年で聴力や視力を失い、社会保障など存在しない世界では、漁が出来ない個体は海に還るのが鉄則となっていた。

「さあ? 父さんは本当だって言ってたけど、お月様は海も魚もいない所だから、ヒトの行く場所じゃないって聞いたけどねえ? でもそんな罰当たりなことばかり言ってると、神父様にとびきり苦いお薬飲まされるよ」

「やだーー!」


 やがて日が傾いて来た頃、湾の入り口に船が見えた。

 オカニの乗っているような粗末な物とは違い、丸太を削って竜骨に繋いである立派な船である。海藻を編んだ帆を持ち、舷側からはオールを出して漕げるようになっていて、他の地域まで行ける

 都市や平野を失って数千年、人類の技術も大半は失われているが、山のヒトと呼ばれる者達は、材木を水で熱して曲げ、加工して家や船を造る程度の力は残していた。

 貨幣制度も僅かに機能していて、海の幸と山の産物を交換する交流も行われている。

「おーーーーい!」

 その船の上からオカニと同じ年頃の少女が手を振って大声で呼んでいる。

 体型はもちろん、厚い皮下脂肪を持ち、足元が見えないほど大きなお腹を膨らませ、胸当てと腰回りを隠す水着から惜しげも無く張り出させ、ゆさゆさと震わせていた。

「お嬢、落ちたら危ないですよ」

 この時代での最も美しい肉体を持ち、恵まれた家庭で何不自由なく育った少女。

 船主の娘であり、大きな養殖場や、他の地域との取引も手広く行なっている地元の名士の娘は、船員たちの羨望の的であり、若くはち切れそうな黒い肉体は、村の若者からの視線も釘付けにしていた。

「へっ! この浜はあたしの庭だよ? 危ないことなんてあるもんかい。そうだ、魚一匹貰ってくよ」

 言うが早いか生簀に手を突っ込み、エラに手を差し込んで大きめの魚を掴み出し、腰の籠に放り込んだ。

「後は頼んだよっ!」

 地主の娘、ニナは甲板を走って横切り、手すりを飛び越えて海に身を躍らせた。

 この時代では均整の取れた肉体を大きく震わせ、見事な飛び込みを決めた少女を見て、男達はため息を漏らした。

「「「「「「おおーー」」」」」」

 体重に比例した轟音と水飛沫が上がる。まだサメも出る湾の入り口なので、男達は慌てて小舟を出し、ニナを追いかけようとし始めた。

「無理無理、泳ぎ出したお嬢に追いつけるはずがねえよ」

「やっぱり親方の跡取りは、お嬢しかいねえよなあ、腕も立つし度胸も満点だ」

「ああ、後は男だったら言うこと無しってやつだな」

「ぎゃっはっはっ!」

 船乗りたちの下品な笑い声を背に、オカニの小舟に向かって泳いでいくニナ。

 太い体に似合わぬ身のこなしで、素早く、無駄なく泳ぐ姿を、男達は惚れぼれしながら見送った。

「お嬢は気風も良いし、あんな貧乏人にも情が厚い、全くいい女だなあ」

「おめえは気風の良さじゃなくて、腹の大きさに惚れたんだろう?」

「がっはっはっ!」

「全く、あっちの白い痩せっぽっちの蚊トンボとはえらい違いだぜ」

 まるで汚い物でも見るようにして、吐き捨てるように言い切った船乗り。

 荒くれ者とはいえ、本来気立ての良い連中ばかりであったが、その台詞に反する言葉を発する者は誰一人としていなかった。

「あのクソガキ、お嬢が良くしてやってるからって調子に乗りやがって、上物の鯛なんてもったいねえ、臭えサメの肉でも食ってやがれ」

「一度痛てえめに合わせてやらないと分からんようだな」


 海からも手を振って、にこやかに合図を送っているが、この時代でも余りにも身分が違う二人。

 周りの者だけが気を使って交友を禁じようとしていたが、何もかも違う二人は何故か馬が合った。

「よー、遊びに来たぜー」

 船と小舟の間を泳ぎ切り、オカニが乗る小舟に乗り込むお嬢様。

「お帰り、今日はどこ行ってきたの?」

 みすぼらしい小舟に手を掛け、太い体を載せるニナ。船が揺れて籠や板の上から食べ物が転げ落ちるが、細かい事は気にしない。

 身に着けている物も段違いで、干した海草から編んだ、粗末な水着を着けているオカニと、魚やイカの皮をなめして、その上に光るウロコや、七色の貝を丁寧に縫い付けてある高級品を身に着けているお嬢様。

「ああ、隣村までお使いさ、品物受け取って後になってから、払えないだの、安くしろなんて言ってきやがって、しみったれた連中だよ全く。ほい、お土産、すぐ食おうぜ」

 荒い運び方ですっかり傷物になった鯛を差し出し、首を切り落として海に捨てる。

 普通の家庭では鯛の頭も食材で、目やエラでさえ高級食材なのを知らない娘と、言っても無駄なのを知りつつ、沈んで行く高級食材を目で追って、もったいなさそうに見ている貧乏な娘。

「ちょっと、もったいないってば、魚の頭を食べると頭も良くなるのよ」

「へっへっへっ、バーカでーす、魚の頭嫌いでーす」

 ふざけて変な顔をしながら頭の悪そうなゼスチャーをするニナ。そこでようやく小舟が追いついて、オールを海に入れてブレーキを掛け、近くで止まった。

「よーい、せーーーーっ! さあ、お嬢、ここらはサメが出ますんで、こっちにお乗りください」

「あ、皆さん…… いつもすいません」

 何度もニナと会わないよう家の者に注意されながら、いつも本人が会いに来てしまい、毎回土産物まで貰っているので、小さくなってペコペコしているオカニ。

「気にすることはねーよ。しかしこの様子じゃあ、テメエらまたクソババアの口車に乗って、有ること無いこと、こいつに吹きこみやがったな?」

 険しい表情で振り向き、小舟に乗った若衆を睨みつけるニナ。

 つい先程までオカニと母を厳しい目で見ていたはずの若衆が震え上がり、目を逸らして姿勢を正した。

「自慢じゃねえが、このあたしは学校一のバカだ、何せあのクソ親父と同じ頭だからなあ? そのバカに九九の覚え方から読み書きまで、今の今まで懇切丁寧に教えて下さった先生は何処のどなた様だと思ってやがる?」

「へい、そこのお嬢さんでさあ」

「おお、よく知ってるじゃねえか兄ちゃん。それを五回も六回も同じこと言わせやがって! クソババアに何と言われた? 言ってみろや!」

 顔を見合わせ、黙りこくっている若衆達。ここまでドスの効いた声で怒鳴られれば答えた方が身のためだったが、正直に答えたりすると本当に命が無い。

「ええと、貧しい家のお嬢さんといると、貧しいのが伝染るとか何とか……」

 目を泳がせ、致命的な言葉を避けようと努力してみたが、ニナの表情を見ると、結局命が無くなりそうなのを悟った若衆。

「ほほう、さすがクソ親父に金で買われて来た、薄汚い上流階級とやらのお嬢様だ。このあたしが、あんなババアの股ぐらから、クソと一緒にひり出されて来たなんて、考えただけで気持ち悪りぃや」

「へ、へえ」

 そのとおりとも何とも言えず、黙ってしまった一同。

「なあ、その馬鹿が、今度は山の上の学校まで行かにゃあならんのだとよ? どうする? 九九が分からなかった馬鹿がインスウブンカイでサインコサインタンジェントだとよ。オカの上に荷揚げされて沖絞めされた魚が、どうやって生きてたら良いか教えてくれや」

 荷揚げされて、口をパクパクさせながら、白目向いて平地でビチビチ暴れて息もできない魚の真似をするニナ。

 笑いたくても笑うと、お嬢にぶっ飛ばされるので、笑えない気の毒な若衆。

 でもオカニは若い娘なので何を見ても笑ってしまう、船乗りの気が荒い連中の前でも、友達がふざけて魚の真似をしているので笑ってしまった。

「こいつっ、お嬢を笑いやがったなあっ」

「貧乏人の山娘がっ、何様のつもりだっ!」

 その人数を数えて、顔を覚えられた、気の毒な若衆。

「でも、オカニが気に入らない馬鹿は今ので分かったよなあ?」

「流石お嬢さんッス、叔父貴と同じで地頭は切れやすぜ」

「さてテメエら、ちょっくらサメに食われてみるか? おおっ?」

 その若衆も含めて、ニナに蹴り落とされて、サメもいる入江から桟橋が有る港まで、自分で泳ぐように言い渡された。


これもどこかのアニメ脚本に出そうか、小説の新人賞に出そうかしている間に放置していたものです。

三人称成らず程度の文章でも脚本でもなし、マルチ視点なんちゃってラノベぐらいの話です。

保存していたのを以前紛失して、探し出しても無かったり、出てきても肝心な部分がなかったりしたので、継続でもまっ更でもないので、書き直しん有るのでしんどそうです。

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