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ネコにごはん  作者: 三波直樹
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森崎の変 後編

 握力が強くない私でもエスカレーターの手すりが変形して軽く浮き上がる程度握り込んでいた。目を凝らして天井のお手洗いの案内板を探して歩く。

 辿り着いたときにはドアが閉まった四つの個室と手を洗う初老の男性がいるお手洗い。出口へ向かう初老の男性と会釈を交わし順番を待つ。お手洗いとアダルトコーナーでは不思議と男性は紳士になる暗黙の掟がある。しかし、その紳士の社交場に新しい風が吹いた。ウォシュレットだ。たぶん手前の個室の二人はまだ用を足している。でも奥の二つからは違う気配が感じられた。一人は先ほどから洗浄しっぱなしだ、あんなに長く排尿していたら干からびているはずだ。そしてもう一人は温風乾燥をしている、そしてもうとっくに乾いているはずだ。そうでなければ中にいる男の肛門はところてんかなにかでできている以外に説明がつかない。

 ノックはしない、そう決めていた。奥の二人より、手前の二人に迷惑になる。お手洗いに響くノックの音は、自分の扉でなくとも出している最中の人にとっては注文していない荷物の受け取り、雨に濡れた子犬になってしまう。咳払いを繰り返し自分の存在をか細く主張すると、一番奥に入っていたところてんが出てきた。私は先ほどの初老の男性と同じようにところてんと会釈を交わし個室に入り、ズボンとパンツを脱いでパンツに付いた便をトイレットペーパーで拭き取り水に流した。パンツはトイレットペーパーで包み、トイレのゴミ箱へ。デパートでパンツを一枚だけ購入する私を、店員さんは笑顔で見送ってくれた。車に帰ると彩弥ちゃんが「漏らしたんですね」と私に言った。たしかに三十分は長すぎた。さっきの便と、彩弥ちゃんの今日の記憶、どちらかしか水に流せないのだとしたら、答えは便のようには出てくれなかった。

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